中編4
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悪意 X

悪意 X

富士樹海…12時44分。

未だに絶えない自殺者が訪れる樹海

憎しみと後悔と死が漂う

彼もまた自殺願望を持つ男である。

虚ろな瞳で道無き道を進み転んでは立ち上がり首を吊るす木を探す。

「なんで…オレが…こんなこと…」

彼は訳が分からずに、ここへ訪れた

「昨日までは…上手くいっていたのに…でも、何も思い出せない…」

ブツブツと怨みの言葉を口にする

まだ昼間だというのに太陽の光は

僅かしか届かない。

夜になれば完全な闇と沈黙が訪れる

いや…沈黙はしない…

首を吊った者のもがき苦しむ声、

ギチギチと縄の音だけが闇に響く。

ボロボロの足を無理やり動かし

樹海の奥へ奥へと進む。

目の前に小さな洞窟が現れた。

入り口は黒い液体で泥濘んでいる

そこに吸い込まれる様に歩き始める

「おい、オマエ。やめておきな」

後ろから声を掛けられて足が止まる

music:1

振り返ると葉巻を吸う男が立っていた

「その洞窟に入れば、死ぬより辛いことが待っているぞ」

だが、その男にとって死ぬより、今生きていることが辛いと呟く。

葉巻を吸う男は

「死ぬ前に俺の手伝いをしてくれないか?」

男は虚ろな瞳を閉じて

「なんで俺が?」

「その手伝いをして、最後までお前が生きていれば人生を変えるチャンスをやろう」

男は吐き捨てる様に

「チャンスだと?お前に何が出来るってんだ!」

葉巻を投げ捨て男を掴み上げる

「自ら命を捨てる奴に拒否権はない」

男は震えながら拳を握る

「そうしなきゃいけないんだ!俺が死ねば…」

「くだらん…」

投げ飛ばされた男は泣きながら

「仕方ないんだ!」

葉巻に火をつけて銃を突きつける

「そんなに死にたいなら俺が殺してやる」

銃を突きつけた時だった

さっきまで静かだった森に獣の雄叫びが響く。

music:2

「ほら、来るぞ。生ある者を蹂躙する怪物が。」

「な、なんだよ!」

葉巻を投げ捨て銃を雄叫びがする方へと向ける

「俺はヘルシング。頼むぜ、パートナー」

雄叫びを上げる獣

その名を「野うさぎ」

ヘルシングは銃を向けたまま、男に銃を投げ渡す。

「撃ったことなんてないぞ!」

ヘルシングは笑いながら

「それで自分の頭を撃ち抜くか、生きて新しい人生のチャンスを得るか」

ヘルシングは迫り来る野うさぎを撃ちながら

「今、ここは地獄だ。助けなんて来ない。お前は魔女が支配する領地に入った。」

魔女が支配する領地は現実世界から

隔離されている。

理由として存在を感知されないために呪術で空間自体を隔離する。

「それで、お前の名は?」

銃を震えながら握りしめ

「秋元だ…こんなことになるなんて」

「だよな、魔女が実在するなんて笑えるよな」

野うさぎの数はザッと数えて5体

秋元はあまりの恐怖に震える

「あんた一人でなんとかしろよ!」

確かにヘルシングは普通の人間には

見えない…。

しかし、怪物殺しを生業としているヘルシングだとしても、油断は出来ない

その理由は簡単だ。

野うさぎの攻撃方法は精神攻撃。

野うさぎは獲物との一定の距離を保ち

幻肢痛に似た幻覚で獲物の身動きを封じる

突如、両腕と両脚のどちらかが無くなったような幻覚に襲われ激痛を伴う。

強い精神力が無ければ幻覚で身動きを封じられ、ゆっくりと喰われ胃の中で消化される。

すでに秋元は幻覚に蝕まれ

涙を流しながら右腕を掴み悶え叫ぶ

「ぎゃああああああああああ!」

精神攻撃は既に始まっている

ヘルシングは深く深呼吸をして

銃をゆっくりと野うさぎに向ける

視線は利き手の左手に向けられ

幻覚に蝕まれ激痛に耐えながら引き金を引く。

銃口から飛び出した銃弾は紫に光り

野うさぎの頭部を破壊する。

「やっぱり慣れないな…精神攻撃は」

野うさぎは不死身の怪物ではない。

元は野生動物であり、精霊に属する吸魂鬼とは誕生方法が異なる。

秋元は口から泡を吹き白目を向いたまま痙攣を起こしていた。

ヘルシングは見える野うさぎを片付け

懐から小さな銃を取り出し秋元の首に麻酔のような物を撃ち込んだ。

次第に落ち着きを取り戻し、ヘルシングは空を見上げる。

「日が暮れるな…仕方ない。安全な場所で夜明けを待とう」

ヘルシングは秋元を抱え安全な場所へ向かう。

music:5

焚き火の暖かな灯りで目を覚ました

秋元は悪夢でも見たかのような悲鳴を上げる

「うわぁぁぁぁ!腕が!あれ?」

ヘルシングは葉巻を咥え銃の手入れをしていた。

「やっと起きたか…」

秋元は辺りを見渡し

「さっきのバケモノは?なんです?」

ヘルシングはピカピカに磨いた銃を構え

「野うさぎだよ。どんなに腕が立つハンターでも、びびっちまう怪物さ。」

「それより、そのアクセサリーは何時の時代の物だ?」

秋元は首にぶら下がる牙のようなアクセサリーを眺め首を傾げる

「いや、何も覚えていない…。」

ヘルシングはアクセサリーに銃を向け

「それは遥か昔に作られた代物だ。本物は初めて見るが…」

秋元は突然、頭を抱え叫ぶ

「ア、アァァァァァ!!」

秋元は立ち上がり走り出した

ヘルシングは追いかけるが、追いつかない。

「なんて速さだ、あれは人間なのか?」

仕方なく焚火の場所へと戻り

銃の手入れを再開する。

「まったく…変な自殺願望者だ」

樹海を包み込む静寂と呻き声

もう間もなく夜が明ける…

帽子を被ったまま眠るヘルシング

music:3

突然の雄叫びが睡眠を妨げた

ヘルシングは慌てて起き上がり辺りを見渡す。

ヘルシングは背後から殺気を感じ

ニヤリと笑い振り返る

そこに居たのは灰色の皮膚をした

謎の人型の怪物だった。

それは紅く鈍く光る牙を見せて吼えた

To be continued…

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