長編9
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泣かないで

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私は山本愛。高校3年。

企業の内定も貰って、後は卒業を待つだけ。

勿論彼氏もいる。同じ学年の大津稔。

稔の御両親は、美容室を経営していている。

そのため稔は、跡継ぎになる為に卒業後は美容専門学校へ行く。

付き合って1年。

高校2年の夏休み、稔から近くの河原で開かれる花火大会に誘われた。

その時に、告白されたのです。

わりとイケメンタイプだった稔。

見た目はチャラチャラしてたけど、中身はシャイな男子で、気になる存在ではあった。

「山本さん。1年の頃から好きだったんだ……。

付き合ってくれる?」

照れながら告白する姿に、心臓がキュンキュン!と鳴り響いた。

「……ぅん。私も好きだった……」

私も照れて、稔の顔が見れなくなった。

「マジで!」

「うん。マジだよ……」

「やった!」

よほど嬉しかったのか、私の両手を強く握り締めてきた。

「ぁ……」

私が小さな声を上げると、稔は「ごめん」と一言。

そして、照れながら握っていた私の両手を離した。

そして、人がゴチャゴチャしている川沿いの散歩コースを、公園の方に歩いていると、稔は「迷子になったら探せなくなるから」と、左手を差し出した。

私は一瞬照れたけど、素直に自分の右手を出して手を繋いだ。

初々しい、2人のカップル。

周りにはどんな風に映ってるのかな……。なんて考えながら、ゆっくりと手を繋いで歩く。

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稔から告白をされ、 付き合って半年目にお互いの親に紹介。

親に黙って会ったりする事に抵抗があった稔は、私に「半年続いたら、お互いの親に紹介しよう」と提案された。

反対する意味もないから、勿論OKの返事をした。

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それから、デートもした。

最初のデートは、近所の小高い山へピクニック。

弁当も作るから、朝の5時から準備して、張り切ってたら炊飯器のタイマーを入れ忘れていて、ご飯が間に合わなくてコンビニでおにぎり買ったり。

稔は「失敗は成功のもと」と言っくれて、落ち込んでた私を励ましてくれたり。

作ったオカズも「美味しい」と言ってくれた後「嫁にしてもいいかも」なんて冗談言ったり……。

楽しいピクニックだった。

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次に行ったのは、県境に建つ遊園地。

ここまでは、バスで行った。

ジェットコースターや、ゴーカートなど子供の頃、楽しんだ乗り物に稔と乗る事が出来た。

それだけで、大満足だった。

しかし、観覧車だけは乗れなかった。

その理由は高所恐怖症等ではなく、カップルや家族など2人以上で乗ると必ず別れる。というイワク付きの観覧車だったから……。

迷信だと信じなかった私の友達は、付き合って1年の彼氏と例の観覧車に乗った。

羨ましいって思うほどラボラボな2人だったのに、観覧車に乗ってから1ヶ月経った時に突然別れた。

別れた理由は彼氏から「飽きた」と言われ、泣いて懇願したが修復はできなくなってしまった。

友達は泣きながら「観覧車なんて乗るんじゃなかった……」と、私の腕の中で泣きじゃくった。

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次に行ったのは、水族館。

家族と子供の頃行った記憶はあるが、ほとんど覚えていなかった。

だから新鮮だった。初めて来た感覚。

それもそのはず。

老朽化が進み、3年前に建て替えられていたから……。

それじゃ、覚えていないのは当たり前田のクラッカー!(笑)で……。

綺麗な魚や、大きな魚まで沢山泳いでいて目の保養にもなった。

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そうこうしているうちに、季節は夏から秋へ、秋から冬へと季節も変わり 、新年を迎えた。

家族への新年の挨拶も済み、私と稔は初詣に出掛けた。

少し大きな神社で、地元出身の歌手がいて、その歌手の苗字が付く公園があって、その公園の中に神社がある。

その神社でおみくじ引いて……。

私は中吉で、稔は大吉だった。

沢山いい事が書いてあり、仕事については「試練の時」と出ていた。

試練というか、美容専門学校に通うから試練といえば試練なのかもしれない。

美容師になる為に、勉強するわけだから。

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それから幾つかの時を重ね、私と稔は25歳の時に結婚をした。

稔は親の知り合いの美容室で美容師として働いていたが、経営者になれる資格も持っていたので独立し美容室を開店させた。

場所は、自宅から車で10分くらいの場所に建ってるため、通勤は稔の愛車。

私は高校卒業と同時に就職した建設会社で、受付と事務全般等の雑用業務をこなしていた。

仕事の退職について稔と義両親と話し合った結果、子供ができるまで働くという事で話がつき、それでお金を貯めようという考えだった。

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しかし、1年経っても3年経っても子供に恵まれない。

5年経っても結果は同じ。

基礎体温も、結婚当初から測り続けていて、高温期、低温期の流れも掴んできて、生理も遅れたり早まったりもなかった。

義母に相談したら、言われた言葉に抵抗があった。

『不妊治療』

5年の間、基礎体温を測って、高温期にちゃんと子作りもした。

しかし、高温期から低温期に入ると生理が始まり、生理の出血で落胆する。

もう何度も繰り返してる。

やはり不妊治療しか残されてないのか……。

稔になんて話そう……。

そればかり考えてしまい、ハンバーグにタマネギのみじん切り入れ忘れて焼いたり。

付け合せの人参のグラッセを作るのに、本当はバターを溶かしたお湯と砂糖とレモン汁で煮詰めなきゃいけないのにバターのみで煮詰めたり、全てにおいて失敗ばかり。

そんな姿を見た義母が「愛ちゃん。最近疲れてるね。1週間ほど家事を休みなさい。私がやるから。そして稔と不妊治療について話し合いなさい……。」と言ってくれた。

「ママさん、ありがと」

私は稔の帰りを待ち、一緒に夕飯食べた後、主寝室で不妊治療について相談した。

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「稔、相談があるんだけど……」

ベットに横になり、本を読んでいた稔に声を掛けた。

「うん?相談ってなに?」

稔はベットから起き上がり、私の方を見た。

「5年も子供出来んよね?」

「あぁ。そうだね……」

「ママさんから不妊治療を勧められたんよね……」

「不妊治療?」

稔の表情が一瞬変わった。

右の眉が、1度だけピクッと動くのだ。

こんな時は、凄く不愉快に感じている時だった。

稔は不妊治療を不愉快だと感じているのだ。

「不妊治療、稔は嫌なの?」

答えは予測できていたが、敢えて聞いてみた。

「嫌というか自分達の力で作りたい。医者の力を借りて命を作るのは嫌だ」

真面目な稔らしい答えだった。

「確かにそうだけど…… 」

その先の言葉がある見付からない。

「仮にどちらかに原因があって妊娠しないのであれば、それはそれで仕方ないだろ?

不妊治療までして欲しくはない」

稔は、頑固だから自分の答えや考えは曲げない。

例え、親に頼まれても……。

さらに続けて「お袋達も孫が欲しいのは分かるよ?

けどさ、妊娠して子供が産まれて、育てるのは俺等だろ?」だって……。

「稔の気持ちは分かった。不妊治療せずに頑張ろう」

こうやって、不妊治療をせず子作りに励むことにした。

2人の気持ちは固まった。

翌日の夕飯時、家族4人の席で、稔は親に不妊治療はしない事を宣言した。

義母は何か言いたそうにしていたが、稔の心が強い事を知っているのか、なにも言わなかった。

言葉数が少ない義父は、「うんうん」と言いながら、頷くだけだった。

稔は自分の思いを押し通した形となった。

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それから更に5年の月日が流れたが、子供はできないままお互い35歳を迎えた。

不妊治療も、何度か話が出たが結果は変わらず……。

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そんな寒い12月の中頃……。

朝食を済ませ、稔は美容室に向かう為に出掛けた。

「行ってらっしゃい」

私は稔を玄関先で見送り、稔は優しい声で「行ってきます」と頬にキスをしてそのまま車の方へ……。

私は室内に戻り、朝食の後片付けをしていた。

しかし、何分経っても稔の車のエンジン音が聞こえない。

車の中で何かしているのか気になった私は、自宅前の駐車スペースに行く事にした。

運転席を覗くと、稔は運転席に座り、首をうなだれている。

「寝てるの?」

そう呟きながら、運転席の窓を軽く叩いた。しかし反応なし。

運転席を開けて、実を揺すった。

それでも反応なし。

慌てて自宅に戻り、義両親に稔に意識がない事を告げ、救急車を呼び私は一緒に救急車に乗り込んだ。

救急隊員が救急車内で稔の反応を調べる。

脈をとったり……。

しかし、救急隊員から言われた言葉を聞いた私は、救急車の中で気を失った。

『お亡くなりになられてます』

寝耳に水……。

どうして稔が?

今朝まで元気だったのに!

朝食も一緒に食べたのに!

なんで突然!

そう思った時、気を失った。

目を覚ましたのは、その日のお昼過ぎ。

病院のベットの上だった。

義両親と私の両親が、泣きながらベットを囲んでいた。

「稔は?稔は無事?」

目覚めた一声は、稔の安否の確認。

すぐに確認したかった。

「心筋梗塞だって……。暖かい部屋から寒い車に乗ったのが原因だったって……」

義母が苦しそうに言っていた。

「違う!稔は死んでない!稔に会わせて!」

私はベットから起き上がった。

そして連れて行かされた場所は霊安室だった。

私は中に入る事が出来なかった。

入れる状態ではなかった。

ここに入ったら、稔の死を目の当たりにする。

稔が死んだなんて認めたくない。

ほんの数時間前、玄関先で見送ったばかり。

稔は優しい声で「行ってきます」って言ってくれた。

頬にキスもしてくれた。

夢なら覚めて欲しい……。

「現実を受け止めなさい!」

義母に背中を押されて、霊安室に入った。

霊安室は和室。

真ん中に、布団が敷いてあり誰かが寝ていた。

顔には白い布が掛けてある。

蝋燭に火がともり、線香も焚いてある。

私は、顔に掛けてある白い布を震える指で捲った。

「…………………………っ……」

そこには、優しい表情で目を閉じている稔がいた。

「稔!起きて?ねぇ!起きてよぉ!

仕事あるんでしょ?みんな稔のこと待ってるんだよ?だから起きて!」

叫ぶように言いながら、稔を揺すった。

「愛ちゃん……止めなさい。

稔が可哀想だよ……」

義母に優しく背中を撫でられた。

そこで、何かの糸が切れて、義母さんに抱きつき大声で泣いた。

それから、何をどうしたのか覚えていなかった。

お通夜でも、お葬式でも、火葬場でも、私は私ではなかったと義母が語ってくれた。

49日も過ぎ、荼毘にふされても稔の死を受け入れられなくなっていた。

仕事も休職扱いにしてもらい、泣きながら1日中アルバムを見る日々。

写真の中の稔は、優しい表情……。

そんな私を、義両親は優しく見守ってくれていた。

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年が明けたある日。

寝ている私の右手を、誰かが優しく握ってきた。

私は意識の中で、これは稔だと思った。

稔が戻ってきてくれた!

そう思った時……。

『泣かないで……お願いだから俺のために泣かないで……』

頭の中で稔の苦しそうな声が響いてきた。

『先に逝っちゃってゴメンネ……。

そして、新しい人を見つけて幸せになって?』

そう最後に稔は言って、稔は消えた。

実際に稔を確認してはいない。

感覚で分かったのだ。

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それから私は、普通の生活に戻れるように努力した。

あの日から私は泣くのを止めた。

泣いた涙の数だけ、稔が辛くなる。

そんな姿を見た義両親は、子供もいない、稔もいない、籍を抜いて新たな生活をするように言われた。

でもそれだけは出来なかった。

死別だけど、別れたわけじゃない。

だから籍は抜かなかった。

義両親の面倒も見ることに決めていたから……。

そして私は10年以上働いていた会社を辞めて、美容学校へ行き、美容師の免許を取った。

高齢の義両親の仕事の手伝いをする。

稔はいなくなったけど、稔の大切な義両親達と共に生きていく。

それが、私の使命。

神様が与えてくれた試練。

そう思いながら、日々を生きていく。

そう決めました。

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あんみつ姫様。コメントありがとうございます。

ご主人を癌で亡くされたのですね。
お辛かった事と思います。
自分の旦那は、癌とか治らない病気になった時は治療はせず、死を受け入れると言ってるので、1日1日を大切に生きていこうと思ってます。

思い出って、大切だと私は思います。
故人を思って偲ぶ事も大切なのではないかと……。
コメントありがとうございました。

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ロビンM子さん。コメントありがとうございます!
やっとコメント書いてもらえて嬉しいデフ☆彡.。
私はプロではないですよ~!




良い終わり方でしょ(笑)?

ま、また「おわり」が…ひ…やあロビンミッシェル子だ。
うっかり作者を確認せずに読み始めて、開始1分で涙が止まらなくなり、この素晴らしく綺麗な文章に「プロの方かな?」なんて思いながら読み進めていると、ラストの「おわり」で作者が誰だか分かってしまった俺を許してくれ!
今回も引き込まれてしまったよ!ありがとう…ひひ…

紫音稔さん。再びコメントありがとうございます。

出会いやデートの場面は想像ですけどね。
高校の同級生というのは、法事の席で聞いていたので勝手に話しを作りました。

でも、亡くなり方はほぼお話に書いた通りなので、私だったら折れまくります。
稔さんが元気な時は、本当に羨ましいって思えるほど仲がいい御夫婦だったので、最愛の夫を亡くした愛さんの気持ちは想像もできません。

まさりんさん

ほとんどがノンフィクションなんですね・・・

私だったら堪えられないな、きっと。

稔さんと愛さんの、お互いがお互いを思いやる愛情を想像して、バツ2の私はひとりでほっこりしてます。

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怖いというより・・・とても切なくて泣けます(╥ω╥`)

実際にこういう事が起きる可能性はなくはないなって事で、怖いを押させて頂きましたm(_ _)m