中編3
  • 表示切替
  • 使い方

時計の針

ある日の夜、娘が

「お母さ~ん、また時計がすすんでるよぉ」

と、言うのです。またって?と思い、妻に尋ねてみると 最近、娘の部屋の掛け時計や目覚まし時計の調子が悪い、 みんな毎日1分ずつすすむ(狂う)というのです。

3日前は一日に1分、2日前には2分、そして今日は3分すすんでいたと。

掛け時計は私の実家にあった古い時計でした。 (一応アラーム機能は付いて、きれいな鐘の音でしたが アラームは使っていませんでした)

電池を換えても同じだったので、娘が”また”と言ったのでしょう。

毎日時計が狂うのは、まあ古いからだと思いましたが みんな1日1分ずつ増えていくのは不思議に思いました。

nextpage

それから6日後、とうとう1日に9分も進むようになりました。

もう使えないということで新しい時計を購入し、 古い時計は廃棄しようと思い、とりあえずごみの日まで 私たちの寝室に置いておくことにしました。

次の日の早朝、私は綺麗な鐘の音で目を覚ましました。

何か聞き覚えがある…懐かしい音…

nextpage

shake

そのとき突然ベットがすごく跳ね上がりました!

地震です。寝ていてても跳ね上がるようなすごい地震です。

娘が和室で寝ている!妻と慌てて床を這うように部屋を出ました。

すると廊下は何事も無く、しーんとしています。

地震がおさまったのかと、ふと今出てきた部屋を見るとベッドが 大きな音をたて跳ねています。

一瞬なにがおきたのかわからなくなりましたが 娘が心配になり、和室へ急ぐとまだ娘はぐっすりと寝ていました。

nextpage

何がおきたのか、もしかしたら車でも突っ込んできたのかと思い 部屋に戻りましたが、部屋はメチャメチャに荒れていて、 窓際まで行くことが出来ません。

娘も私たちの足音や声で起きてきました。

私は車が突っ込んできたのなら家の中は危ない(ガソリンでも漏れていたら)と 思い、皆に着替えをさせ、皆で外へ出てみました。

玄関を出て家の前の通りから、私たちの部屋を見ました。

すると、何もおきていません。車がぶつかった様な跡もありません。

nextpage

なんだったんだ、今までのは。夢でも見てたのか…でも部屋は…

そう思った瞬間です。

nextpage

shake

地をつき上げるような猛烈な揺れが来たのは。

私たちは立っていることも出来ず、地面に手をついて私たちの マンションを見ました。

そのとき、一階部分が押しつぶされたのです。

もちろん私たちの部屋も両隣もその隣も… 一瞬でした。

音も無かったような気がします。

nextpage

阪神大震災でした。

nextpage

あの日、私たちのマンション一階部分で助かったのは私たちだけでした。

後日同じマンションの住人(3階に住んでた)だった友人に、 なぜあの時間外にいたのか聞かれました。

たまたま散歩に出かけたと言っておきました。

本当のことを言っても信じてもらえないでしょうから…

nextpage

ただ、あの時計はまだ手元にあります。つぶれた部屋の隙間から 庭に転がり落ちていました。

もう電池を入れても動きませんが、またあの鐘の音が聞こえないか心配です。

Concrete
コメント怖い
2
10
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ

ぞくぞくしました。
元ネタは実話でしょうか…。

返信
表示
ネタバレ注意
返信