中編4
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ウタバコ・7

此れは、ウタバコ・6の続きだ。

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・・・・・・・・・。

目を醒ますと、赤黒い模様で彩られた壁が見えた。

窓が開けられている。息をしてみると、空気が澱んでいなかった。

背中に柔らかい感触。頭の下にも。どうやら布団に寝かされている様だ。斉藤が運んでくれたのだろうか。

部屋の隅に、女が座って居た。蛇は何時の間にか女の元へと戻っていて、グルグルと彼女に巻き付いていた。彼女は、何処か詰まらなそうに宙を見ていた。

どうやら、斉藤は居ないらしい。

僕は布団から上体を起こし、目元を擦った。

手に付く目脂の感触からすると、気を失ってしまった後、其のまま寝てしまったのだろう。

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気を失って・・・・・・?

僕はどうして気を失ったのだろうか。

あの歌の所為ならば、聞き始めた瞬間的に気を失う筈だ。

蛇か?

然し、其れだって僕は確りと見ている。

ならば・・・・・・。

あの女か。

僕は、部屋の隅をチラリと盗み見た。

確かあの時、歌う斉藤を見て、斉藤の口から出てる蛇を見て、其れから彼女を見て・・・・・・。

記憶は其処で途切れている。と、言う事は、やはり失神の原因は彼女らしい。

彼女は笑った後、何をしたのだろうか。

・・・・・・駄目だ。思い出せない。気を失ったのだから当たり前の話かも知れないが。

溜め息を吐くと、溜め息と共に欠伸が出た。

「ふぁーぁ。」

どの位眠っていたのだろう。

部屋が薄暗くなり始めている。

・・・・・・兎も角、斉藤を捜さないと。

布団から出ると、女は一瞬だけ此方を見た。

目を合わせない様にしながら荷物を手に取ろうとする。

すると、ドタドタドタ、と言う音が聞こえて来た。誰かが階段を駆け上っているらしい。

僕は荷物へと伸ばす手を止め、ドアの方を向いた。

ガチャン

ドアが勢い良く開かれた。

斉藤が、何かの盆を持って、立っている。

「・・・・・・起きたのか。」

「うん。」

斉藤の眼が、大きく見開かれた。

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・・・・・・・・・。

斉藤が持って来たのは、葛湯だった。大きな湯呑みに入っていて、仄かに生姜の香りがする。

「ありがとう。悪いな。迷惑掛けちゃって。」

僕がそう言って軽く頭を下げると、斉藤は少しだけ申し訳なさそうに

「んん・・・。」

と、否定とも肯定とも取れる様な返事をした。

葛湯は甘くて、寝起きの気怠い体に心地好かった。

「美味しい。ごちそうさま。」

「いや・・・お湯注いで作るだけの奴だから、礼とかいいよ。俺の所為で酷い目に遭わせたし。」

「酷い目?」

自分がどうなっていたのか、知りたかった。

斉藤は何処かに気不味そうに目を伏せた。

「歌を・・・ウタバコの歌を聴いてたら、いきなり、バタンって音がして、見たら、お前が倒れてた。」

「そうなんだ・・・。」

彼には、自分が歌っているのだという自覚が無いのか。

「救急車呼ぼうとも思ったんだけど・・・少ししたら寝息が聞こえ始めたから。起こすのも悪かったし、勝手に運ばせて貰った。」

「・・・ありがとう。あの、今って・・・。」

「五時。」

予想より大分遅かった。

此れでは、もう帰る時間になってしまう。

僕は慌てながら尋ねた。

「あの・・・倉は・・・。」

「今日はもう遅いから、また今度な。暗くなると道、分からないだろ。送ってくよ。」

「・・・・・・うん。」

本当なら無理を言ってでも見せて貰うべきだったのかも知れない。だが、僕は反論せずに小さく頷いた。

相手に掛かる迷惑云々の前に、こんな逢魔時に、暗い倉を見るのが怖かったのだ。

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・・・・・・・・・。

斉藤は、学校の前まで送ってくれた。

「なぁ。」

帰り際に斉藤は言った。

「紺野。」

「うん?」

「ウタバコは・・・あれは、もしかして、」

顔に、焦りとも不安とも付かない色が浮かんでいた。

きっと、僕がウタバコの所為で失神したからだ。

「・・・分からないよ。」

態と曖昧な答えを出した。

そして、ニヤリと笑ってみせる。リスペクト薄塩である。

「でも、怖かった。僕には。」「じゃあ、今日は有り難う。」「帰り道、気を付けて。」

続けて言うと、斉藤は何処かボンヤリしながら

「・・・おお。」

と右手を挙げた。

斉藤は立ち竦んでいた。途方に暮れている様にも見えた。

僕は軽く一礼し、家路に着いた。

振り返ると、蛇も女も、今日は付いて来ていなかった。

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・・・・・・・・・。

最初の曲がり角を右折し、携帯電話を取り出す。

電話帳から番号を選び、鳴らす。

数回のコールの後、相手が出た。

「もしもし。のり姉ーーーー

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mamiさんへ
コメントありがとうございます。

ミズチ様のキャパオーバーで一瞬意識が飛び、其処から熟睡してしまったのだと思われます。
よく有る、癖の様な物です。どうぞ御気になさらず。
とは言え、何時もは失神しても数分ですからね。何か理由が有ってあんな長く気を失っていたのかも知れません。
今となっては知る術も有りませんが・・・。

紫月花夜さんへ
コメントありがとうございます。

今晩は。

いえ、気絶は・・・。単に癖と申しますか・・・。其処まで珍しい物では無いんです。
ピザポの吐き癖の様な物でして。はい。

インスタントでお湯を注いで作る奴が有ったそうですよ。ダマは無かったし、味も生姜風味で中々美味しかったです。
今では我が家にも置いて有ります。柚子味の物と黒糖味の物が、特に気に入っています。

斉藤も凄い勢いで動揺していて誠に愉か・・・基、心配を掛けてしまいました。

色々有りました!
続きをアップしましたので、宜しければ、お付き合いください。

紫さんへ
コメントありがとうございます。

色々と有りましたよ。
歌の方は、割かし有名な曲でした。
後々、作中にも出て来ますよ。

心配をお掛けし、申し訳無いです。

8をアップさせて頂きました。
宜しければ、お付き合いください。

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こんばんは♪紫です(*^-^*)

なんだかいよいよ雲行きが怪しくなってきましたね。
ウタバコ、なんと唄っているのでしょう?
歌詞が非常に気になります…

ひとまず紺野さんに何もなくて少し安心いたしました。

次回を心待ちに致しております。