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中編4
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タスケの話『着信拒否』

以前、私はある特殊能力を持つ男と付き合っていた。彼の名前はタスケ。彼のような特殊能力が全くない私としては、彼と過ごした日々は今も忘れられない。

「ねぇ、怖い話して」

「めんどいからやだ」

いつもの会話だ。タスケは私に見えないモノが見えるのに、よっぽどのモノでないと話さない。まぁそれは私の憶測であって、もしかしたら話せないのかも知れない。最近気付いたのが、見える人は見えない人より隠し事が遥かに多い事。

「あ、」

携帯の奥から小さく聞こえた。私は聞き逃さない。

「何?なんか思い出した?」

「あ〜、そういやこの前店であった。死ぬかと思ったわほんと」

こうして携帯越しに就寝前恒例の怖い話が始まった。

タスケは自営業を営む両親を手伝っている。小さなレンタルビデオ店。彼が店長になる気配はまだない。

運良く近くに大手レンタルビデオ店はなく、彼の話によると経営はまあまあ上手くいっている。この不景気に自営業は案外強いのかも知れない。

それは平日夜遅くに起こった。店の上は彼ら家族が住む家で、母親は既に上がっており、父親は店のスタッフルームで休憩中。店番のタスケはカウンターでポップ作りをしていた。

閉店まで後1時間というまったりとした雰囲気のなか、一人の客がやってきた。

ここにきて初めて言うが、タスケは『見える人』ではあるが、『完璧に見える人』と違って、時々間違える事がある。そんな事があるものなのか自分は到底わからないが、まぁそんな事もあるのだろう。それがタスケだ。

そして、彼は間違えてしまったのだ。

「いらっしゃいませー」

腰まである綺麗な髪の女性客。そう頭が認識して作業を続ける。

黙々と作業をしていると、気付けば閉店間際。店内をふっと見ると、何かと目が合った。

DVDがたくさん並ぶその中に、彼女はいた。隙間からこちらをジィッと見ている。

『嗚呼、間違えた。』

全身が強張る。このまま彼女が何もしてこない事を祈った。

ゆっくりと瞼を閉じ、心の声を発する。『あなたは亡くなっています。でも俺には何もできない。どうすることもできない。』

ゆっくり瞼を開ける。彼女はいない。よかった、そう安堵の息を漏らした時、頭に何かがパサッと落ちてきた。反射的に見上げた。

彼女が、いた。物理的に天井にしがみつく事はできないのに、彼女は吸い寄せられたように手足が引っ付いている。彼女の長い髪がタスケの頭に垂れる。

目の前僅か数センチの距離で見ると、左目がぐちゃぐちゃで血が溢れ出した後なのか凝固している。

また鼻がへし折れて右に曲がっており、顎も外れて下顎が右に大きくズレている。血と混じった唾液がタラッと顎のラインをなぞった。

唯一原型を留めていた右目がくるくる動いている。

タスケは失神しそうになりながらもカウンター下のボタンを押した。けたたましい音が鳴り響く。それに反応したかのように彼女はサァーっと消えていった。

「…お前眠れなくなったろ?」

タスケのちょっと小ばかにしたような言い方にハッとした。相槌を打つ事さえできずに話を聞いていた。

「い、いやぁ普通に怖いね…」

「まぁでもこれで終わりじゃないんだよね」

タスケは話を続ける。

ベルの音を聞きつけた親父がスタッフルームから出てきて一応一部始終話したんだけどさ、今度は親父が失神しそうになってんの。俺それでなんか平静取り戻して親父の話聞いたんだけど。

親父がニュース観てたら、数時間前ここの近所でひき逃げがあったんだと。女性が亡くなったみたいで、親父がその人が助けを求めに来たんじゃないか、とか言い出すから、ちょっと気になってさ。いや、あの人確実に死んでたと俺は思うんだけどね。しかも亡くなって助けを求めるって…もうそこでまず怖すぎだろ。

でもあんまりにも親父がいろいろうるせーから気になって現場に行ってみたんだよ。まぁ近所すぎてびっくりしたけどね。

もうその場所にはなんかの破片拾ってる警官数人しかいなかったよ。もちろん遺体もない。何せニュースっつっても中継じゃないし、数時間前にひき逃げがあったんだろうし。

で、俺帰ったのね。警官に「轢かれたであろう女性の幽霊が来ました」とか言えんだろ普通。

で、今朝のニュースでそのひき逃げした犯人が捕まったって報道があったんだけどさ、犯人の名前見て、俺また気絶するかと思ったマジで。だって店の常連さんなんだよ、その人。で、事件当日も来てたんだよ。

てことはさ、考えたくないんだけど、あの女の人、探してたんじゃないかって思うのね。犯人を。俺の勝手な予想だから真実はわからんけど。

でもあの日は一生忘れられんと思う。そういうの慣れたと自負してたけど、やっぱこえーわ。

「…って、聞いてる?」

聞いていたけど怖すぎて、やっと唾を飲み込めた。

「…うん、聞いてるけどさ、これからは一人でいる時にタスケの恐怖体験聞くのやめる事にします」

「あ〜はいはい。あ、何かレンタルしたかったら借りてきてあげるから安心しなさい。でも代金はよろしく〜」

翌日、タスケは頼んでもいない『着信アリ』というホラーもののDVDを持ってきた。一週間着信拒否にしたのは言うまでもない。

怖い話投稿:ホラーテラー プンスさん  

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