中編3
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宝くじ

昨年の12月頭、実家の母から電話が来た。

「お父さんがね、飲み会の帰りに駅のエスカレーターから転落して頭を3針縫ったんだよ。一応、あんたにも知らせておこうと思って」

母の話に思わず<なんでまた、そんなことに>と思ってしまう私。

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私の父は齢70を越えているが、昔からお酒を飲んで足元がフラつくようなタイプではない。

自分の限界を知っているから、あまり飲まないというのもあるかもしれない。

母の話を詳しく聞くと、どうやら長年勤めていた会社のOB会で飲みに行ったらしい。

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私の父は日本鋼管(現・JFEスチール)に勤めていて、早期退職による退職金割り増しの制度を利用して定年前には退職した。

中学を卒業して少ししてから働き始めたので、長いこと勤めたんだなぁ、と私は今でも感心する。

遊びもせず浮気もせず、やるのは酒と煙草くらいだろうか。

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その煙草も、15年くらい前に糖尿を患ってからスッパリやめてしまったが、酒だけはやめられないようで家飲みはもちろん、年に一度ある会社のOB会に行って長年一緒に勤めた仲間とドンチャンやってくる。

それでも今まで一度だって、フラついて帰ってきたことはなかった。

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飲んでもピンシャンして帰って来れるのが、父の自慢である。

電話口で首を傾げる私に、母はこう告げた。

「罰が当たったんだろうねぇ」

「え?…何の?」

私が聞き返すと母は、

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「だってお父さん、仏壇の上に宝くじなんて置いてるんだもの。母さん、それ見付けた時、これのせいだって思ったわよ」

それを聞いて、<あぁ、なるほど>と私は納得した。

仏壇はいわば、亡くなった魂の家である。

分かりやすく説明すると、お骨の眠る墓が本宅なら仏壇は別宅みたいなものだろうか。

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位牌は私達生者のいうところの「肉体」に相当する。

それを踏まえると、父はご先祖様や亡くなった祖父や祖母がいる家の屋根に宝くじを置いた、ということになる。

そりゃ、罰が当たっても当然だ。

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誰だって自分の家の屋根に、得体の知れないもの(今回は宝くじだが)を置かれたら気分がいいとは決して言えないだろう。

おまけに、「宝くじが当たりますように」なんてお願いされた日には、「人ん家の屋根に物を置いておいて、何言っとるか!」ということにもなる。

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隣近所からパンツが飛んできて屋根に放置され、挙句の果てにはそのパンツに「美女と1発お願いします」なんて願掛けされたのを知ったら誰だって、「ふざけたこと言ってないで、早くお前の小汚いパンツを取りに来い!この馬鹿者!」と怒るだろう。

極端に言えば、それと同じなのだ。

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そういうわけで、父はご先祖様や亡くなった祖父母から頭を3針縫うというお叱りを受けたようだ。

いくら亡くなった身内でも「親しき中にも礼儀あり」は、死後の世界にもあるのだろう。

父には、いい薬になったのではないだろうか。

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皆さんも、神様やご先祖様に宝くじ当選をお願いする時は、神棚や仏壇の失礼にならない場所(仏壇なら中の位牌の置いていない段の隅っこ等)に置かれたし。

[おわり]

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