中編4
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妬み

その夜、僕は一番仲の良かった友人のSと飲んでいた

数年ぶりだった

大学を卒業してから僕と彼は、それぞれ社会人として別々の道を歩んでいた

それから数年…

悔しいがはっきり言おう

僕は負け組、彼は勝ち組だ

Sは卒業した後、大手企業に就職し、仕事を始めるや否やメキメキと頭角を現した

もともと人懐っこい性格の彼は、上司や先輩に可愛がられ仕事もどんどん任されるようになった

その仕事でも結果を出し、今では年収が僕の倍近くある

まさに、理想の黄金コースだ

一方の僕はと言えば、就活は全滅

日中と夜にバイトを掛け持ちし、なんとか食いつないでいる

違う友人からSの活躍している話をきくたびに

「Sが成功して良かった!」

なんてイイ人キャラを演じているが、内心は妬み嫉みで溢れかえっていた

そんな毎日を過ごす僕に、当のSから

「久しぶりに飲もうよ!」

なんてメールがきた

正直、全く会いたくなかったが二つ返事で

「オッケー」

と返してしまった

もしかしたら仕事の話…?

まさか、うちの会社で働かないかとか…?

なんて淡い考えもあったからだ

会ってみると、全然そんな要件はなかった

職場での華やかな話をされるたびに妬み嫉みは増大していった

もちろん表向きは

「ヘェ〜!まじで!?」

と例のイイ人キャラを演じていたが…

久しぶりに会ったSは性格が変わっていた

すごく明るくなっていたのだ

それもそうか…と思った

勢いのあるエリート社会人になれば誰だってテンションは上がるだろうから…

なんだか常に楽しそうで、毎日がスペシャルといった感じだった

そして何よりイチバン変わっていたのは、やはり金銭感覚だった

まず待ち合わせ場所が、高級ダイニングバーって…

そして僕からすれば目が回るような値段のお酒や料理を、Sはバンバン注文する

数年前まで近場の激安居酒屋で180円の餃子を頼むかどうかで悩んでいたのに…

しばらく飲んで食べて、深夜一時を過ぎた頃だった

「明日は予定あるの?今夜俺んちに泊まれば?」

Sにそう誘われた

聞けば、新築のマンションに最近引っ越したばかりだという

終電もなくなっていたし、タクシーで帰る余裕はなかったので行くことにした

Sの住むマンションに着いて3LDKを見渡した瞬間、僕の中の妬み嫉みメーターは針を振り切った

そして何かが僕の中で弾けた

もう単純に

(嫌がらせがしたい)

と思った

そして思いついた

「なぁ、俺、霊感が強いって知ってた?こんなこと言いたくないけど…」

「リビングの角で泣いている子供が見えるよ…」

「キッチンに白髪の老婆が立ってるよ…」

「風呂場の天井で女の顔が揺れてた…」

それは、霊感があると嘘をついて引っ越したばかりのマンションに幽霊がいることを伝えるという嫌がらせだった

それは功を奏した

「マジで…?最悪だよ…引っ越したばっかりなのに…はぁ…」

なかなかのダメージを与えることに成功した僕は満足して眠りについた

リビングのソファで気持ち良く寝ていると…耳元でかすれた声がした

ど う し て わ か っ た

ドキッとして瞼を開けると、目の前から1センチほどの近距離に、顔はシワクチャで白髪の見知らぬ老婆の顔面があったのだ

心臓が飛び出るかと思った

Sが一人暮らしているこの部屋に老婆がいるなんてありえない

うわぁっ、と叫ぼうとしたが声が全く出ない

体も一切動かない

いわゆる金縛り状態になっていた

そして僕はふと気付いた

眼前の老婆は、ゆらり、ゆらり、と左右に揺れながら僕の顔をジッと見つめている

あまりの怖さに目線を横にやると…そこにはキッチンがあり、何やら肌色の蛇のような長いモノがリビングに伸びていたのだ

そして、老婆の顔に繋がっていた…

そう、老婆はキッチンからまるでキリンのように首を伸ばして僕の顔を覗いていたのだ

あまりの恐怖に僕は意識を失いそうになった

そして気付いたのだ

さっきSに話したウソの中にひとつ

「キッチンに白髪の老婆がいる」

と言っていたことを…

適当にウソをついていた中で、ひとつだけ当たってしまっていたのだ

翌朝、キッチンの方だけは絶対に見ないようにして帰った

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