昔、看板を制作する仕事をしていた時の話だ。
築30年以上の古い二階建ての木造住宅の賃貸物件が会社でした。
玄関ドアを開くと角度のきつい階段が真正面に見え、階段と平行に居間につづく短い廊下があり、その先の木製のドアを開くと八帖位の居間がある。
そこに1m×2mのカッターマットを敷いた作業台を置き、そこが作業場兼、休憩室になっていて、その隣の和室は引き戸を全開にし、仕上がった看板の一時保管場所兼、道具置き場になっていた。
社長と俺とS君の3人と少人数なので徹夜になる事もしばしばだった。
ある日、相方と一緒に一階の作業場で夜遅くまで作業していた。気づけ ば午前様、あと3時間後には現場で高所作業をしなきゃならんと言う事で仮眠する事になった。
仮眠をするといっても固い作業台に寝ころぶか、2階にある事務所の小さく汚いソファーに座るかだ。じゃんけんで俺が固い作業台に寝ることになった。
疲れのせいか固い作業台でもすぐに眠りに落ちた。そして自分が作業台に寝ている夢をみた。作業台からは和室が見える。その両脇に開いた扉の左側からスーッと真っ白い着物の女の子が出てきた。
90度回転し、俺の方にスーッと宙に浮いているかのように近づいてきた。その女の子は和人形をそのまま大きくしたような感じで、おかっぱの後髪が長めで顔が白く、唇は紫色の紅を塗り、着物の帯に扇子を挿してあった。
しばらくその女の子は無表情で俺を見つめていた。俺もその子を見るしかなかった。その子はふいに両腕を前にだし俺を掴もうとしてきた所で、相方に起こされた。
「うなされてたけど、どんな夢みたんすか?」
俺は別に夢で襲われたわけじゃないし、たいした恐怖も味わってない。
俺は以前から、看板やサインを付けた後のイメージを絵で描き提案もしていたので、絵には自信があったので、S君に夢の説明をしてやると、「どんな感じの子なんすか?見てみたいな~」っと軽い感じでいわれ、軽い気持ちで描きだした。
描き出した直後から耳鳴りがして、描いている時の記憶が後半まったくない。その事は睡眠不足だし集中しすぎたからだろうと自分自身を納得させたが、描き終わった絵は本当に俺が描いたのかと思うほどいつもとタッチが違った。描きあがった絵は和室を背景に無表情の女の子が立っているだけというシンプルでいつもより下手だが妙にリアルで気持ちわるい絵になった。
S君は、「へ~、こーゆー絵も描くんすね、なんか・・・雰囲気でてますね」とだけ言い顔を強張らせた。時間がきたので、その絵は作業台の上に置いたまま現場に行く準備をして出発した。
無事高所作業も無事終了し、会社に帰って来るころには、絵の事など忘れていた。会社につくと社長がいて挨拶をかわし、2階の事務所で昨日今日の報告なども含め雑談していると、「これ、俺君が描いたのか?」と社長が俺の目の前 に一枚の紙を差し出した。
それは朝方俺が描いた絵だった。社長が会社に来ると俺たちの姿はなく、現場に行く予定も知っていたので、そのまま階段を上って事務作業をしていた。
しばらくして一階の作業場から「ガタンッ」となにか重いものが落ちる音がしたので、不審に思い一階に下りて確認するがなにも落ちている物はなかった。また2階に戻り事務作業をつづけていると、今度は階段の下あたりから何かが落ちる物音が聞こえたので恐る恐る確認すると階段を下がりきった廊下にこの絵が落ちていたそうだ。
「まさか原因がこの絵じゃない と思うけど、あまりにも気持ちの悪い絵だからさぁ、どうしてこんな絵描いたの?」と言われ、朝の経緯を社長にも説明した。
S君がぼそりと「風に飛ばされたんすかね~」の言葉で思い出した。窓は昨日から開けてないし、描いた絵は作業台の上で、しかもペンを紙の上に置いていたので飛ぶわけがない。
しかもまたぼそりと「目がでかくなってません?・・・」と、俺も朝だったしあんまり覚えてないが、ただ気味の悪さが増しているのはわかった。「気のせいだろ・・・」と返して、丸めてゴミ箱に投げ入れた。物音の件は、以前から、不思議な現象もままあるので深く詮索しないようにした。
そしてそのあと残ってる作業をすませ午後8時には社長と俺らはその日の業務を終え家路についた。
次の日の朝、出社して1階でS君と昨日の後片付けをしていると、和室にクシャクシャに丸まった紙を見つけS君が「そのゴミ2階で捨て たあの絵だったら怖いっすよね~」と笑って言ってきた。
俺も「そんなわけないだろ~」と笑いながらも、もしそうだったらと不安だった。一応確認しないと気になるのでそのクシャクシャの紙を広げた瞬間、全身の血の気が引き、叫ぶこともできずその場で固まってしまった。
しかも俺が描いた女の子は腕を下げていて着物の袖で手が隠れていたのに、今見ているその絵には両腕を前に伸ばして指までも見えている。夢でみた光景とそっくりだった。
俺の様子を見て「またまたぁー、やめてくださいよぉー」と後ろからその絵を見た相方はとっさに俺から紙を取り上げ、ビリビリにやぶりゴミ袋に投げ入れ袋をしばり外のベランダに出した。
そのあとしばらく二人とも放心状態だったが、どうすることも出来ず無言のまま仕事にとりかかった。
描かなきゃよかったと心底後悔した。
その日の作業のほとんどが先の尖ったカッターを使用する作業だった。ずっとあの絵が気になり、外に出したガラス越しに見えるベランダに置いたゴミ袋をチラチラ見ながらで作業に集中する事が出来なかった。しかも作業後半に使っていたはずのカッターが見当たらなくなり、あと少しという事もあったので近くにあった錆びたデカカッターを使用した。
力を入れすぎた!!と思った時にはもう遅かった、定規から外れた刃は勢いよく定規を押さえてた手を直撃し、人差し指の先端の肉を削り、親指の第二関節で止まった。血が吹き出し俺の廻りは血だらけになってしまった。
カッターで手を切る事はあっても骨が見えるまで切ったのは初めてで、オロオロと情けない姿をS君に見せてしまった。その後社長に連絡をしS君の運転で病院に連れて行ってもらい10針も縫った。
病院での処置を終え会社に戻り、床や壁に飛び散った血を拭こうと中に入ると、 すでに社長が掃除したあとだった。
社長はどことなく青ざめた顔をしていた。「傷、大丈夫か?」と声をかけられ、しばらくまともな仕事が出来なくなり申し訳なく思い「すみません」と返した。
そして社長はしばらく黙り、作業台に置いてあったタバコケースを手に持ち、それを俺に差し出しながら、恐ろしいことを言い出した。それは俺とS君が病院に行った直後、会社に戻った社長は、血だらけの作業場を掃除するために外に置いてある掃除用具を取りにベランダに出ると、ごみ袋の中でガサガサ音がなっているというのだ。
社長は虫だと思い気にせず部屋に戻り掃除をし、血の付いた雑巾やティッシュを捨てる為に、まだ空きのあるベランダのごみ袋を開くと、さっきの音の正体であろう大きめの昆虫が勢いよく飛び出した事で、驚きごみ袋をひっくり返してしまった。
散らばったゴミの中で見つけた物をこのケースにいれているらしい。
開ける前から予想は出来た。耳鳴りがすごかったから。
ケースを受け取り恐る恐る出してみた。やっぱりS君がビリビリにやぶった絵だった。紙切れはちょうど女の子の指をかすめる形で破られており、女の子の指には俺の血がべったり付着してた。その血はたぶん雑巾等についた血が絵に付着しただけなんだろうけど、
正直怖かった。今この絵の状況もだけど、もし、この絵がゴミ処理所に行っていたらと思うと、本当に怖かった。
S君は「やばいやばい、やばいやばい」と出川哲郎のようになっていたのが、今となっては面白い出来事だ。
そのあと、神社やお寺に相談しに行った方がいいと言われた次の日、どこに相談していいのか解らず、近くのある神社に相談しに行こうと紙を持って行くが、鳥居をくぐる直前に激しい耳鳴りと頭痛に襲われその場に倒れ、病院に搬送された事があった。
偶然かもしれないが、神社に行くのは諦めた。
絵はもう二度と見ないと決めケースのまま鉄の箱にしまって、大事に保管する事にした。
あれから10年は経つが、たまに箱から音が聞こえるだけで、とくに害はない。
作者欲求不満
miminariの前の話です。
グダグダした内容ですが、宜しくです。