長編7
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糸切り菩薩

music:5

新年早々、とある青年は、彼女への思いを証明するべく

山々深くの山村へと来ていた。

青年の名はA…そう愛すべきお馬鹿な”トラブルメーカー”

であり、

ひとまわり歳の離れた、

俺のいとこでもある。

以下はそのAから聞いた武勇伝だ。

ここの所、よく彼女と喧嘩をするのだという、

『Aは私のことわかっていない。』

だとか、

『いつまでもそんな優柔不断じゃ一緒にいれない!!』

だとか…

誰しも付き合いが少し長くなり始め、

馴れ合いがイライラをつのらせる、

そんな時期がくる、

Aと彼女は倦怠期というやつへと入ったのだ。

そんな時Aはすぐに呪文を唱える

『どうしよぅ…兄貴…ウルウル』

ウルウルは一つの表現だが、彼の与える不快感が伝わればそれでいいと思う。

『心配すんな、そんなのは良くあることだ』

と俺は受け流す、もう、こいつも独り立ちをするべきだし、俺には俺の考えなく

てはならないことがあるのだ。

なにせ、俺には、自分がどのようにして、生活しているのかすらわからない。

このボロ部屋も家賃滞納2ヶ月目だ。

そして、このボロ屋に、あの日以来、彼女は来ていない。

Aの前にも姿を表していないのだという…

きっとそれが彼女の、Sの答えなのだろう…。

助けを求めた兄貴分にも、

今回は見放され

いよいよAは、神頼みをしようと決めたのであった。

そこで、Aは最近読んだ、

オカルトコミュの一文に目を付ける。

それは、

糸切り菩薩(ぼさつ)

に、お参りに行き、何か刃物をお供えしてくる、という物だった。

(菩薩: 自らのためだけでなく、他人の利益になることも 考えつつ修行する

人々や地蔵。仏に次ぐ崇拝対象ともなっている。)

”断ち切りたい運命の糸を切ってくれる、糸切り菩薩がいる”

そんな書き込みを見て、Aは彼女との”別れの運命”を断ち切って貰おうとさっそ

くその糸切り菩薩のいる、このド田舎へとやってきた。

そこは、新幹線で2時間、さらに電車を乗り継ぎ2時間…そこからさらにタクシー

に揺られるという…遠い、物凄く遠い…。

Aは彼女と付き合ってずいぶんと変わった、

もともと俺とAは、2人でよく、しょうもないことをしてきたし、話も凄くして

いた。

それぞれ、お互いの事を何でも知ってるんじゃないかというくらい軽く気色のわ

るい二人だったと思う。

俺たちの世界はネットとこの部屋で繰り広げられる討論が全てだったものの

今やAはアクティブに外へと飛び出している。

少しそれを嬉しくも、寂しくも思う俺がいるがそれはまたの機会に話すとしよう。

駅からタクシーに揺られること数十分、

『お客さん、ここ山しかないけどここでいんですかい?』

とドライバーのおじさんは訪ねた

『たぶん、ここでいんだと思います…』

と不安げにAは答え、ついでに1つお願いをしてみた。

『これ、差し上げますから、30分くらいここで待っていてはもらえませんか??』

と言うAの手には新幹線にのる前に買ったエロ本と冷えきっている缶コーヒーが

握られていた…

『のりかかった船だ、お客さんも何か思いつめた顔してるし、男の約束だ、私は

お客さんがここに戻ってくるまでお待ちしましょう。』

と親指をたててから、気さくなドライバーさんは物を受け取った。

Aが長旅を終え目的地につく頃にはすっかり夜が全てを包み込み明かりと言え

ば、ぼやけた月明かりのみ

今夜は曇り星の光は届かない。

カバンからライトを取り出すと

、一緒に一枚の写真が飛び出してしまい、少し湿った落ち葉の上へと落ちた、

Aはそれを拾い上げ見る、

彼女とAの写真。

それをカバンの中のエロ本にはさみ、

『よし、いくぞ!!』

と歩き始めた。

山道に作られた人口の木材階段を上ること数分、目の前には、大人一人が通れる

くらいの小さな鳥居とひどく廃れた社があらわれた。

ここでAは、携帯を開き、ブックマークしておいた、糸切り菩薩のページへ、と

び、お参りをするためのルールを確認する

1、誰にも見られないこと

2、鳥居をくぐったら音を立てないこと

3、使い慣れた刃物を持って行き、断ち切ってほしい物を思いながら菩薩に刃物

を突き刺すこと

4、菩薩の目はみないこと

ルールは以上の4つ、

これで願いが叶うなら不気味だけどやるだけの価値はあるだろうとAは鳥居の前

で一礼をして、

鳥居をくぐってまた一礼をした。

勢いよく下げた頭を上げるときにかぶっていたキャップが地面に落ちて、

つばの部分がカツっ…と鈍い音を響かせる…

『あっ…』

こんなにも小さな音でもこの無音の山の中ではたしかに響いて聞こえた

鳥居をくぐった瞬間にルールをやぶってしまった....

音と同時にビクッと硬直する体のまま、視線だけを左右に泳がせる

右へ....左へ.....

とくに変わったことはない…

ふぅ...と胸をなでおろし社のほうへと視線を戻す。

暗闇の中、数メートル先にその社は静かにたたずんでいる

その社の中にいびつな形をした人影が見える.....

Aはまた身構え、視線をその社の中へと集中させる

暗くてよく見えないのだが社の中には地蔵が一体いるように見える。

まるで人影のように見えるその地蔵に今からAはお参りをしなくてはならない。

その場にとどまっている事も、進む事もAはしたくないと思ったが....

ここまできたのだ、行くしかない。

一歩、また一歩、

震える足に、自分自身を勇みながら

近づいて行く。

一歩、また一歩....

地蔵の姿が少しずつ、鮮明に見えてくる。

二、三段の小さな階段があり、その上に上がったところに

地蔵の足が見えている

ルールその4

菩薩の目はみないこと

それを頭に置き、Aはビクビクしながら、その地蔵の前まで来た。

地蔵の足を見つめたまま、かばんをあさる。

ごちゃごちゃと乱雑に入れた荷物の中、Aの指に冷たく、硬いものが触れる...

ルールその3

使い慣れた刃物を持って行き、断ち切ってほしい物を思いながら菩薩に刃物を突

き刺すこと

Aが持ってきた刃物は、

持つところがウサギの顔になっているハサミだ。

以前、Aの部屋でハサミを使おうとしたとき、なかったのを覚えていて、

『これ、部屋にないと不便でしょ?』

と彼女がくれた物だった。

そのハサミを握り締めAは階段を上がる。

未だに視線は地蔵の足にあはせたままで。

ドクン.....ドクン....

と鳴る自分の鼓動がこの静かな夜に鳴り響いているように思い、

慌ててハサミをもったまま手を胸に押し当てる....

ドクン.....ドクン....

ドクン.....ドクン....

ドクン.....ドクン....

よし....行こう.....

あぁ神よお許しを....

地蔵は目の前に静かに立っている。

右手に握ったその刃物を少し後ろへと引き、

後は振り下ろせば、地蔵に刺す事ができる。

その時、刺そうとして見た地蔵の体には、

いくつも、いくつも、切り傷のような痕や、突き刺さったままの刃物が、

痛々しくわずかな月明かりに照らされていた

またその場に止まってしまう。

Aは幼少の頃に読んだ、身代わり地蔵の話を思い出して....

最後はお地蔵さまが壊れて、みんなはそのかわりに幸せを得る。

そんな話だったよな....と思い出していた。

今までこのお地蔵さまはどれだけ、他の人の為に体に刃物を突き立てられてきた

のだろう...

人は、自分の思いが叶えば他の犠牲など、見えなくなるのだろうか.....

そして自分のやろうとしていたことの卑しさに、身勝手さに、

気持ちが深く深く沈殿していった。

Aは視線を上げ糸きり菩薩を見た。

全身に突き刺さったままの複数の刃物...

そして優しく微笑むその顔は、

人のエゴを全て受け入れよう。

ここに、その気持ちは置いていきなさい。

と、さとされたように思えた。

『僕は、彼女との別れの運命を断ち切って、もらいたくて、ここにきました。』

『ですが、あなたにこの刃物を突き立てることはできそうにありません.....』

そう言うと、静かにハサミを地蔵の足元に置きAはその場を後にした。

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その後は待っていてくれたドライバーさんにお礼をいいつつ駅まで送ってもらった、

その帰りの道中、眠りに落ちていたAは、夢を見た。

それは暗闇の中....

スッ…スッ…ギギギ.....

と、まるで刃物が擦れ合っているような音が、近づいて来る。

そして臆病なAはひたすら逃げようとするのだが、いくら走っても、

スッ…スッ…ギギギ.....

音はどんどん近づいてくる。

スッ…スッ…ギギギ.....待ちな...さい

はっきりと聞こえてくる声に、Aはもっと逃げる。

スッ…スッ…真実をギギギ.....

スッ…スッ…ギギギ.....ギギギ.....見なさい。

Aは何がなんだかわからないまま逃げ惑う。

ギギギ.....スッ…スッ…ギギギ.....

スッ…スッ…ギギギ.....

音が聞こえる感覚が近づく

スッ…スッ…ギギギ.....

スッ…スッ…ギギギ.....

…ギギギ.....

そして耳元で囁かれた。

『お前の、断ち切るべきもの他にある...兄を失うといい』

その瞬間にAは目を覚ました。

『お客さん、大丈夫ですか?うなされてましたけど、もう駅に着きますからね。』

とドライバーさんにいわれ、Aは夢を見ていたと確信した。

Aはその後、家へと無事戻り、この話を、俺にしにきたのだという。

『そりゃあ、俺離れしろって菩薩様のお告げだろうな』

笑いながらAにそういってみたものの、俺まで少し怖くなってしまう

そう、人生とは理不尽なものだ。

俺をなんにでも巻き込むな。

Aはそのご、少しくだらない話をしてから、

よし、行ってくる!!

と、彼女と仲直りをするべくあいにいった。

Aは確実に変わっていっている。

数多くいる、好奇心旺盛な怖がりのひとりから.....

無謀なトラブルメーカーに奴ならなりそうで最近少し心配だ。

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コメントありがとうございます。
お褒めのお言葉嬉しく思います
ですが、できれば他人の中傷等はやめて頂ければ光栄です
誰が誰の事をどう思おうがみんなたいして気にしていないと思いますので
あまり人のために助言しすぎても、通じない事もあるかもしれません。
ゆるく行きましょう、少なくとも僕にとってここは楽しみの場なので...失礼いたしました。

申し訳ありませんでした。

わかりますか。

自分はこのような投稿者のように良い作品をたくさん読みたくて意見をしていたのですが無駄だったようです。

相変わらずいい作品を作りますね。

ある人にわからせてあげたいです。