長編23
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カミ様

此れは僕が高校一年生の時の話だ。

季節は冬から春の間。

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・・・・・・・・・。

朝起きて着替えをしていると、携帯電話が鳴った。どうやら誰かからの着信らしい。

こんな早くに誰からだろう。

僕は寝起きでぼんやりとした頭のまま、電話に出た。

「・・・・・・もしもし?」

「お早う。野葡萄君。起きてたかい?」

電話を掛けて来ていたのは、烏瓜さんだった。

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・・・・・・・・・。

「何の御用でしょうか?」

僕がそう言うと、烏瓜さんは何やら可笑しそうに笑った。

「どうかなさいましたか。」

「いや、君がそんな丁寧な言葉を使う何て可笑しいな、とね。思ったんだよ。」

「寝起きですから。砕けた敬語が上手く出来ないのです。御気に障りましたか?」

「ん?そんな事は無いけどね。・・・寝起きって事は、此の電話で起こしてしまったのかな。悪い事をしたね。」

烏瓜さんが少しだけ申し訳無さそうに言う。

僕は応えた。

「いえ、その様な事は御座いません。御気遣いありがとうございます。」

本当は、上半身が裸で凄く寒かったのだけど。

さぶいぼが酷いんだけど。

「そうかい?・・・まぁでも、取り敢えず君は寝起き何だろう?」

「其れはそうですが。」

「なら、また掛け直すよ。別にどうしても、今しなくてはならない話ではないからね。」

そう言って、烏瓜さんはフフン、と笑った。

「・・・すみません。そうして頂けると此方としても有難いです。」

「じゃ、また電話する。」

プツッ・・・・・・。

電話が切られた。

着替えを再開しようと思い、振り返る。

すると其処にはーーーー

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土下座をしている、ピザポが居た。

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・・・・・・・・・。

あれ、何だかデジャヴ感がする。何時だっけ。

何時だったかな。

あー、クリスマスの時だ。あの時は川に落ちて、ピザポが僕に・・・。

・・・・・・。

まさか?!

「ピザポ。お前・・・・・・!」

「ごめんなさい。」

「昨日は吐かなかったと思ったら・・・まさか寝てる時、僕に・・・?!」

「いやそれは違うけど。」

「え?」

おずおずと僕を指差す。

「・・・・・・それ・・・。」

「あ?・・・嗚呼。此れか。」

ピザポが見ていたのは、脇腹にある、昨日出来た痣だった。

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・・・・・・・・・。

さて、軽く状況説明。

僕とピザポと薄塩とのり姉は今、薄塩宅の、のり姉の部屋に居る。

今日も壁で、○○君がにこやかに笑っている。

昨日出来た痣とは、昨日の夜に肝試しに行って、なんやかんや有ってピザポに回し蹴りを食らったのが見事に青痣になった物の事。

※詳しくは《三人肝試し》を参照してください。

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・・・・・・・・・。

「僕を助ける為にやったんだから、ピザポが申し訳無く思う事何て無いって。」

僕がそう言うと、今度は足を指差す。

「でも、足も・・・。」

・・・腫れは引いたが、此処も嫌な色になっている。自分の足ながら気持ち悪い。

「嫌いなバスケさぼれるし、寧ろ感謝する。」

「背中の奴も、俺の所為だし・・・。」

「此れも跡残ったんだ。全く痛くないから気付かなかった。」

「本当にごめん・・・・・・。」

目の前でピザポがしおしおと項垂れた。

・・・とても昨日のアレと同一人物とは思えない。

「ごめん・・・。」

「だから謝る事無いって。助けてくれてありがとう。本当に感謝してるんだから、もう謝るな。」

「・・・分かった。ごめん。」

「薄塩起こせ。朝飯作るから。」

「了解。のり姉は?」

「朝飯出来たら鼻先に味噌汁近付けて起こす。」

其れが一番機嫌良く起きるのだ・・・そうだ。

薄塩の話では、彼女は、その起こし方に慣れすぎて、匂いだけで味噌汁の具を当てられる様になったらしい。

余談だが薄塩を起こす時は、鼻を摘まんで暫く待つのが一番手っ取り早い。

・・・おっと、そう言えば未だ服を着ていなかった。早く着替えをしなくては。

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・・・・・・・・・。

再び電話が掛かって来たのは、午前9時頃だった。

「もしもし。もう目は覚めたかい?」

「お陰様でどーも。烏瓜さんにあれを聞かれるとは一生の不覚でした。忘れてください。」

僕がそう言うと、烏瓜さんは楽しげに笑う。

「うん。すっかり平常運転だね。・・・其れじゃ、話を初めていいかな。」

「・・・話?」

「そう。此の間の《先輩》の件での御代の事。」

「・・・・・・嗚呼。」

※詳しくは《蛞蝓先輩と蝸牛の僕》を参照してください。

「御幾らですか?」

「高いよ?結構。」

「取り敢えず教えて下さい。」

僕が言うと、烏瓜さんは暫く考え込み、軈て言った。

「二万と三千円。・・・位かな。現金だとね。」

「思った程では無いですね。」

もっとこう・・・。

漫画とかでよく有る、十万とか百万とかを想像していた僕は、少しだけ驚いた。

「本式の呪いだったら、もうちょい御高くなるんだけどね。あの嫌がらせレベルのだったら此れ位が妥当だろう。」

「成る程・・・。」

烏瓜さんは其れからまた暫く黙った。

「どうかしました?」

そう聞くと、烏瓜さんは言った。

「だとしても、だよ。高校生にとっての二万三千円は大金だろう。出来れば払いたくないのではないかな?」

「何やら胡散臭い事を言い出しましたね。・・・何を企んでいるんですか?」

烏瓜さんの声が訝しげになる。

「・・・どうしたの野葡萄君。反抗期かい?」

「昨日のり姉に騙されて・・・」

言い終える前に、物凄い勢いで烏瓜さんが聞いて来た。

「待った。無事か?!怪我は?!」

「足首を捻挫して・・・あと、痣が幾つか出来ました。」

烏瓜さんが大きな溜め息を吐く。

「そうか。・・・うん。良かった、と言うべきなのだろうね。その程度で済んだのだから。」

「そうですか?」

「腕も足も折れてないし、何処も出血してないのだろう?」

「・・・ええ。まぁ。」

「ならば僥倖。本当に運が良かったのさ。」

「・・・・・・・・・。」

「・・・まぁ、流石の彼女も、高校生相手に本気を出す訳が無いか。」

「・・・のり姉って一体・・・・・・。」

「世の中には知らない方が幸せでいられる事が多く有るんだよ。」

「・・・・・・。」

「話を元に戻そうか。こんな話、してても何の意味も無いからね。」

「・・・はい。」

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烏瓜さんは、コホンと一つ咳払いをして言った。

「日給二万三千円のアルバイトをする気は無いかな?」

「胡散臭っ。丁重に御断りさせて頂きます。」

「・・・・・・。何故に?」

「胡散臭いです。」

「・・・私の何処が胡散臭いんだろう。」

「存在が丸ごと胡散臭いんです。」

「けど、私にだって《職業上のイメージ》と言う物が有ってだね・・・」

「と言うか、僕が《胡散臭い》と言ったのは別に烏瓜さん自身の事では無いです。」

「・・・・・・そうなのかい?」

「ええ。烏瓜さんも変な人ではありますけど。一応信用はしていますから。」

「そうなんだ。意外だね。」

「自分でもそう思いますよ。・・・で、アルバイトって?」

「あれ、結局聞くんじゃないか。」

「ええ。・・・烏瓜さん。信用してますからね?」

「大丈夫。安全は保証するよ。」

「で、内容は何ですか?」

「うん。其れがねーーーーーー

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・・・・・・・・・。

翌週の土曜日。

○○公園前。

午後の三時半。

辺りはもう薄暗くなり始めている。

「・・・そろそろかな。」

先日、烏瓜さんから持ち掛けられた《アルバイト》の依頼。

其れは、《神の髪を切る》と言う何とも意味不明な物だった。

烏瓜さんは先日、僕に電話でこう言った。

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・・・・・・・・・。

・・・今回君にやって貰いたいアルバイトは、毎年、雪解けの少し前にしている《神の髪を切る》仕事の付き添いだよ。

・・・・・・え、何。

いや。駄洒落じゃない。駄洒落じゃないんだって。

ちゃんと説明するから。

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先ずね、さっき私は《神》と言ったけれど、其れは余り正確な言い方ではないんだ。

かと言って、何かしらのちゃんとした名前が有る訳でも無いのだけどね。

そうだな・・・。ポジション的には《妖怪》と《神》の中間だろうね。

民間信仰と言うか、土着の神と言うか・・・。

まぁ、其れが日本らしい所とも言えるんだけど。

・・・・・・ん。名前、か。

分かって無いんだよね。名前。

ちゃんとした奴は。

信仰している人達からは《□▲山の神様》とかって呼ばれているらしいけどね。

捻りが無いにも程が有るよ。全く。

・・・え?私?

私はね。《波平》って呼んでるんだ。

・・・・・・うん。そうだよ。あの磯野家の。

髪が一本だけしかないからね。

《波平》。

・・・・・・・・・。

・・・あんまりね。そう言う「は?」とか、そんな感じの冷たい返事をするのは止めようね。

・・・・・・泣きそうになるから。

烏瓜メンタルは、あの狐目に負けず劣らず豆腐豆腐しているんだからね。

それに、本当に一本しか髪がないんだよ。本当に。本当にだよ。

・・・だから、其の神様はとても髪を大切にしているんだ。

・・・・・・うーん。冗談では無いんだけどなぁ。

まぁ、取り敢えず聞いてくれたまえよ。

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・・・・・・・・・。

昔々の事じゃった。

ある土地に一柱の神が出来たそうな。

其の神様はとても有難い神様で、彼の地の山に住み、山の幸を惜し気も無く人々に恵み、怪我をした子供や病気になった年寄りを治してくれたんじゃ。

優しい神様だったんじゃなぁ。

・・・・・・でも、そんな神様にも一つだけ、されると烈火の如くに怒る事が有ってな。

其れが《髪を抜かれる事》何じゃ。

・・・よく分かっておらん様じゃの。

よかろう。

先ず、此の神様は髪が一本しかなくての。

其の一本しかない髪を、其れは其れは大切にしているのじゃ。

長く長く髪を伸ばしての。

山中の至る所に髪を這わせておる。

だがなぁ、何かの弾みで誰彼が其の髪を抜いてしまう事が有るんじゃよ。

そうなると、神様はもう手が付けられん事になってしまう。

山火事に土砂崩れ・・・恐ろしい事じゃ。酷い時には村一つ平気で潰したそうな。

だから、わしらは一年に一度、人々が山に入り始める此の時期に、神様の元へ出向いて、髪を切らせて頂くんじゃ。誰彼に髪を抜かれない様にする為にの。

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・・・・・・・・・。

と、こんな感じかな。何か質問は?

・・・・・・え。気持ち悪い?何が?

喋り方?え?其処?

でも分かり易かっただろう?日本昔話口調。

ほら、私ってこんな声だから。

此の話し方がよく馴染むんだよ。

・・・・・・。

野葡萄君を呼ぶ理由?

単純な数合わせだよ。

行く時は二人組でなくてはならないんだ。

理由は分かっていないがね。そう言う事になっている。

だから、本当に君は付き添いみたいな感じかな。

何もしなくて構わないよ。と言うか、本当に髪を切るだけだから、する事自体無いんだけどね。

他に質問は?

・・・・・・。

・・・準備する物?

あ、何だかんだ言って、してくれるんだ。アルバイト。助かるよ。

で、準備ね。・・・野葡萄君は、特には無いかな。

強いて言うなら、動き易い服装で。

あ、あと、髪飾り。此の間あげた鬼灯の奴。

あれは付けて来てはいけないよ。

かと言って、何も付けないのも目立たないし・・・。

そうだ。

あの烏瓜の髪飾り、まだ持っているかい?

ほら、何だかヒラヒラした花のさ。

・・・・・・。

よし、ならば其れを付けて来てくれたまえ。

・・・其れだけかな。

足首を捻挫しているんだったかな。

ならば、念の為、一週間後。土曜日の午前中は?

・・・・・・模試?そうか。

じゃあ午後はどうだろう。

・・・うん。

分かった。其れでは、土曜日の午後にしよう。

時間は・・・。夕暮れ時が良いね。

四時半には着きたいから・・・。

少し余裕を持って、三時半に集合しようか。

○○公園、知ってるかい?

・・・そうか。

じゃあ其処に、午後三時半。

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・・・・・・・・・。

「ごめん。待った?」

「いえ。僕も今来た所ですから。」

烏瓜さんが来た。

「行こうか。」

「はい。」

丸みを帯びた、黒の車。

端の部分に小さく兎の模様があしらわれている。

「可愛いですね。」

「だろう?・・・あ、後部座席の方へ乗って貰えるかな。」

バタン、と烏瓜さんが車のドアを開けた。

「はい。失礼します。」

頷いて、右側の後部座席に腰掛ける。

シートベルトを伸ばし、ガチャンと装着した。

「ごめん。一寸、了承を得たいのだけどね・・・」

烏瓜さんが此方に何かを差し出して来た。

「・・・此れは。」

一枚の鉢巻きの様な布。

「目隠し、だよ。流石に私も、此の面を付けたまま運転は出来ないから。」

「・・・・・・嫌だと言ったら?」

そう聞くと、烏瓜さんは静かに言った。

「・・・残念だけど、今回のアルバイトは無かった事にするしかないね。こんな詰まらない事で危険な目に会わせる訳にはいかない。」

「成る程。」

僕は頷いて、目を瞑った。

「どうぞ。」

サラリと目の上を布が覆う。

「・・・私も、此処まで信用される事になるとは、思わなかったな。」

烏瓜さんが言った。

「さぁ、行こうか。」

バタン、とドアの閉まる音が聞こえた。

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・・・・・・・・・。

※怒濤の台詞祭り再び、です。ご注意を。

走行する車の中で烏瓜さんは言った。

「戻って来たんだね。」

「え?」

「背中の。」

僕は軽く頷いた。

「ええ。其の様です。僕自身は見えないので、よく分かりませんが。・・・少し聞きたい事が有るんですけど。」

「何だい?」

「抑、ミズチ様は一応《神様》何ですよね。」

「そうだよ。まぁ、余り上位では無いけどね。」

「此の間に先輩が掛けた《おまじない》は不完全な物だったんですよね?」

「うん。そうだね。一番重要な所を抜かしていた。」

「だったら・・・・・・。」

「ん?」

「だったら、そんな不完全な呪い程度で、何でミズチ様は消えてしまってたんでしょう。」

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「・・・・・・は?」

烏瓜さんが、気の抜けた様な返事をした。

「消えた・・・?一体何が?」

「え、だからミズチ様・・・」

「消えてないよ。」

「え?だって背中の・・・」

「其れ、ミズチ様違う。」

「・・・嘘?!じゃあ一体」

「いや、違くもないか。」

「どっち?!」

「難しい所だねぇ。」

何処か愉快そうに烏瓜さんが笑う。

「君、先輩に呪われていた時、フィルターは外れてたかい?」

「え?」

よく考えると・・・。

「外れて、ませんでした・・・。」

「だろう?」

烏瓜さんがフフン、と鼻を鳴らした。

「なら、ミズチ様の守護自体は消えてなかったのさ。」

「じゃあ、僕の背中に居たのは・・・?」

「ミズチ様には変わり無いけどね。少し趣の違う物だよ。」

「・・・違うって?」

「・・・・・・まぁ、分かり易く言うと、其の背中のミズチ様は、君を守ってはいない。あくまでもシンボルマークだね。」

「シンボルマーク?」

「そうさ。君がミズチ様に守られていると言う証。ミズチ様の守護とは別物。アクセサリーみたいな物かなぁ。」

「・・・・・・でも、ペルソナって言うと、動きますよ。」

「ある程度のアクションは出来るんじゃないかな?そうでないと嘘臭いからね。流石リアルな神クオリティだ。」

「・・・・・・・・・。」

「・・・と言っても、まぁ、此れは何処までも予想だけれどね。真実は神のみぞ知るって訳さ。でも、丸っきり出鱈目では無いだろうと思うよ。」

「じゃあ、今回、背中のミズチ様が消えたのは・・・。」

「蛞蝓を見え易くする為か、単に相性が悪かったからだろうね。」

「・・・相性?」

「三竦み。蛞蝓は蛙に弱く、蛙は蛇に弱く、蛇は蛞蝓に弱い。蛟は蛇の親類みたいな物だから。」

「成る程。だから・・・。」

「此れだって予想だけどね。」

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フツリ、と会話が途切れた。

車は一定のペースで走り続けているらしい。

・・・何も見えないから、本当にそうなのかは分からないけれど。

「・・・・・・烏瓜さん?」

「うん?」

「・・・未だ、着きませんか。」

「そうだね。あと・・・三十分位かな。」

視界が暗い。目の前に居るのが本当に烏瓜さんなのかもよく分からない。

「・・・怖いのかい?ごめんね。」

烏瓜さんが言った。

素直に返事をするのも腹立たしいので、黙って頷いた。

「話し続けていた方が、気が紛れるかな。」

もう一度頷く。

クスリ、と烏瓜さんが笑った。

「・・・其れじゃ、昔の話をしてあげよう。」

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・・・・・・・・・。

此れは・・・そうだな。

私が高校生の時の話さ。

・・・其の日、私は暗い夜道を歩いていたんだ。

ほら、私の家って田舎の中でかなりの物だろ?

本を買いに町まで行って・・・。

確か・・・春先でね。

肌寒い日だったな。

街灯に凭れ掛かって、何かが荒い息をしていたんだよ。

見る所、どうやら女性の様だが・・・。

どう見ても生きている人間では無いんだ。

頭の中で《危険だ》《近付いてはいけない》と言う警報が鳴っていたんだけど・・・。

あんまり美しい人だったから・・・・・・。

私はつい、フラフラと其の女性に近付いてしまったんだ。

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・・・・・・・・・。

「・・・思えばあれが、全ての始まりだったな。色々な事の。あの地獄の様な春休みの。」

「そう。彼女に出逢って、全てが始まった。」

「彼女・・・キスショット・アセロラオリ」

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「ダウトォォォォォォ!!!!」

烏瓜さんが全てを言い終える前に、全力で叫んだ。

「あ、バレた?」

「当たり前ですよ!!あんたの何処が阿良々木暦だ!!馬鹿か!!」

「結構いけてると思ったんだけどなぁ。」

「いけてないですよ!!途中まで真面目に聞いていた僕は一体何だったんですか!!」

「はっはー。」

「パクるならせめてキャラを統一しろ!!」

「おお。此れもバレたか。流石だね野葡萄君。」

「五月蝿い!!」

「・・・此れでもう、怖くないね?」

「・・・・・・。はい。」

車が急に速度を落とした。

ガタガタと何かを乗り越え、車の振動が止まる。

烏瓜さんが言った。

「・・・コンビニに寄ったから。何か必要な物はあるかい?流石に、目隠しをしたまま降ろす訳にもいかないからね。」

「・・・・・・大丈夫です。」

そう答えると、頭に何かがポフリ、と置かれた。

置かれた何か(多分、烏瓜さんの手だと思うが)が、ポフポフと頭の上で跳ねる。

「私に言われても苛立つだけかも知れないが、余り無理はしない様に。車の中で怖くなったら目隠しをほどいて電話をしなさい。」

僕が頷くと、バタンとドアが閉まった音が聞こえた。

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・・・・・・・・・。

烏瓜さんは直ぐに帰って来た。

再び車が走り出す。

「・・・何を買ったんですか?」

「供物は用意していたんだけどね。足りないかも知れないと思って。モンブラン買った。」

洋生菓子・・・。神様への供物に?

「供物にモンブラン?」

「うん。甘い物。」

甘い物・・・。

「甘い物が、良いんですか?」

「性格にもよりけりだけどね。ケースバイケースだよ。今回は甘い物が有効ってだけさ。」

「へぇ・・・。」

まぁ、そう言えばミズチ様もケーキとか食べるし・・・可笑しくは無いのかな。

「あ、そろそろ山に入るよ。道が悪くなるから気を付けて。」

言った直後、ガタガタと車体が揺れ始めた。

「四時二十分か・・・。少し遅れてるな。」

揺れが大きくなった。

山道を進んでいるのだろう。

「そろそろ着くよ。」

烏瓜さんが何時に無く真面目な声で言った。

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・・・・・・・・・。

車が停まった。

バタンとドアが開き、僕の目隠しが外された。

「着いたよ。此処からは歩きだから。」

目の前に広がって居たのは・・・

人工物が一切見えない、ひたすらに森の風景。

怖い。

直感的にそう思った。

「・・・ほら、あれ私達の行く道だ。」

枯れ葉や腐葉土の中に落ちていた髪の毛を、烏瓜さんが指差した。

髪の毛は何故か薄暗い中でも、ハッキリと見えた。

細い獣道へと繋がっている。

「・・・・・・行こう。」

烏瓜さんが、両手に荷物を持ち、ゆっくりと歩き出した。

僕も恐る恐る車から出て、其の後に続いた。

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・・・・・・・・・。

辛うじて草が無い程度の、長い長い髪の毛が落ちている道を歩く事、およそ十分。

円形に草木が無くなっている場所に出た。

入り口は僕達が入って来た所のみ。

犬小屋程の、小さな祠が一つ設置されている。

長い髪の毛は、其の祠の、閉じられた戸の隙間から出ていた。

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・・・・・・・・・。

「さて、早く終わらせてしまおう。」

烏瓜さんが鋏を取り出した。

文房具として使われている様な、極々普通の鋏だ。

扉ギリギリの所に鋏を当て、ジョキリと切り取る。

「はい、おしまい。」

「・・・え?」

パン、と烏瓜さんが手を叩いた。

「さて、供物を置いて、さっさと帰ろうか。」

そして、ガサガサと供物(タッパーに入った煮物や果物、先程購入したモンブラン等)を祠の前に置く。

「其れでは、また来年。」

そして、軽く手を合わせる。

僕も慌てて祠の前に行き、手を合わせた。

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・・・・・・・・・。

烏瓜さんが立ち上がり、元々置いてあった古いタッパー等を袋に入れた。

「帰ろうか。」

「随分呆気無かったですね。」

「そうでも無いのさ。・・・はい、左手出して。」

「・・・?・・・・・・はい。」

僕は大人しく左手を差し出した。

「ごめんね。」

ガシッ

と烏瓜さんが僕の手を掴む。

僕は思わず呟いた。

「・・・え。」

手の掴み方はこう・・・指を交互に絡める感じの奴だった。力が強い。指が痛い。

しかも烏瓜さんは、其処に更に包帯をぐるんぐるんに巻き付けている。

「此れって・・・。」

「此処から先、絶対に此の手を離してはいけないよ。たとえ、私の声が君に何と言っても。隣の私がどんなモノに見えても。」

「・・・・・・。」

「絶対に目に見える物、耳に聞こえる物を信じてはいけない。此の繋がれた手の感覚だけを信じて歩くんだ。いいね?」

烏瓜さんはとても真面目な声をしていた。

気迫に押され、思わず頷く。

烏瓜さんは更に言う。

「出来れば、後ろを振り返らない事をお勧めするよ。見てはならないモノではないが、見て楽しいモノでもないからね。」

「あの、もしかして、追い掛けて来るんですか?」

僕がそう聞くと、烏瓜さんは当たり前の様に言った。

「うん。髪を切られたからね。抜かれたまででは無い物の、怒りは強い。」

「リアルな神の怒りじゃないですか!」

「髪を切られた神の怒り・・・・・・。」

「・・・・・・烏瓜さん。」

「ほら行こう。日が暮れてしまう。」

烏瓜さんが歩き始める。

「ちょ、烏瓜さん?!」

「出て来る前に、なるべく遠くまで行こう。」

僕も、引き摺られる様にして歩き始めた。

烏瓜さんが言う。

「怖がらなくていいからね。危険な目には会わせないと言っただろう?」

「・・・はい!」

僕はもう一度大きく頷いた。

後ろの祠から、カタン、と音が聞こえた。

烏瓜さんに言われていたのに、思わず振り向く。

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祠の扉の隙間から、幼稚園児の様にか細く、老人の様に皺だらけの腕が、覗いていた。

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・・・・・・・・・。

「道を間違えてしまった様だ。引き返そう。」

「あ、夕飯の材料買ってない。帰りに何処か寄らなくては・・・。」

「別に何も付いて来てないみたいだ。もう、手を離しても良いんじゃないかな。」

「ほら、もう大丈夫だって。手を離したまえよ。」

「ほら、こんな道、来る時には通って来なかったよ。引き返そう。」

「もちたろう、元気かな・・・。」

「手遅れになって遭難だなんて、私は嫌だよ。」

「君も人の話を聞かないね。もう危ない事は無いんだよ。手を離しなさい。」

烏瓜さんの声が《手を離せ》《引き返せ》とひっきりなしに言っている。

・・・偶に変なのが混じってるけど。

「戻ろう。此のままだと本当に遭難だ。」

隣で烏瓜さんが立ち止まった。

然し、烏瓜さんと繋いでいる筈の左手は、引っ張られてどんどん先に進んで行く。

「野葡萄君。ほら、戻ろう。」

僕の右腕を、烏瓜さんが掴んだ。

・・・いや。烏瓜さんではない。

彼は僕の左手を掴んでいるのだ。

無理な体制をすれば、出来ない事ではないかも知れないけれど、僕の右腕を掴む事は難しい。

それに、烏瓜さんの手はこんなに小さくない。

此れは烏瓜さんの手ではない。

あの、子供の様な老人の様な手が頭に浮かんだ。

「戻ろう。手を離しなさい。」

無視をして歩き続ける。

「戻ろう。」

強く右腕を引っ張られた。

「痛っ・・・!」

「手を離しなさい。」

今度は、繋がれている左手を手が掴む。

掴んでいる手は、やはりあの皺だらけの手だった。

「離しなさい。」

爪を立てて、巻かれている布を裂こうとする。

「離しなさい。」

烏瓜さんの右手に爪が食い込み、血が滴った。

「離しなさい。」

嗄れた声は、何時もの烏瓜さんの声では無く、何処かの知らない老人の声に聞こえる。

「離しなさい。」

声は、どんどん聞こえる間隔を狭め、最後は重なる様にして聞こえた。

「離しなさい」「離しなさい」「離しなさ「離しなさい」「離し「離しなさ「離しなさい」「離しなさ「離しなさい」「離「離しなさ「離しなさ「離しなさ「離し「離しなさい」

キャハハ

加えて子供の声が聞こえて来た。

無邪気そうな、男とも女とも取れない声。

楽しげに笑っている声だ。

グニャリと景色が揺らぐ。

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「野葡萄君、右手を出して!!」

突然、ハッキリと烏瓜さんの声が聞こえた。

言われた通りに右手を前に突き出す。

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其の途端、右手の甲に赤い筋が入った。

「・・・・・・え?」

何か鋭利な物で、切り付けられたのだ。

傷は極浅い物らしく、血は余り出て来ない。

「ごめん。」

烏瓜さんが申し訳無さそうに言った。

何時の間にか、「離しなさい。」と言う声も、あの笑い声も、止んでいた。

「・・・・・・見てごらん。」

烏瓜さんがそっと、木立の間を指差した。

其処には

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一人の、酷く小さな老人が立っていた。

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・・・・・・・・・。

身長は・・・大体、120センチ有るか無いか。

ヨレヨレの着物を着ていて、頭が歪に大きい。

手足は細く、丁度、小さな子供の様なアンバランスさだ。

子供が其のまま老人になったかの様な感じだった。

頭はツルリとした禿げ頭で、頭の真ん中から一本だけ髪の毛が出ている。

「あの人は・・・・・・。」

烏瓜さんが言った。

「あれが、此の山の《神様》だよ。」

神様は、ボロボロと泣いていた。

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・・・・・・・・・。

ゆらり

《神様》がゆっくりと此方に向かって歩き始めた。

「か、烏瓜さん!」

「落ち着いて。じっとしていなさい。」

僕は慌てて逃げようとしたが、烏瓜さんに窘められ、足を止めた。

《神様》はゆらゆらと此方に近付き、僕の目の前に来た。

目からは、まだ涙が流れている。

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・・・・・・・・・。

「ぼう。」

《神様》は僕の方を見て、そう言った。

「・・・・・・ぼう?」

《神様》は続ける。

「ぼう、ごめんよ。じいが悪かった。痛かったろうに。じいを許しておくれ。」

「・・・え?」

《神様》が僕の右手を取り、泣きながら撫で擦る。

「痛かったろうになぁ。こんなに血も出て。今、じいが治してやるからな。泣くんじゃねぇぞ。もう大丈夫だからなぁ。」

僕が困惑しながら烏瓜さんの方を見ると、何故か二、三回頷かれた。

何が言いたいんだろう・・・。

《神様》は依然として僕の手を撫でてるし。

僕は軽く首を傾げながら、ひたすらに僕の手を撫で擦る《神様》を見た。

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・・・・・・・・・。

「よーし、此れでもう大丈夫だ。よく泣かなかったなぁ。偉いぞ、ぼう。お前も男だもんなぁ。何時までも泣き虫じゃあねえよな。じいは嬉しいよ。」

《神様》がそう言って、僕の手を離した。

見ると、手の切り傷はすっかり消えてしまっていた。

「・・・ありがとうございます。」

「うんうん。大した事無くて本当に良かった。ちゃんと礼も言えてなぁ。ぼうは本当に出来た子だ。」

《神様》が此方に手を伸ばし、僕の頭を撫でようとした。

・・・・・・が、如何せん腕が短いので僕の頭まで届かない。

なので、僕は軽く頭を下げた。

「ありがとうよ。ぼう。」

《神様》はニッコリと笑い、其れからまた暫く、僕の頭を撫でていた。

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・・・・・・・・・。

「・・・時に、ぼう。」

僕の頭から手を離し、烏瓜さんの方を見ながら《神様》が言った。

「は、はい。何ですか。」

「ぼうの隣に居る奴何だがな。そいつはとっても悪い奴なんだ。ぼうの事を切り付けもしたろう?」

《神様》の目がスッと細くなる。

「・・・だから、じいが連れて行っちまうけど、いいな?」

急に空気が冷たくなった気がした。

烏瓜さんは何も言わない。

「・・・な?ほら、手を離しなさい。」

《神様》が覗き込む様に此方を見た。

僕は恐る恐る答えた。

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「駄目・・・です。ごめんなさい。」

心底不思議そうに《神様》が首を捻った。

「どうしてだい?」

「どうしてって・・・。」

全てを見透かしている様に《神様》は言う。

「そいつは、ぼうに酷い事をしたじゃあないか。色々とさ。」

「ごめんなさい。嫌何です。」

「・・・・・・駄目なのかい?」

「はい。」

「・・・こいつは、ぼうの一体何だ。」

直感的に《知り合い》や《友人》では駄目な気がした。

「・・・・・・兄です。」

・・・こんな嘘が通じるとも思えないが。

「そうか。」

然し、《神様》は思ったより簡単に納得した。

そして腕を組み、うーむ、と考え込む。

「お願いします。助けて下さい。」

僕は深く深く頭を下げた。

《神様》はまだ考え込んでいる。

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・・・・・・・・・。

軈て、《神様》は言った。

「・・・・・・ぼうにかかっちゃ、仕方ねぇなあ。」

「ありがとうございま・・・え?」

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目を開くと《神様》は消え去っていて、夕暮れだった辺りは、一面真っ暗になっていた。

そして目の前には、兎マークの車。

「え?」

「あ、もう着いてたんだ。」

「此れって・・・」

「帰ろうか。野葡萄君。」

隣の烏瓜さんがそう言って、手に結ばれていた布を解いた。

「・・・・・・・・・はい。」

僕は釈然としないまま、小さく頷いた。

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・・・・・・・・・。

車を見ると時刻は午前1時。

「凄い時刻になっちゃいましたね。」

「本当だね。油断していたよ。」

「油断って・・・・・・。」

「・・・此れ、もしかして誘拐的な何かに見えるのかな。」

「かもですね。」

「君、只今絶賛目隠し中だし。」

「何処からどう見ても不審者ですよ。おめでとうございます。」

「・・・野葡萄君の御両親に一体どう説明すれば・・・・・・!」

「《遅くなるか、下手をすれば泊まり込みになる》と伝えてあります。」

「其れでも、大の大人がこんな時間まで子供を連れ回すのはアウトだろう・・・!!」

「まぁ、普通に家の前で降ろして下さい。」

「・・・そうかな。」

「ええ。」

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・・・・・・・・・。

家に着いたはいいが、鍵が掛けられていた。

ドアに一枚の貼り紙。

「コンソメへ。

父さんと遊びに行く事にしました。

明日には帰りたいと思っています。

温泉です。本当はコンソメも誘おうと思ったのですが、正直面倒だし、貴方も友達と遊んでる方が楽しそうなので、止めました。

明日の夕飯は準備しなくて大丈夫です。

PS. 帰る時は弟か妹が一緒かも知れません。」

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・・・・・・・・・。

「・・・・・・嘘だろ。」

「えっと・・・どうする?」

「どうしましょうね。僕的には、一緒に料理を出来ればどっちでも良いのですが・・・。」

「いや、そっちでなく。」

「・・・・・・烏瓜さん。」

「何?」

「烏瓜さんって、独り暮らしでしたっけ。」

「うん。一応ね。」

「泊めて頂けません?もし宜しければ、ですけど。」

「構わないけど。・・・其れって、君として大丈夫なのかい?」

「どうしてですか?」

「・・・君ね。私が言うのも何だけど、初めて会った時の事を覚えているかい?」

「ええ。最高に気持ち悪かったです。」

「だったら、もう少し警戒心と言う物をだね・・・。」

「信用していると言いました。大体、此の間も一泊したじゃないですか。其れに、聞きたい事もあるんです。」

「・・・・・・成る程。まぁ、私も《兄》と言われてしまったからなぁ。弟を寒空の下に放り出す訳にもいかないか。」

烏瓜さんがポリポリと首を掻く。

「ありがとうございます。兄さん。」

「うん。・・・否定しないんだね。」

「服、取って来ます。」

「え?合鍵持ってるの?」

「はい。」

頷いて、合鍵でドアを開けた。

「じゃあ別に家に入れない訳じゃ・・・」

「独りは嫌何ですよね。お化けとか出たら怖いじゃないですか。あんなアルバイトの後ですし。」

「君が其れを言うのか・・・。」

「ええ。だから、兄さんが泊めてくれると言ってくれて助かりました。」

「・・・・・・・・・。」

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ドアを閉める瞬間、後ろから

「・・・・・・・・・・・・《兄さん》か。」

と言う声が聞こえた。

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・・・・・・・・・。

そう言う訳で、僕に兄が増えた。

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