微笑んで、俺の女神さまっ!②

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微笑んで、俺の女神さまっ!②

俺は最近、コンビニでアルバイトを始めた。

家からの仕送りだけでも何とか生活はできたのだけど、俺も色気づいて、教授によく見られたいと、オシャレをするようになったのだ。

もうダサ眼鏡とは言わせないぜ。

日々、ファッション雑誌を見て研究。無駄だとわかっていても、努力したいじゃん?なんせ、俺は彼女の隣に住んでいる。1%の望みくらい抱いても罰は当たらないだろう。

今日は、遅番の先輩と交代したので、こんな夜中に帰宅している。

いつもの高架橋の下を通ると、暗がりに人が座っていてぎょっとした。

ろうそくの灯り程度の小さな電球を灯して、小さな机の上には水晶。

なんだ、占い師かよ。脅かすな。

かなり太っていて、男か女かわからない。シルエットはまるでダルマ。

気味が悪いので足早に通り過ぎようとしたその時だった。

「お兄さん、占ってあげましょうか?」

そう声をかけられた。

すごいガラガラ声。これまた、男か女かわからない声だ。

「いえ、結構です。」

俺が去ろうとすると、その声はまた俺に語りかけてきた。

「お兄さんは、叶わぬ恋とお思いでしょうが、可能性はゼロではありませんよ。」

思わず俺は足を止めた。

こんなの、適当に言っているだけ。そう思っても足が動かなかった。

「年上の叶わぬ高根の花。」

俺はさらに驚く。何故わかるんだ。誰だ、こいつ。

俺はいつの間にか、その場にある椅子に腰掛けていた。

「あんた、誰なんだ。」

「図星かい?」

目深に被ったフードの表情は伺えないが、口だけが大きく左右に開いて笑ったのだと思う。

「これを買ってくれれば、お兄さんの望みは叶う。」

そう言うと、目の前の水晶を指した。

なんだよ、占い師じゃなくて、霊感商法かよ。

俺は訝しげに、その水晶を見た。すると、その水晶の中にトオノ教授を見た。

俺は、信じられずに、何度も目を凝らした。間違いない。彼女だ。

「1万円」

そいつはボソリと呟いた。高い。でも、これはいったい何なのだ。

俺の懐には、もらったばかりのアルバイト料がある。

学生にとっての1万円は大金だが、それ以上にこの水晶には魅力がある。

インテリアだと思えばいい。これは結構綺麗だ。

こいつがイカサマ師でも、インテリアだと思えば諦めが付く。

俺は財布から1万円を出して、そいつに渡す。

「あんたは価値ある買い物をした。これで彼女の全てを手に入れることができるだろう。」

そんなわけないじゃん。でも、この中には確かにトオノ教授が映ったのだ。

俺はイソイソと、自宅へ戻った。

隣はもうとっくに真っ暗。電気は消えている。

さすがに夜中の2時じゃ寝てるか。

俺は自宅へ戻ると、買ったばかりの水晶を本棚の上に置いた。

すると、隣からシャワーを浴びる音がしてきた。

彼女、起きてる!俺は壁に耳をつけた。

変態かよ、俺。目を閉じて彼女の裸体を想像する。

最低だな、俺。そう自虐しながら、ふと水晶を見た。

俺は二度見した。

なんと、水晶の中で、彼女がシャワーを浴びているではないか。

シャワーを浴びているのだから、一糸まとわぬ姿。

嘘っ!

俺は水晶にかぶりついて見た。

服の上からしか想像したことのない、パーフェクトボディーが目の前に。

俺はアルバイトで疲れているにもかかわらず、体の一部がググっと元気になった。

ヤバイ、ヤバイ。これ、ホンモノだよ。

これは、彼女の生活が覗ける道具なのか?

なるほど、ある意味彼女の全てを手に入れることのできる道具だ。

俺は、罪悪感にかられながらも、彼女の裸体を心行くまで堪能し、いけないこともしてしまった。

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俺はバカな買い物をしてしまったことを、今頃になって後悔している。

両親が海外旅行に行ってしまい、俺への仕送りのことをすっかり忘れられていて、バイト代も底をついてしまった。

ということで、俺は本日初めての食事をとる。

学食の片隅で、あんぱん一つとお茶の食事。

とても足りない。両親が帰ってお金を振り込んでくれるまでの1週間、2000円で暮らさなければならない。

2000円ってことは、1日300円くらいしかお金を使えない。本日は夕食の買出しにコンビニにすら行けない。

送ってもらった米もあとわずか。俺はキャンパスライフ2ヶ月にして、最大のピンチを迎えた。

ああ、あの水晶さえ買わなければ、俺は今頃リッチだった。

バカバカバカ、俺のバカ!エロ!

しかし、あの水晶はお金には変えられない価値はある。

誰かに言いたい。でも、今の俺は、覗きの変態。

とても、誰にも言えない。

「あら、それだけ?」

その言葉に俺が顔を上げると、なんとトオノ教授が立っていた。

「え、ええ。ちょっと事情がありまして・・・。」

俺の心臓が勝手にバクバクと飛び出して行きそう。

まさか、あなたを覗く道具を買ったために、金欠です、なんてとても言えない。

「だめよー、若い男の子が、それっぽっちしか食べないなんて。もっとしっかりご飯食べなきゃ。」

優しいな、トオノさん。

「あはは。」

俺は力なく笑う。

「よし、今日、ごちそうしてあげる。一緒にお鍋しよ。お鍋って一人分って作るの難しいの。絶対余っちゃうし。今夜、うちにいらっしゃい。」

俺は夢を見ているのだろうか。

彼女からの、お鍋のお誘い。しかも、彼女の手料理を振舞ってもらえる。

「い、いいんですか?お邪魔しても。」

「だって、お隣さんじゃん。遠慮しないで、ね?」

彼女が微笑む。かわいい。世界一かわいい。

金欠が結果オーライとなった。

あの水晶のおかげかもしれない。

そう考えた時に、俺は胸の奥が良心の呵責で痛んだ。

俺は酷いことをしているのだ。

その日の夜、俺は初めて彼女の部屋を訪れた。

想像していた通り、綺麗に整頓された、無駄な物の一切ない部屋。

「さあ、召し上がれ!」

お鍋の蓋を開けると、湯気があがり、そこには豪華な食材が。

俺は嬉しくて涙が出そうになった。

俺、こんなに幸せでいいのだろうか?

「いただきますっ!」

「どんどんおかわりしてね。」

幸せ、幸せ、幸せだ。

俺はますます、トオノ教授に惹かれてしまった。

1週間後、ようやく俺の口座に仕送りが振り込まれた。

ホント、殺す気かよ。

だが、おかげで、時々彼女の部屋で夕食を共にできた。

お礼に、両親からの海外旅行土産を彼女に渡した。

「気をつかわなくてもいいのに。でも、ありがとう。」

そう言って素直に受け取ってもらって、俺は正直ほっとした。

別の意味の謝罪もある。

あの日から、俺の部屋の水晶にはハンカチが掛けてある。

もう覗きのような卑劣なまねはやめたのだ。

教授、今日も素敵だ。

あれから俺たちの距離はぐっと縮まり、相変わらず、彼女の部屋にお邪魔することもある。これって、まるで。恋人同士みたい。

俺は、喜びに耐え切れず、クッションを抱いて部屋中を転がった。

だが、時々気になることがあった。

彼女は、携帯に着信があると、必ず話を中断して、席を外して人に聞かれないようなところで電話をするのだ。

たまに、彼女の部屋を訪れる人間が居るようだ。たぶん、声からして、男だ。

生活に干渉しないと心に決めても、やはり気になる。

彼女の部屋から、話し声がする。

俺は気になってしまい、壁に耳をつけるが、聞こえない。

俺はいけないと思いながらも、つい水晶に掛けられたハンカチを取ってしまった。彼女は携帯で、誰かに電話をしていた。

俺はほっとした。男が来ていたわけではなかった。

携帯で通話を終えると、彼女はおもむろに、クローゼットを開けた。

出かけるのだろうか?

クローゼットから大きなボストンバッグを取り出した。

そして、ファスナーをあけると、そこには札束が唸るほど詰め込まれていた。

それを確認すると、彼女はファスナーをしめてクローゼットに戻した。

何故彼女が、あんな大金を?

ぱっと見、数千万はある。いや、それで済むのか?

一億くらいあるかもしれない。

俺は、そっと水晶にハンカチを掛けた。

これは見間違いだ。きっと。

その次の日、俺の背中を叩く者が居た。

俺はトオノ教授かと想い、期待をこめて振り向く。

すると、そこにはJが立っていた。

「なんだ。君か。」

「なんだはご挨拶ね。トオノ教授とだいぶ仲いいみたいじゃない。」

なんでそこでトオノ教授が出てくるんだ。

お前には関係ない。

「ねえ、知ってる?トオノ教授ってさ。バツイチなんだって。

ご主人とは死別。なんでも、ご主人が死んだ時、保険金が一億円手に入ったらしいよ?」

Jの言葉に、俺は血の気が引いた。

昨日見た、彼女のバッグに詰め込まれた札束。

「何でそんなこと、知ってるんだ?」

「噂よ~、噂。なんか、死因もちょっと不可思議だったらしいよ?行くはずも無いダム湖で溺死だったらしいの。」

俺は腹の底から、怒りが沸々と沸いてきたが、一つ深呼吸した。

「あのなあ、そういう不確定な噂を広めないほうがいいんじゃないか?誰から吹き込まれたかしらないけど。お前、最低。」

俺が静かにそう言うと、Jは震えだした。

「な、何よ。私は、噂を聞いたから。あなたに忠告しようと。」

「うるさい。もう話すことは無い。」

俺がそう言って話を終わらせると、Jは涙を流した。

泣いたら許してもらえるとでも思うのか。

浅はかな女だ。

俺は、Jを無視してその場を去った。

単なる偶然だ。

偶然の一致なんだ。

俺は自分に言い聞かせた。

(続く)

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