中編3
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透明になるということ

「ずっと、待ってるから。」

私が、そう呟くと、アキトは悲しそうに無理やり微笑んだ。

ついてきて欲しい。

そう言われ、私は頷くことができなかった。

母一人、子一人。

体の弱い母を置いては行けぬ。

これからは、私が生活を支えなくてはならない。

私が高校を卒業と同時に、恋人のアキトは、海外へと赴任が決まった。

アキトと私は幼馴染で、アキトは6つ年上。

高校を卒業したら、結婚しよう。

そうプロポーズされていた。

「本当は海外赴任なんてイヤだったけど、会社には背けない。」

晴れて結ばれると思っていた。

アキトはお母さんも一緒に住むつもりだと言ってくれてた。

運命とは皮肉なもので、そう言っていた矢先のことだった。

「何年先になるかわからないけど、待ってて欲しい。」

ーずっと待ってるから。-

毎日のように、彼はメールをくれたし、時々、電話もくれた。

ところが、その便りも、日を追うごとに少なくなっていった。

仕事が忙しいのだろうと思った。

ここ1年くらいは、二週間に一度連絡があればよいほどになり、ついにはもう、ここ二ヶ月くらい音沙汰が無い。

さすがの私も、痺れを切らして、彼の携帯にメールを入れてみた。

するとそのメールはあて先不明で戻ってきた。

登録されている、彼の携帯電話にも電話したが現在使われてませんと、乾いた声で伝えるばかり。

それは、私にとって残酷な通知であった。

彼は私に黙って、携帯番号を変えている。

私は、たまらなく不安になって、アキトの実家を訪ねてみた。

アキトの両親は驚いたように、私に告げた。

アキトは向こうで結婚したと。

お相手は、アキトが赴任した国の女性で、近々こちらにつれて帰ってくるというのだ。

両親は私の心中を察して、申し訳無さそうに話した。

アキトからは、私と別れたと聞かされていたらしい。

私は、絶望の淵に落とされた。

その矢先に、母が病気で亡くなった。

もう、私には生きている意味が無い。

死のう。

古い長屋の縁側に椅子を持ち出し、欄間にロープをかけて輪を作った。

椅子を蹴る。

苦しいのは一時で、すぐに楽になった。

死ぬってこういうことなんだ。

私は、初めて死の意味を知った。

天国に行くとか地獄に行くとか、霊界があるだとか、そういった今までの生きていた頃の常識を覆すものだった。

死んだ瞬間に、私は体の中からはじき出された。

縁側には、私だった物がぶら下がっている。

でも、確かに私の意識はある。

私は、洗面所まで歩いて行き、鏡を見た。

何も映らない。

だが、腕も足も顔も確かに存在した。

自分の手で輪郭を確認し、今までとなんら変わりない感覚がある。

手をつねってみた。夢なのではないかと。

どうやら痛いという感覚はもう消えているようだ。

これは夢なのだろうか。それとも現実か。

縁側に戻ると、確かに私だった体がぶら下がっている。

魂も形を持っているのかな。

魂というと、人魂を思い浮かべるのだけど。

飛べるのだろうか。ためしに、羽ばたいてみたが飛べない。

自分でもおかしくなった。

私は、その状態で、何日も自分の体が腐り朽ち果てるのを眺めていた。

10日経ったある日、長屋の大家さんがようやく私の死体を見つけてくれた。

だいぶ痛んでいたし、首吊り死体なんて見たことないので、それは腰を抜かして驚いていた。

大家さん、ご迷惑をかけて、ごめんなさい。

透明になった私は、大家さんに頭を下げた。

天に召されるだとか言うのは嘘なんだな。

私はまだ、ここに居る。

愛しのアキトが、私のささやかなお葬式に来てくれた。

ようやく会えたね、アキト。

でも、傍らには、美しい異国の女性が居る。

奥さんには、幼馴染って言ってるんでしょうね。

私の透明の体に真っ黒な感情が満たされて行く。

私は、玄関を出て自宅に帰る、アキトの後について行った。

ずっと、側にいるよ。

目には見えないけど。

ずっと待ってるよ。

あなたがこっちに早く来れるように、私はこれから知恵を絞るから。

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shake

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だからね、早くこっちに来てね。

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