中編6
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掃除機は使わない

私は、もう世間ではだいぶいい歳のおっさんとみられる年齢で、お恥ずかしながら、未だ気ままなバイト暮らしを続けている変人なのですが…

そんな話は置いといて

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今日の話は、私が以前、お世話になったバイト先の社長にまつわるお話です。

そのバイト先というのは、清掃業。ただし、ただの清掃業ではありません。

いわゆる、「特殊清掃」というジャンルのお仕事です。

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「特殊清掃」についてご存じない方もいらっしゃると思いますので補足としてどんなことをするのかを簡単にご紹介しましょう。

基本的に、部屋を掃除するのですが、掃除する場所が普通と違うわけです。

具体的に言うと、ゴミ屋敷とか、あとは、失踪者住居(住んでた人がトンずらしちゃった奴)とか、それから、昨今メディアで問題になっている、孤独死住居など、住人が死んじゃった部屋を掃除するというお仕事です。

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この仕事、始めた当初はやっぱり凄くショッキングでした、特に匂いと蟲が酷い。

ただし、私の場合は根がズボラな性質であったため、しばらくすると気にならなくなってきました。人によって個人差はあると思いますが、結構、給料はいいのでもし興味のある方はやってみられてはいかがでしょうか^^。

って…そんなことは置いといて。

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その日は、初めてバイトに行く会社だったのですが、内容自体は他で結構やっていたので緊張とかそういうのは特にありませんでした。

早朝、会社の事務所(事務所といっても社長の自宅の裏のプレハブ倉庫なんですが)に集合し、一通りのあいさつを終えて現場に出発しました。

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現場に着くとさっさく社長が、

「A君、この機材一式、あのマンションの401に運ぶから」

「はい、わかりました」

いつものように、機材を運び込んだのですが、私はいつも使ってる「あるもの」がないことに気がついた。

「あれ、掃除機ないんだ…」

私は、ちょっと釈然としなかったけれど、モップや、洗剤、スチーマー、雑巾etcをどんどん部屋に運び込んだ。

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その日の現場は、いわゆる失踪者住居ってやつで、まず、部屋の中にたまったごみを、袋に詰めてそれを、トラックに運び込み、ようやく床が見える状態なるころには、すでに昼になっていた。

昼飯の弁当を社長と一緒に食べながら、その時に私は、朝、気になったことを社長に聞いてみた。

「そういえば、社長。僕余所でも、このバイトやってるんですけど。今までいったとこだと、大体結構大きめの掃除機とかつかってたんですけど、此方は使われないんですね」

「ああ、うちは掃除機は使わないことにしているんだよ」

「え?どうしてですか?」

「掃除機って結構大きな音がするよね。だからだよ」

「あ、やっぱ近隣の苦情とか、そうゆうことですか?」

「いや、そういうことじゃないんだけど…」

「え?」

「まぁ…いいじゃないか、とにかくうちは掃除機はつかわないんだ」

「あ、それからA君、もし現場で何か気がついたことがあったら、ちゃんと報告してね」

「はぁ…」

報告って…、こんなゴミ掃除するだけなのに、報告するような内容ないんじゃねってその時は思ったのですが…。

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その日、夕方近くになってようやく作業が終了したのだが、やっぱり掃除機がないと

かなりつらかった。はっきり言って、箒と塵取りでやるのは、メンドくさかったし…なんで、掃除機使わんねんって正直思った。

僕は、もうこの会社のバイトは受けないでおこうかなって正直そんなことを考えていたのだが、その時、社長が

「A君、今日もし時間があったら、この後飲みに行かないか?」

「今日は良くやってくれたし、今後もお願いしたいし、まぁお近づきの印にっていうじゃないけど、どう?」

僕は、正直無類の酒好きだ。社長の方から誘ってくれているんだし、奢りってことだろ。

「ありがとうございます。」

僕は、一つ返事で引き受けた。

「そうか、ほんなら家の近くにいい飲み屋あるからそこへ行こう」

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僕らは、社長の家の近くにある、駅前の飲み屋に入った。

およそ、2時間くらいみんなでワイワイ飲んで、もう結構いい感じに出来上がったころ、僕は昼間の掃除機のことを思い出した。

「社長、そういえば昼のあの掃除機の話」

「ああ…」

社長の顔が少し曇った感じがしたのだが、出来上がってる勢いもあって

「絶対、掃除機あったほうがいいすよ。だって断然早しい、楽ですもん」

「A君…その話は…」

社員のBさんが結構真面目なテンションで話を遮った。

「え??なんすか。なんか不味いすか?」

「いいんだ、B。この際だからA君にも聞いてもらおう」

社長がゆっくりと話し始めた。

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その日の現場は、自殺者住居の清掃で、汚れがひどくて、季節は真夏、匂いも相当だった。

ゴミをとりあえずかたづけて、床に残った蟲とかそういうのを掃除機で吸って、消毒と

匂い消しを施してその現場は丸2日ほどかかって全ての作業を完了し、写真を撮って終了した。

そして、それから、約2週間ほどたったころに、その現場の大家から連絡があった。

大家からの連絡は、苦情で、部屋の匂いが取れていないというものだった。

この商売は、アフターケアが大切なので社長は急いで、現場の様子を見に行ったという。

階段を上って、風下から部屋に向かったのだが、その途上から、例の匂いがする。

不審に思ったものの、何か物が残っていたのかもしれないと思い、大家から借りた

鍵で、部屋を開けた。

ムーとする。ものすごい匂いと、熱気に湿気。そして小さな蟲の大群が…

社長は、外に漏れると不味いので、すぐに扉を閉めて、部屋の中の様子を調べたのだという。

部屋は、確かに蟲と匂いがすごいのだが、ゴミの類はなく、さらに2週間前に写真に撮った通りであったという。

社長は、匂いの発生源を突き止めようと、排水溝や、トイレ、洗面所など次々に見て回って、最後に押入れの戸をあけた。

そこでさらに、強烈な匂いと、蟲の大群に襲われた。

「匂いのもとは、ここか…」

息も絶え絶えになりながら、押入れの中を観察すると、押入れの角の羽目板の色が変色し、

大きくたわんでいたという。

「サイズからして、猫や、犬じゃないってことは、見た瞬間わかったよ」

社長は、すぐに警察に連絡した。

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数分後到着した警察によって、押入れは捜索され、天井裏から女性とみられる変死体が発見された。

社長は事情聴取をうけ、それまでの経緯を説明した。

この変死体の身元はは、近隣で行方不明になっていた女子高生と判明した。

その後の警察の捜査によって、この部屋の、自殺した男が屋根裏に女子高生を監禁していたのだった。

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警察の話によると、女子高生はさるぐつわをされており、死後一週間程度経過していたそうだ。

屋根裏はまさに地獄で、いたるところを爪で掻きむしったのか、血だらけの有様だったそうである。

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社長は、言葉に詰まりながら、

「あの時、まだ生きていたんだ…おれたちがいたあの部屋で」

「あの時もっと注意して作業していたら、気がついてやれたかもしれないと思うとやり切れない…」

それ以来、掃除機など、大きな音の出る機材は使わないことにしたのだそうだ。

僕は、内心、この会社、貧乏で掃除機を買えないのかなとか、ゲスなことを考えていたのだが、そんな理由だったとは…。

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その会社は今は、もうないけど。今でも僕は清掃のバイトに行くときは、周囲の音とかそういうものに気をつけて作業するようにしている。

えらいでしょ^^。

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