長編12
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廃寺

これは佐藤が高一の夏休みに体験した話だ。夏休みが中盤に差し掛かる頃に佐藤は某山を勤や理子と共に登っていた。某山を登っているのは佐藤がある相談を受けたからである。それについて話はこれから一週間前に戻る。

その日、佐藤の家を一人の少女が訪れた。その少女はクラスは違うが佐藤と同じ高校の生徒だ。佐藤はその子の突然の来訪に驚きながらも家に上がらせた。客間に通された少女は座ると自己紹介を始めた。

「突然押し掛けてしまってすいません。私、佐藤さんと同じ高校で一年B組の林楓(はやしかえで)です。相談したい事があるので本日こちらを訪れました。宜しくお願いします。」

佐藤は林楓とは会ったことは無いがその名前だけは知っていた。と言うのも林楓は一学年で陸上部のレギュラーになり、大会でも優秀な成績を納めた事で有名な生徒だからだ。ちなみに佐藤の場合は霊能力を持つ少年と言う事で学校では知らない人はいないぐらい有名である。

佐藤「それで相談と言うのは?」自己紹介を聞いた後に佐藤が質問する。

林「最近ずっと金縛りに遭っているんです。疲れすぎかなとも思いましたが違うんです。」

佐藤「違うと言うと?」

林「金縛りは毎回寝ている時に起こるんですが、昨日の夜に体験した金縛りはいつもと違っていました。」

そう言うと林は昨夜体験した金縛りについて話始めた。

昨日の夜、眠りに落ちていた林は途中で目が覚めてしまった。すると即座に金縛りに遭ってしまう。これは最近体験している金縛りが起きる時のパターンである。金縛りに遭うと林は毎回体が動くまでずっともがくらしい。しかしその日はいつもと違い、いくらもがいても金縛りは全く解けなかった。

林「何で?いつもなら解けるのに。」

林はいつもと違う金縛りに焦りながらももがき続けた。そうこうしていると天井にたくさんの女の顔が浮かび始めた。いずれの顔も怒った表情で怖かったが林は金縛りの為に顔を背ける事も目を瞑る事も出来なかった。

それから数分もしない内に全ての顔は消えて金縛りも解けていたが林は自分が見たものは決して幻覚でも夢でもないと感じていた。以上が林の昨夜体験した金縛りについてである。

話している最中も震えていた林だが話を終えるとより一層震え上がっていた。林「それでどうでしょうか?私何かに取り憑かれているんでしょうか?」

震えながら林が質問する。その問いに佐藤はこう答えた。「話をしてる間に霊視してみたけど、君には確かに数体の霊が取り憑いていたよ。」

更に佐藤は続けて「最近どこか山に行かなかった?」と聞いた。それは佐藤が林に憑いてる霊を霊視した所、どこかの山の景色が視えたからだ。つまり今、林に憑いている霊は林がどこかの山へ行った時に拾ってしまった霊なのだろうと佐藤は考えた訳だ。

佐藤の問いに林は「そう言えば某山に行きました。夏休みの思い出作りと言う事で友人に誘われて。」と答えた。 そう聞いた佐藤はそこで拾ったに違いないと確信できた。だが一つ問題がある。それは佐藤の霊視によれば林に今憑いている霊は一度除霊してもまた戻ってくる可能性があるということだ。

だから完全に林から霊を切り離すには拾った場所へ直接行き、大元を片付ける必要があるわけだ。そこで佐藤は林が霊を拾った正確な場所を特定するために霊視をもう一度試みた。

佐藤「……これは、寺?古い寺みたいだけど…廃寺か?」

佐藤が霊視した所、林に憑いている霊は某山の山中にある古い寺で拾われたらしいと言う事が分かった。佐藤がその寺の事を聞いてみると林は登山中に友人と偶然廃寺を見つけてそこへ入ったとの事である。その寺は佐藤が視た通りの外観であまり大きくはないとの事だ。

佐藤「その寺の歴史なんかは分かるかな?」

林「いえ、登山中に偶然見つけただけなのでその辺は…。それと場所もどこにあるかまでは…。」

そう聞くと佐藤は「分かった。じゃあ取りあえず時間を見つけて僕も友人とその山に後日登ってみるよ。そしてその寺に直接行って除霊してみる。」と言った。その後佐藤は林から某山の場所を聞くと御守りを渡してから帰した。

佐藤「取りあえずあの御守りがあればなんとかなるだろう。」

そう思いながら佐藤は勤達に連絡を取って一緒に行くように頼んだ。その結果勤達の都合により、行くのは一週間後となった。その間に佐藤はネットを使って寺について色々調べてみたが何もヒットしなかった。その為に寺は霊感で探す事にした。そして現在に至る。

勤「でも佐藤、本当にその寺の場所分かるのか?」汗だくになりながら勤が尋ねる。

佐藤「ああ、大丈夫。この道を真っ直ぐ行けば後30分ぐらいで着けるはずだから。」佐藤が自信満々に答えたので勤は納得した。

理子「ねぇ、少し休憩しない?」

今度は理子が息を切らしながら佐藤に尋ねる。

勤と佐藤も疲れていた上に空腹だったので一旦休憩する事にした。昼食の弁当を食べ終えると佐藤達は十分休んだので再び歩くために立ち上がった。するとさっきまで快晴だった空が突然曇り出し、大粒の雨が勢いよく降りだした。

その為佐藤達は大慌てで近くの木の下に避難した。だが、雨の勢いが強くなって吹き込んでくる為に雨宿りにはならなかった。佐藤達は雨宿り出来る場所を探す為にやむ無くそこを離れて走り出した。しばらく進むと山小屋があったので迷わず飛び込んだ。幸い鍵は開いてたので楽に入る事が出来た。

中は小さいが雨宿りには正にうってつけの場所だった。暖炉があったので火を点け、体を暖めると同時に濡れた上着を乾かした。そして大雨が止むまではここで待機する事にした。外は相変わらずの激しい大雨で雷も時折鳴っていた。外が落雷で光る毎に理子は悲鳴を上げていた。

勤「でも何で急に降りだしたんだろうな?さっきまではあんなに晴れてたっていうのに。」この突然の雨に勤が疑問に思って話した。

佐藤「恐らく敵の妨害だろうね。」

勤「敵って、林さんに憑いてる霊達の大元の事か?」佐藤「うん、そうだよ。」

理子「いつ止むのかしら?」佐藤「当分は止まないだろうね。少なくとも夜までは。」勤「じゃあ、今夜はここに泊まるか?」佐藤「俺は今じいちゃんも母さんも出張で留守だからいいけどお前らは?」勤「俺も平気。両親とも明後日まで帰ってこないから。」理子「私も勤と同じで大丈夫。」

かくして佐藤達は今夜はここに泊まる事になった。念の為にと三人共夜食や毛布を用意していたので泊まる分には困らなかった。更にこの山小屋は小さいが部屋が三つあったのでそれも幸いだった。簡単な夕食を済ませると三人とも疲れていたし、明日も早いので寝る事にした。

しかし、この時理子は何も知らなかった。この後自分をどんな恐怖が待ち受けているのかを。

就寝して30分後に理子は突然目が覚めた。すると間もなく体が動かなくなってしまう。金縛りだ。「やだ、何とかしないと。」と思った理子だが体は動かないし、声も出せないのでどうする事も出来なかった。その内に理子は佐藤から聞いた林が体験した金縛りの話を思い出し、底知れぬ恐怖と不安に包まれていった。

困った理子は心の中で必死に「佐藤君助けて!!」と叫んでいたが、佐藤がやって来る気配はなかった。その為に金縛りが解けるまでもがき続けたが更に恐ろしい事が起こる。しばらくして誰かが自分の部屋に入ってくるのを理子は感じたのだ。

理子は部屋の入口から離れている所に寝ている上に金縛りで動けない状態の為に見る事は出来なかった。だが、そんな理子には分かる…感じるのだ。部屋に入って来たその誰かは確実に理子が寝ている所に近づいているという事が。

このままだとその誰かが来るのは分かっていたが動けないしその誰かが見えないので正体も分からない。そんな状態に理子はただ恐怖するしかなかった。だが、それでも理子は金縛りが解けるまで諦めずにもがき続けた。例え無駄だと分かっていてもこうする他、理子に為す術はなかったからだ。

そしてとうとう謎の誰かは理子の眼前に立ちはだかった。一方、理子の金縛りは理子の必死の努力にも関わらず解けなかった。そんな理子の目に見えた謎の誰かの正体は……

勤だった。そう、理子の部屋に入ってきた誰かとは勤だったのだ。理子は勤の姿を見て脅かすなという思いがあったが、安心感の方が勝っていた。しかし、理子はそこで気がついた。勤の様子が変だと言うことに…

勤は理子が金縛りにあっているにも関わらず見下ろしているだけで一言もしゃべらなかった。それに無表情だ。

この様子の勤を見た理子は再び恐怖を感じていた。しばらくすると勤は静かにしゃがんで両手を理子の首に近づける。理子がまさかと思うと同時に勤は近づけた両手で理子の首を絞める。理子「く、苦しい…。勤…止めて……」

そう言いたかったが金縛りで声に出すことは出来ずに心の中で叫ぶしかなかった。抵抗もしたかったが手も動かせない為に理子にはただ勤に殺されるのを黙って待つしか選択肢はなかった。やがて理子の意識は段々と遠ざかり、次第に息も止まりつつあった。

もう駄目だと観念した理子が「佐藤君助けて…。」と心の中で唱えたその時

「理子!!」佐藤が理子の名を叫ぶ様に呼びながら部屋にやってきた。佐藤の声を聞いた理子は気をしっかり持って遠ざかりつつあった意識を取り戻した。それと同時に佐藤が勤に体当たりをして勤の体を吹っ飛ばし、理子から離した。

佐藤「理子!大丈夫か!?」佐藤が心配しながら理子を揺する。理子「佐藤…君…。」佐藤「よかった。」佐藤は理子に意識があるのを確認するとホッとしたのか胸を撫で下ろす。

その直後に先程吹っ飛ばされた勤が佐藤の首を後ろから絞める。佐藤「ぐっ!」勤「貴様…よくも私の邪魔をしたな……」その声と口調は明らかに勤ではなかった。佐藤は苦しみながらも勤の体を入口の方へ投げ飛ばした。

そして数珠を出すとお経を唱えて除霊を始めた。佐藤「……観自在菩薩…」勤は佐藤が唱えるお経に苦しんでバタバタもがく。勤「や、止めろー!く、苦しい!!グワーッ!」

勤は断末魔の様な叫びをするとバタリと倒れ、静かになった。理子が心配して駆け寄ろうとするが佐藤に「大丈夫、気を失っただけだ。」と言われて制止される。

勤は直ぐに起き上がり、「あれ?何で俺理子の部屋にいるんだ?」と言いながら周りを見渡していた。理子はその発言に怒り、「何でじゃないでしょうが!アンタ、自分が何したか分かってるの!?」と言いながら勤の胸ぐらを掴む。それを佐藤が慌てて制止する。

それから数分後に佐藤は理子から金縛りの事を聞くと先程までの出来事について詳しく説明しだした。まず、勤は林に憑いている霊の大元が送り込んだ別の霊に一時的に憑依されていたので理子と佐藤を襲った。理子が金縛りにあったのも大元が送り込んだ霊による霊障である。

それからどうして佐藤が理子の危機に駆けつける事が出来たのかというと…

佐藤「実は寝てる時に夢を見たんだ。理子が勤に殺される夢をね。そこで起きたんだけど嫌な予感がしたから数珠を持ってここに駆けつけたんだ。でも夢で見たことが現実に起こりかけてたと言う事は、あれは予知夢だった様だね。」

そう告げると理子も勤も顔色を悪くして一言も話せなかった。佐藤「二人が危険な目に遭ったのは俺の責任だ、すまない。」佐藤が謝ると理子は「佐藤君のせいじゃないよ、逆に感謝してるわよ。私を助けてくれたんだから。」

と言って佐藤を論した。続けて勤も「そうだよ佐藤、お前のせいじゃないって。悪いのは変な霊を送り込んだ大元だ!それに謝らなきゃいけないのは俺の方だよ。いくら取り憑かれていたからって言っても佐藤と理子を襲ったのは事実だし。ほんとにゴメン。」

と言って佐藤と理子に向かって頭を下げた。すると今度は理子が「勤のせいじゃないよ、私の方こそゴメンね。いきなり掴みかかったりしちゃって。」

と謝った。こうして三人とも和解する事が出来た。

しばらくして落ち着くと勤が佐藤に「そう言えば、俺に憑いてた霊はどうしたんだ?」と尋ねた。佐藤「ああ、あの霊なら除霊したらどっかに消えたよ。恐らく大元の所に撤収したんだろうね。」

理子「これからどうするの?」

佐藤「取りあえず夜が明けて雨が止んだら廃寺に向かうよ。そこに大元が巣くっているはずだから。」

勤「除霊できるか?」

佐藤「行ってみないことには分からない。でも、必ず勝ってみせるよ。」佐藤が力強く言ったので勤も理子も安心した。

佐藤(この二人をひどい目に逢わせたんだ、絶対に許さない! )

佐藤は心の中で強くそう誓った。それからしばらくして夜が明けると昨日降り続いていた雨も嘘の様に止んでいた。

佐藤「よし、行こう!」勤「おう!」佐藤の掛け声に勤が答える。そして佐藤達は荷物を纏めて山小屋を後にし、廃寺目指して歩き出した。それから30分程歩くと眼前に古い小さな建物が出た。それは佐藤が霊視で見た例の廃寺だった。

勤「やった、遂に着いたぜ!」勤が喜びの余りに大声で叫んだ。佐藤(間違いない、ここだ。霊視で見たのと全く同じ…ようし!)「さっ、入ろう。」

勤「ああ!」そして佐藤達は中へ突入した。中は林が言ってた通り小さくてほこりだらけだった。内部の中央まで来ると佐藤は数珠を取り出した。そして…「出てこい、大元!」と叫んだ。

すると佐藤の目の前に床から大元らしき霊が出てきた。佐藤「お前が大元だな!?」大元「その通り。よくぞここまで来れたな。」佐藤「ここへ来てやっと分かったよ。お前が何者かもな!」勤「えっ、本当か!?」勤がすっとんきょうな声を出して尋ねる。

佐藤「ああ。まず、この寺は昔駆け込み寺だったんだ。」

理子「駆け込み寺って…夫の不身持や強制結婚に苦しんだ女の人が逃げて来たって言われてるお寺の事?」

佐藤「そう、この前の古典の授業で松原先生が言ってたお寺だよ。」

勤「それで大元とはどういう関係があるんだ?」

佐藤「さっき霊視してみて分かったんだけど、どうやらこのお寺の尼さんがその逃げてきた女の人達に毒を持った料理を出したらしいんだよ。」

理子・勤「ええっ!?」

佐藤が言った事に勤と理子が驚きの余り大声を出した。

勤「マジかよ…」

理子「何でそんなことを!?」

佐藤「当時は寺が困窮していてその女の人達をこれ以上ここに居させるのは無理だったんだよ。だからやむ無く殺した。」

理子「そ、そんな…。」

勤「でもだからってそこまでしなくっても。」

佐藤「それ以外の方法が思い浮かばなかったんだよ。昔じゃそうだったんだろうね。」

理子「でも、それと大元はどう関わってるの?」気になった理子が尋ねる。

勤「俺もそれが気になってるんだけど。」

佐藤「その殺された女の人達は死後に怨霊化したんだよ。それらが集まったのがこの大元なんだよ。」

佐藤が大元を見ながら話すが勤達には大元の姿が見えないのでイメージ出来なかった。

勤「林さんに憑いたのは何で?」

佐藤「多分女だったからじゃないかな。尼さんに殺されたから女性を特に怨んで怨霊化したんだよ。だから理子も殺そうとした。」そう言うと理子は合点がいったみたいで納得した様子だった。

理子「でも、何で林さんに憑いているのは一度除霊してもまた戻るの?」

理子が思い出した事を聞くと佐藤は「それは怨みの念が深いからだよ。だからその念を断ち切る為にもここへ直接来る必要があったんだ。」と答えた。

そこまで言うと佐藤は大元の方に向き直り、「さあ、どうする?成仏する気があるならその手助けをしてやる。それが嫌ならこの場に封じ込めるぞ!」と言った。すると大元は「誰が聞くものか!」と叫んで佐藤に襲い掛かった。

佐藤「なら仕方ない。問答無用!貴様をここに未来永劫封じ込めてやる!」

そう叫ぶと数珠を握って除霊を始めた。すると床に大きなブラックホールの様な穴が空き、そこから強い引力が発生した。そして大元はその引力に捕まり、吸い込まれ始めた。

大元「グワーッ!や、止めろー!」

佐藤「問答無用と言ったろ?お前はそのまま吸い込まれてしまえ!」そう叫ぶと更に引力が強まり、大元は瞬く間に穴の中へ吸い込まれていった。その直後に大元を吸い込んだ穴は徐々に小さくなっていき、跡形も無く消えた。

佐藤「よし、封印終了!!」

勤「もう終わったのか?」勤が呆然としながら聞いてきた。

佐藤「ああ、除霊は成功だ!大元はいなくなったからもう林さんも大丈夫だよ!」佐藤はそう言うとサムズアップをしたので勤も理子も安心した。

理子「あっ、でも林さんに憑いてるのは除霊しなくていいの?」

佐藤「うん、大元が消えた事によって林さんに憑いてた霊も一緒に消えた筈だからね。」

理子「そっか、なら安心ね!」理子は笑顔で言った。

その後佐藤達は廃寺を後にして下山したが佐藤も勤も理子も駆け込み寺の事を知り、何となく複雑な気持ちになっていた。

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