中編7
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恩返し

ゴミ捨て場で唖然として俺は、そいつを見ていた。

ゴミ袋を提げた俺は、ごみ収集所の網の回りの黒いやつらを追い払った。

カアカアと不満げにやつらが飛び立ったあとに、網の中で見つけた。

そいつは、バタバタと羽をバタつかせてもがき、あたり一面に羽毛を撒き散らしていた。

「鳩ぉ?」

思わず俺は声に出していた。

どうやってその中に入ってしまったのか、経緯は知らない。

「お前、どんくさいな。」

やれやれと思いつつ、俺は手で網をめくってやると、自由を得たそいつは、ぱたぱたと飛び立って行った。

そして、俺はゴミを放り投げると、鳥に荒されぬように、もう一度網をゴミに被せて仕事に出掛けた。

その日の夜、俺の部屋を訪ねる者が居た。

友人はおらず、ましてや、遠く離れた故郷の年老いた親が訪ねてくるとは思えなかった。

なんだよ、こんな時間に。新聞屋かあ?

ドアスコープを覗くと、そこには女が立っていた。

セールスではないようだ。バッグは持っていない。この時間の宗教はあり得ない。

「どちら様でしょうか?」

俺がドアの向こうからたずねると、女は下を向いてうなだれている。

「すみません。」

小さな声でそう言った。顔色が悪いようだ。

俺は、仕方なくチェーンをかけて、玄関を開けた。

「ちょっと気分が悪くて。お水を一杯いただけないでしょうか。」

女は消え入りそうな声でそう言った。俺は訝しげに思いながらも、ちょっと待ってくださいとその場で待たせて、コップに水を汲んできた。

そして、女はコップの水を飲み干すと、そこに座り込んでしまった。

「だ、大丈夫ですか?救急車、呼びましょうか?」

「大丈夫。貧血なんです。しばらくこうしてたら治りますから。」

そういわれても、そこに居座られたら迷惑なんだけどなあ。

俺は仕方なく、チェーンを外すと、女を中に招き入れた。

ふらつく女をまずは、キッチンの椅子に座らせた。

「ほんとうに大丈夫?マジで救急車呼んであげるよ?」

そう言うと、女は頑なに首を横に振った。

「じゃあ、しばらく休んで。隣の部屋にソファーがあるから。横になりなよ。俺は隣の部屋に居るから。」

「ご親切に。ありがとうございます。」

そう言うと、女はソファーに体を横たえた。

よく見れば、かわいい。めちゃくちゃ俺のタイプだ。くりっとした小動物のような大きな目。

簡単に女を中に入れたのは、下心が無かったわけでもない。

結局、その女はソファーで眠ってしまった。

マジか。見知らぬ女を泊めてしまった。まさか、そういう強盗じゃないだろうな?

俺はその夜、一睡も出来なかった。

結局、女は強盗などではなかった。

俺は一睡もしなかったので、つい朝方うとうとしてしまい、いい匂いに起こされた。

「夕べはありがとうございます。お礼に、朝ごはん作りました。」

テーブルの上には、久しぶりのまともな朝飯が並んでいた。

はっきり言って異常事態だ。夕べいきなり訪れた見知らぬ女を泊め、その女は朝飯を作っているのだ。

何かある。俺は、警戒心マックスだった。

それを察してか、彼女の方が先に

「いただきます。」と言い、朝飯を食べ始めた。

「何も盛ったりしてませんよ?」

俺の心を読んでか、そう言うと、俺のおかずをつまみ食いして見せて、にっこりと笑った。

「いただきます。」

腹が減った俺は、貪るように食べた。懐かしい。こんなまともな朝飯は実家以来だ。

その日から、俺と見知らぬ女の同居生活が始まった。

その女は、住居を追われ、彷徨っていたのだ。女性ホームレス。

何でも、派遣先を切られ、アパートも追い出されて途方にくれていたところに、あまりの空腹に貧血を起こした。

「しばらく、うちに居る?」

俺は下心満載だった。あわよくば、このままこの娘と。

彼女は鳩子と言った。鳩子?古めかしい名前だ。

鳩を助けた日におとずれた鳩子。案外、鳩の恩返しだったりして?

俺は馬鹿げたことを考えて一人笑った。

鳩子は毎日、夕飯を作って、俺の帰りを待った。

「おお、グラタンかあ。こっちは白子かな?」

彼女の作る料理は、何故か白くて甘めで優しい味の物が多かった。

だが、さすがに、ずっとグラタンと白子が続いたのには、辟易した。

そろそろ他の物が食べたい。

ある朝、玄関を出ると隣に住む婆さんが、俺にヒステリックに告げてきた。

「お宅から、夕方になると、すごく変なにおいがするのよ。夕飯時よ。いったい何を煮てらっしゃるの?」

不快げに、俺を睨みつけてきたのだ。

「さあ?心当たりがないのですが。」

そうだ。この婆さんがうるさいので、ゴミ箱はいつもきちんと蓋をしているはずだ。

「嘘!あなた、彼女に言ってちょうだい。何を煮てらっしゃるのかわからないのだけど、臭くてしかたないんだから。」

そう言って、乱暴にドアを閉めた。

なんだよ、わかんねえよ。鳩子が夕飯で何を作ってるのかよくわからないけど、俺が食べた限りでは、そんなにおいもしないし、味は美味い。更年期障害だろ、ババア。

「鳩子、そろそろ、他のものが食べたいんだけど。折角作ってもらって言うのもなんだけど。」

俺は食卓に並ぶ、白い食べ物の胸やけがした。

「わかりました。」

次の日の夜、肉料理が食卓にならんだ。焼肉、から揚げ。俺は夢中になって食べた。

「美味い!鳩子は料理の天才だね!」

俺は大げさに鳩子を褒めた。

俺と鳩子は相変わらず、別々の部屋に寝ている。

折角若い男女がひとつ屋根の下に暮らしているというのに、これでは蛇の生殺しだ。

俺は、意を決して、鳩子の部屋に忍び込んだ。

部屋は真っ暗だった、こんもりと、鳩子のシルエットがうっすらと見えてきた。

「ねえ、鳩子、俺たちもうだいぶ一緒に暮らしてるジャン?そろそろ俺、鳩子の料理だけではなく、君も・・・。」

俺はそこまで言うと、どうしようもなく激情が止まらなくなり、彼女に抱きついた。

鳩子!ん?なんだこれ。丸い。固い?

それは鳩子ではなく、楕円形の大きなカプセルのようなものだった。

温かい。まるで、綿のよう。

暗さに目がなれてくると、それは鳩子ではなく、巨大な繭だとわかった。

そして、その繭の横には鳩子が座っていて、繭と繋がっていたのだ。

鳩子が口から紡ぐ糸が繭になる。

「わああああああ!」

俺は思わず、叫んで後ずさった。

「とうとう、見てしまったのですね。私は、あの時、助けていただいた者です。恩返しに、お料理と、あなたのお誕生日に夜なべしてマフラーを編もうとしていたのです。」

「は?何言ってんの?マジ意味わかんねえ。」

俺は声が震えていた。

こいつ、人じゃねえ。

すぐに照明をつけて、彼女を確認したのだ。

目は大きいどころか、飛び出していて、口からは糸が吐き出されていた。

「ま、まさか。あの時の、鳩?」

俺が助けたといえばそれくらいしか、心当たりがない。

でも、なんで?鳩が料理を作り、糸を吐く?

鳩子だったものは、大きく頭を横に振る。

「いいえ、私はあの時、助けていただいた、蚕です。」

か・い・こ?

「そんなの、助けた覚えはねえよ・・・。」

「いいえ、あの鳩に食べられそうになっていた蚕です。あのままだと、私は食べられていました。」

いやいや、マジあり得ねえし。蚕の恩返しとか。

「糸から紡いで、マフラーを編もうと思っていたのですが、もう正体を見られたからには、お別れです。」

そう言うと、鳩子の体は真っ白に輝いて、巨大な蛾の姿になり、窓から空へ飛んで行った。

俺はそれを呆然と見守った。

あの蚕の鳩子が作っていた料理、全部、真っ白じゃなかったっけ?

臭いと行ってきた隣の住人。いったい俺に何を食わせてたんだ。

俺は胸に酸っぱい胃液が上がってきた。

俺は、恐る恐る、ベランダに置かれたゴミ箱を覗いた。

思ったとおりだった。煮詰められた、蚕の皮のようなものが捨てられていた。

俺を吐き気が襲う。もう一つのゴミ箱からそういえば異臭がする。

また、こんなにおいをさせてたら、隣のババアに何を言われるか。

俺は、今起きた、非現実を追い払おうと、現実に戻り、ゴミ箱の蓋を開けた。

目が合った。

その目は、俺を恨めしげに見上げていた。

俺は涙目になった。

口を押さえて、トイレに行くと、食べたもの全てを吐しゃした。

体はガクガクと震えている。

あの女、何てものを、食わせやがった。

あれを上手く処分しなくてはならない。

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「さて、次のニュースです。〇〇県〇〇市で、猟奇的な事件が起こりました。被害者は、太田豊子さん、68歳。殺害されたうえ、その肉を食べられてしまったのです。犯人は、隣に住む24歳の青年。犯行を否定していますが、その男の部屋からは、豊子さんの頭部と見られるもの、骨などがゴミ箱から発見されています。」

「悪臭で、もめてたみたいよ。私、彼女に言ったのよ。あまり文句言わないほうがいいよ、って。ほら、相手は若い男で物騒でしょ?何かあったら大変だから、警察に任せなさいって言ってた矢先に、こんなことになるなんて。」

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「俺は、やってない!全部、全部、鳩子がやったことなんだ!信じてくれ!」

「鳩子なんて、どこにいるの?」

「今は人間じゃない。やつは蚕から蛾になったんだ。信じて!信じて!」

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マガツヒ様
コメント、怖い、ありがとうございます。
ルール無用のよもつです。
突っ込みどころ満載のものしか書きません。
ボケるのは快感ですね。

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西内 英之様
コメント、怖い、ありがとうございます。
こんなギャグか怖話かよくわからないものに、貴重な「怖い」をいただき、ありがとうございます。
正当派ではありませんが、今後ともお読みいただけたら嬉しいです。

初めまして(^^)
予想を裏切るラストでした‼️
一喜一憂しながら拝見させて頂きました‼️

コメント、怖い、ありがとうございます。
光道 進様 珍味様 あんみつ姫様
あ、ザ・ピーナッツ、ギリギリ知ってますよw
確か、昔の怪獣映画の特集とかで見ました。双子のお姉さん達がモスラのために歌うんですよね?
私のほうが少しだけ年下かもしれません。今では死語ですが、「バブル世代」ですw
セーターになったり、マフラーになったり、結構やらかしてますね、私。
あとで直しておきます。そう言えばお蚕さんは絹糸しか吐かないんですっけ?
生半可な知識だけで書くからこうなるんでしょうね。反物くらいにしときましょうか?w

すみません。
私もつい童心に帰り、興奮してしまいました。
よもつひらさか様、本当に申し訳ございません。
光道様も、すみません。
これからは、メッセージボードにお伺いいたしますね。

このお話に限らず、よもつひらさか様のお話は、ただダークなだけではない、キラリと光る独特のセンスが魅力ですよね。
毎回、Upされるたびに、どう裏切られるのかが楽しみな毎日です。

あんみつさん
何時も御指摘すいません
よもつさんの小説につい興奮してしまい
また、時代錯誤しました。
でもよもつ小説面白いです。実際にはありえないことですので
余計面白いのかもしれません。
私も書くときは、時代を知れべて書くように心がけます。
ガメラの現案を円谷プロに出したのは、意外と私の近くの人でした。
今は山形県上山市の名士です。トキワ館という映画館の息子でした。
今はもうありませんが、ガメラと聞くと同級生の伊藤を思い出しますね。
予断でした。

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ロビンM太郎.com様
コメント、怖い、ありがとうございます。
お風呂に入るとなんだか脳の血流が良くなり、浮かんできますね。
お風呂でリラックスしながらこんなことを考えている時が一番楽しいです・・ひ・・。

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