学校の七不思議 〜始まり〜

長編10
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学校の七不思議 〜始まり〜

時刻は午後8:47。

昼間約束した通り、一同は私服に着替え学校の正門に集まっていた。

男性陣は、Tシャツにズボンと、無難な格好だが、女性陣はそうでもなかった。

まず華。小花模様のトップスにフリルのスカートを合わせた可愛らしい格好だ。

次に瑞希。ロゴTシャツにストールを巻いて、ロールアップパンツのボーイッシュ系。

最後に咲希は、白いワンピースに茶色のベルトを巻いた、シンプルかつ清楚な雰囲気の格好だった。

何故そんなにお洒落をして来るのか尋ねたところ、「女の子はこれが普通」らしい。

学校に忍び込むのにわざわざお洒落をする意味が分からない男性陣は、首を捻るばかりだった。

...剛以外。

”少し遅れる”と連絡を貰ってから45分余り。

剛は今だに姿を現していない。

拓「あいつ、絞める。」

瑞「同感」

諒「ま、まぁまぁ...もうすぐ来るよ」

咲「何着てくか迷ってるんじゃない?」

瑞「あり得ない。もしそうなら引く」

時間にうるさい拓馬は、5分前集合が基本だろ、とぶつぶつ言ってる。瑞希に至っては苛ついているのか、”話しかけるなオーラ”が全開である。それも、華には通用してない様子だが。

その時、一同に走り寄ってくる人影が見えた。剛である。Tシャツとズボンを着ているところを見ると、服装を決めていた訳では無いらしい。

剛「悪りぃ!遅れた!...てか何か空気悪くね?」

お前の所為だよ!!と全員が思った事だろう。

華「つよぽん、何で遅かったのぉ?」

剛「あ、気になる?実はさー...」

そう言って自らの鞄を漁り、何かを取り出した。

剛「ジャーン!塩!!幽霊見に行くんならこれは必須だろ!?」

それからー、と言って剛は次々と鞄から幽霊除けと称した道具を取り出した。

数珠、お札(恐らく自作)、聖水(水道水)、にんにく、十字架、ポマード等。

後半は最早幽霊除けでは無くなっている。

ドヤ顔している剛に呆れながら、咲希は言った。

咲「あのね剛。私達は別に幽霊を見に行くんじゃないよ?あくまでも七不思議を作る題材を探しに行くの。はっきり言ってそれは無駄よ。」

咲希も少なからず、苛ついていたのだろう。いつもより口調が厳しい。

剛「な、なん...だと!?」

項垂れている剛を放置して、一同は話を進めた。

拓「それで、どうやって校内に入るんだ?」

咲「えっとね、喫煙室から。」

喫煙室とは、文字通り職員が喫煙する為の部屋である。部屋と言っても、壁は硝子張りで二面しか無く、外からそのまま入れる構造になっており、外気を遮断する効果は限りなくゼロに近い。中は、アルミ製のベンチと水を張った細長い灰皿があるだけだ。つまり、公園にある喫煙スペースの周りに壁を建てただけの、大変簡素な作りなのである。

喫煙室には、外からと職員室前の廊下から入る事ができ、ドアは廊下に通じる物一つだけだ。

咲「で、先生達の中で喫煙者って少なくて、あんまり使われて無いみたいでね?鍵のかけ忘れが多いみたいなの。」

諒「でも、いくらかけ忘れが多いからって、今日もかけ忘れてるとは限らないんじゃないかな?」

咲「大丈夫!今日委員会終わってから確認したし、いざとなれば剛が、こう、どかーんと、ね?」

剛「ね?じゃねーよふざけんな!!」

咲希は「まぁ、大丈夫でしょー」と笑って、喫煙室に向かって歩き出した。拓馬達も後に続く。

暫くして喫煙室に着いた。

アルミ製のベンチは風雨に晒された為か、乾いた土や泥がこびりついており、灰皿は水を代えてないのか、煙草から染み出たヤニが酷い匂いを漂わせていた。お世辞にも心地よく一息つける空間とは言えないだろう。

剛「おぉふ...」

拓「汚ぇな。ここ使われてんのか?」

諒「僕、ここで休憩はしたくないなぁ」

各々が喫煙室を見た感想を述べている中、咲希は校内に通じるドアに近づいた。

ふぅー、と深呼吸して、ドアノブを握る。

咲「...いい?行くよ...」

皆がコクリと頷き、咲希がノブを回そうと、手に力を入れた。

固唾を飲んで見守る仲間達。ここで開いて無ければTHE ENDだ。まぁその場合は後日また来たらいいだけなのだが。

そして、ゆっくりとドアノブがーーー回った。

咲「ドアノブが...ドアノブが回った!!開いたよ!!皆!!」

剛「やったな!咲希!」

諒「おめでとう!咲希ちゃん!」

華「流石さっちゃんだねぇ!」

瑞「よく頑張ったわね」

咲「ありがとう!皆、ありがとう!!」

そう、遂にやったのだ。咲希はドアノブを回した。数々の困難を乗り越え、咲希はやってのけたのだ!おめでとう咲希!そして、私達に感動をありがt...拓「もう気が済んだか?茶番はいいから早く入るぞ。」

一同「はーい...」

...こうして、無事に校内に入る事が出来た一同だった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

全員が校内に入り終わると、「私達以外の人が入って来たら困る」と言って、咲希がドアに鍵をかけた。

静かな廊下に、鍵の開閉音が響く。

諒「静か...だね」

華「華、怖ぁい」

暗く、冷たい廊下。窓から差す月明かりで僅かに明るいが、雲が陰るとそこを暗闇に戻してしまう。

頼りになるのは、手の中にある懐中電灯のけして強く無い光のみ。

咲「とりあえず、私達の教室に向かいましょう」

皆が頷き、咲希を先頭にして、教室へ向かう。

程なくして、二年C組の教室に着いた。

途中剛が、物音(気のせい)がする度に、「うぇい!!」やら「ふぁ!?」等の奇声を発する以外は何事も無かった。

建て付けの悪い扉を開け、中に入る。

昼間の騒がしい主達を失った教室は、耳が痛い程の静けさだった。

咲「さぁ、始めましょう。何処に行くか、場所をピックアップして来たから、順番に見て行きましょ」

そう言って、咲希は自分の机に紙を広げた。皆の懐中電灯で、それを照らす。

拓「これはなんだ?」

咲「学校の見取り図よ」

剛「なんかぐしゃぐしゃで見にくいな」

瑞「いつの間にこんな物を?」

咲「学校から帰って直ぐよ。あまり時間が無かったから、ざっとしか書けなかったけど」

剛「放課後に家で地図書いてたのか。暇人な上に非リア充とか可哀想だな(笑)」

皆が見守る中、一通り剛を殴った後で咲希が話を進めた。

咲「それで、七不思議が起こりそうな場所をピックアップしたの。」

そう言って、咲希が示した場所は...

理科室

美術室

備品室

校長室

裏庭

プール

屋上

だった。

咲「ここを、順番に廻りたいんだけど、どうかな?」

瑞「いいと思う」

拓「それはいいが、美術室とかどうやって入るんだ?」

咲「大丈夫、多分入れるよ。多分。」

諒「あれ?屋上って、扉に南京錠かかってなかった?」

咲希がポケットから何かを取り出し、見取り図の上に置いた。

鈍く光るそれは、南京錠だった。

咲「よしOKね?じゃあしゅっぱーつ!!」

剛「何もOKじゃねぇよ!あと、でかい声出すな!見つかったらどうすんだよ!!」

咲「こんな時間に、誰が居るのよ」

咲希が、カラカラと笑って居ると、

「あたしよ」

声がした。

「「「「「「………」」」」」」

次の瞬間、絶叫が響き渡った。

咲「だ、だだっ誰よ!あんた!」

皆で隅に固まる。懐中電灯は驚いた拍子に落としてしまい、謎の人物の足元を照らしている。

「誰だーとは失礼ね、委員長?」

足元に転がっている懐中電灯に、腕が伸びる。

剛「その声は、フジコちゃん!?」

藤「馬鹿剛。藤子先生と呼びなさい」

光を顔の下から当て「ばぁ」とお化けのポーズをしている彼女は、二年C組の担任教師、藤子(ふじこ)だ。

かの有名な、怪盗ル○ン三世に出てくる、爆乳美女に比べると胸が貧相だが、それでも美女と呼べる顔立ちはしている。

拓「何で先生がいるんです?」

落ち着きを取り戻し、懐中電灯を拾いながら尋ねた。

藤「あぁ、テストの答案忘れたのよ。この前早朝の職員室に忍び込んで、改ざんしようとした馬鹿がいたから、危ないと思ってね」

馬鹿、と言った時に剛を睨んでいたので、恐らくこいつが犯人なのだろうと、皆が思った。

藤「それより、なんであんた達こんな時間に居るの?しかも委員長まで」

咲「じ、実は、かくかくしかじかで…」

藤「なんですって?学校の七不思議を作る為に偵察に来たですって?」

拓「なんでそれで解るんだよ。」

藤「お黙り。大人の事情があるのよ」

華「ねぇ先生ぇ?華達、悪い事する訳じゃないし、見逃してぇ??」

藤「駄目に決まってるでしょ。後、貴女のぶりっ子が通用するのは、近藤(美術教師)と山内(学年主任)だけだと言う事を、覚えておくといいわ」

藤子に冷たく一喝されて、華は泣き真似をするも、慰める者は誰もいなかった。

藤「とにかく、夜の学校に忍び込むなんてどうかしてるわ!反省しなさい」

一同「すみませぇーん」

藤「夜に外出なんて、不審者でも居たらどうするのよ!」

一同「すみませぇーん」

藤「餓鬼共。内申下げられたいか」

一同「申し訳ありませんでしたぁ!!」

月明かりで一瞬見えた般若の形相の女教師に、土下座をする勢いで謝罪したが、時既に遅く、全員明日から放課後の補習は、逃れる事は出来なかった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

廊下に響く、七人分の足音。

と言っても、皆スリッパや靴下なのでそれ程音はしない筈だが、周りが静か過ぎる為、やけに大きく聞こえていた。

剛「あーあ!折角面白い事が出来ると思ったのになぁー!」

頬を膨らませ、道端の石ころを蹴るかの様に、足を振り上げる。

剛「フジコちゃんが来なかったらなー...」

藤「何か言ったか、馬鹿餓鬼。」

ニッコリと笑いながら藤子は剛の耳を引っ張った。

剛「いででで!ちょ、なんで俺だけ!?」

藤「そんな馬鹿な事言うのがお前だけだからだよ」

「差別だーっ!」と喚いている剛の後ろで、皆が合掌していたのを騒がしコンビは知る由もない。

諒「ところでさ、今更なんだけど、七不思議って本当に無いのかな?」

諒が唐突に口を開いた。

華「誰も知らないんだからぁ、無いんじゃなぁい?」

瑞「”知らない”のと”無い”のは違う」

ふむ、と拓馬は考えた。

拓「確かにな。俺らが知らないだけで、もしかしたら有るのかもしれないな。」

諒「だよね?やっぱり一回さ、もっと詳しく調べてみない?ここまでくると七不思議がどんなのか、気になっちゃって...」

剛「ちょっと待って、俺も話に入れて!」

耳を抑えながら剛が振り向いた。そのまま身体の向きを変え、後ろ向きで歩く。

剛「そういえば、フジコちゃんは知らないの?七不思議」

藤「あたしはあんた達と一緒の時期にこの学校に来たのよ?あんた達が知らないのに知ってる訳無いでしょ」

そう、藤子はまだ赴任してから二年目の新米教師なのだ。なのに既に受け持ちのクラスがあるのは、その人柄と、物怖じしない度胸を買われた為だろう。

剛「ちぇー、残念!フジコちゃんなら知ってるかもーって思ったのになぁー!」

くるりと前を向き、剛が言った。

「しリタい?」

剛「そりゃ知りたいよ!気になるだろ?」

なぁ?と振り返った剛を、皆怪訝そうに見ている。

剛「なんだよ?皆して変な顔して」

拓「剛、お前、誰に言ってんだ?」

剛「誰って、むしろ誰だよ。俺が聞きてぇよ。知りたい?って聞いたろ?」

皆、一様に首を振る。

華「華達、誰も、話してないよぉ」

瑞「剛、一人で誰かと話すみたいに喋ってた」

剛「ま、またまたー!そうやって俺をビビらせ様としても効かねぇよ!」

諒「剛君、本当だよ。誰と、話してたの?」

剛「わ、わかんねぇよ!だけど…よく考えたら…」

藤「も、もういいから行くわよ!!聞き間違いなんて、誰にでもあるでしょ!?」

わざと声量を上げて話したが、緊張感は隠せていなかった。

剛が聞いた”声”。

ただの聞き間違いならいいが、そうでない可能性の方が高かった。

では、誰と話したのか。

ここに入った時に使った喫煙室の扉は、咲希が鍵を閉めた為、自分達の後からは誰も入って来ていない筈だ。

では、自分達の先に誰かが居たのか?

だがあの時、他に人影は見られなかったし、そもそも剛以外に声は聞こえていない。

そこから導きだされる答えに、皆が辿り着いた筈だが、誰一人、口を開く者はいなかった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

足早に歩き始めて数分。もう直ぐ出口と言う安堵感からか、剛が、口を開いた。

剛「な、なぁ、さっきの、声、さ…。あれ…女の子の声ーー……」

そこから先は聞こえなかった。

拓「……!!」

突然の耳鳴りが、聴覚を支配した。

周りの声も、自分の唸り声も聞こえない。

大丈夫か、と声を出してもキィィィィー…ンと言う音しか、聞こえない。

頭が、痛くなってきた。

剛が何かを叫んでる。

諒が膝をついている。

藤子先生が壁にもたれてる。

華と瑞希が支え合ってる。

俺は、視界が横になってる。

咲希…咲希は…

「シリタい?」

頭の中に声が響いた。

「しリたイ?」

知りたい?何を?

「こノガッこうノナなふしギ」

七不思議?

「コノがっこウノヒミつ」

秘密?

「シリたいなラ」

もう、いい、やめろ。

「おシエてあゲル」

一層、耳鳴りが強くなり、拓馬は意識を手放した。

目を閉じる寸前。

ひらりと、白い何かが翻るのを、見た気がした。

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