長編8
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こたつの中の世界

「お姉ちゃん、おこたで寝ると、風邪ひくよ。」

こたつの中でウトウトしていると、妹が私に声をかけてきた。

眠い目をうっすらとあけると、妹は風呂上りで髪の毛をドライヤーで乾かしている。

せっかく気持ちよくねてたのに。首から先だけをこたつ布団から出して、私は寝返りを打つ。

いいじゃん。もう少しここで寝かせてよ。

どうせ夜中には目がさめるんだからさ。

どれくらい時間がたったのだろう。

足の冷えを感じて、私は目がさめた。

ぼんやりと、ああ、私はこたつで寝てたのか。誰かにこたつの電源を切られたんだな。

そう思い、ノロノロと真っ暗なリビングのこたつから出て、自分の部屋へ戻ろうと、這い出そうとした。

ところが、足がまったく動かない。誰かに両足首をつかまれているようだった。

ははん、妹が私を脅かそうとして、つかんでるな?そんなやつは、こうじゃ!

私は、こたつをフルパワーにして、妹を追い出そうとした。

ところが一向に足首から手を放してくれない。

「いい加減にしなさいよ!」

私は叫びながら、こたつ布団をまくり上げた。

そこには見知らぬ顔があった。陰気な青白い青年の顔。

私は叫ぼうと思ったが、声が出ない。

青年の体は、首から上が床から生えたように出ており、その青年の物と思われる手が床から生えて、がっちりと私の足首を握っており、徐々に私を引きずった。

助けて、誰か!お父さん、お母さん!

叫ぼうにも声が出ずに、ずるずると私はひきずられ、とうとう私の下半身は床に埋まってしまった。

どんどん床に引きずり込まれる体。やめて!私をどこに連れていくつもり?

私はとうとう、首のあたりまで、床下にずっぽりとはまって、ようやくそこで声が出た。

「助けて!誰か!お父さん!お母さん!マミ!」

気が付くと、私はこたつの中で寝ていた。

なんだ、夢かあ。それにしてもすごくリアルな悪夢だった。

窓からサンサンと光が差している。朝なのか。

リビングのドアが開き、妹が入ってきた。

「私、こたつで寝てたわ。」

私が、妹にそう声をかけると、ちらりと見ただけで、興味なさそうにソファーに腰かけた。

何よ、かわいくない。無視?

それにしても、お母さんがいない。

「ねえ、お母さん、どこに行ったんだろう?」

それでも妹は答えず、ただぼーっとしてる。何かが変だ。

私はなにげなく、間が持たないのでリモコンでテレビをつけてみた。

いつもの情報番組のチャンネルに合わせると、見たこともないような人たちが出演していた。

おかしいな。私は何度も、そのチャンネルの番号を押した。番組、変わったのかな。

そうこうしている間に、妹は立ち上がり、身支度を整えると出かけてしまった。

一言も言葉を交わさない妹。

朝から姿を見ない母。父は私が起きるころにはすでに出かけているので、あまり顔を合わせることはない。

昨日、何があったんだろう。

私は時計を見ると、自分も慌ててとりあえず、身支度を整える。

その時、すーっと母親がいつの間にか勝手口から入ってきた。

「母さん、どこに行ってたの?」

私がたずねても、母は私のほうをちらっと見ただけで、何も言わない。

「何なの?お母さんまで私を無視?私、何かした?」

私がそう母に言うと、母はそのまま玄関の方に歩いて行った。

私は、理由を知りたくて、母を追いかけた。

すると、母の姿は玄関先ですっと消えてしまったのだ。

玄関から差し込む光に溶けるように。

「うそっ!」

私は思わず叫んだ。

いったい何が起こった?

私は玄関を飛び出す。そして、外の風景に唖然とした。

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空には、いくつもの緑の球体が浮かんでいる。

太陽は無く、しかし空全体が明るい。球体は一個一個がまるで、一つの星のようであり、無数に浮かんでいる。

呆然と立ち尽くす私の目の前に、一人の青年が近づいてきた。

「あっ!」

私は思わず、叫んだ。その青年は、まさに、昨日夢で私をこたつの中に引き込んだあの青年だったからだ。

「あなたがいくらご家族に話しかけても聞こえないと思いますよ。」

その青年は、すべてを見通しているように、私にそう話しかけてきた。

「あ、あなた。なんなんですか?ここはどこなの?」

私がいま、出てきたのは確かに、私の自宅であるが、外の風景はいつもの風景ではない。

「あなたは今、亜空間にいます。」

その青年は答えた。

「亜空間?」

私が素っ頓狂な声で答える。

「そう、亜空間。私は、地球内生命体。あなたは地球空洞説を聞いたことがありますか?」

青年が無表情に私に問いかけてきた。地球空洞説。聞いたことはあるが、あんなものは、SFの世界だけの話であり、到底信じることはできない。

「あるけど、そんなの信じるわけないでしょ?」

私は感情的になり、声が震えた。

「地球内にはもう一つ天体があり、その天体は生きています。UFOをご存知ですか?あれは実は宇宙から飛来するものではありません。私たちが開発したものです。」

この男は、頭がおかしいのだ。取り合ってはいけないと、私の中の警報が鳴り響いている。

しかし、この異様な世界はなんなんだろう。半信半疑で、私は青年に話しかける。

「それとこの状況がどう関係あるのよ。そもそも、あなた、私を昨日こたつに引きずり込んだでしょう?」

私は青年を睨みつけた。おばけじゃなくて、実態を持つ人間なら話は通じるはず。

「プラズマトンネルを使いました。」

はあ?どうも話がかみ合わない。プラズマトンネルってなんなの?

「プラズマトンネルは、私たちの世界では一般的な方法で、この世界は強力な磁場があるので、簡単に作れます。それを使って、あなたを拉致しました。」

「拉致?どういうことなの?」

「申し遅れましたが、私は、この地球内天体で諜報活動をしている、佐藤と申します。」

「それでは、佐藤さん、ちゃんと説明してください。ここはどこなの?ふざけないでね。」

「ふざけてなどいません。先ほどから申し上げている通り、ここは地球内天体であり、地球内生命体の住む世界なのです。ごらんなさい。あの空に浮かぶ、緑のものが何かわかりますか?」

「わからないわ。」

私は困惑している。こんな不思議な光景は生まれて初めて見る。

「あれの一つ一つも亜空間なのです。あんな重力に反した物を見たことがありますか?それこそが、ここが地球内天体であり亜空間たる証拠なのです。」

「私は、なぜ、この世界に連れてこられたの?」

私は逆らわずに、この男から、なるべく情報を引き出すことにした。

「それは、今のあなたには自覚は無いでしょうが、近い将来、あなたは、この地球内天体の謎を解くカギになる人だからです。あなたは将来科学者となり、我々の世界を脅かす存在になります。その前に、不安の芽は摘んでおこうということです。」

「そんなバカな。私、普通のOLよ?何かの間違いでしょう?」

「いいえ、あなたは将来有望な科学者になるはずなのです。」

何を言っても無駄なようだ。

「私は、これからどうなるの?」

私はため息をついた。

「あなたには、私の仕事を手伝ってもらいます。もうあなたの姿はこちらでしか、認識できませんし、もし万が一、元の世界に戻れたとしても、あなたの存在自体が存在しなかったことになっているし、姿を見せたとしても、あなたの体自体がプラズマ生命体になってしまったので、あちらではあなたは幽霊としてしか認識されません。」

「なんですって?幽霊?じゃあ、私、死んだの?」

私はポロポロ涙があふれてきた。

すると青年はため息をついた。

「何度言えばわかるんです。あなたはあちらでは存在しない。あなたの家族は、母親と父親とあなたの妹だけです。三人家族だったことになってるんです。」

そんなバカな。

私の今までの人生がすべて無かったことに。

こんなことなら、私は死んだほうがまし。

「死ねませんよ。」

私の考えを悟ったかのように、青年は一言つぶやいた。

「なぜ?こんな地獄なら死んだ方がまし。」

「ここは地獄ではありません。地球内天体アルザルです。そして、地獄はあちらになります。」

そう言うと空を指すと、その方向には富士山を逆さにしたような、すり鉢状のドームが浮かんでいた。

「よからぬことを考えないほうがいいですよ。あそこに送られてしまったら、世界は真っ暗で身動きが永遠に取れないのです。あそこには悪魔がひしめいているんですよ。」

よくわからないが、暗闇に永遠に閉じ込められるなんて、気が狂いそう。

今のこの状況においても気が狂いそうではあるが。

私が途方に暮れた。

「まあ、逆に考えてみてくださいよ。永遠の命をもらって、おまけにお腹だってすかないんですよ?食べる必要もなければ排泄する必要もない。パーフェクトボディーじゃないですか。つらいダイエットだって、する必要はないし、私たちの仲間になれば、UFOにだって乗れちゃうんですよ?そんでもって、たまに地球旅行できるんです。ね?悪い話じゃあないでしょ?」

急に軽口をたたいて不器用にほほ笑んだ青年に向かって走ると、思いっきり首をしめあげた。

と思ったら、手になんの感覚もない。

「だから、無理なんですって。私たち、プラズマ生命体なんだから。体があってないようなもんなんだから。」

うううううう、でも、でも!

「死ね死ね死ね死ね死ね!死んでしまえ~~~~~~!」

shake

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私がそう叫ぶと、地表からすさまじい光の渦が空に向かって舞い上がった。

「ま、まさか!地球の人間がプラズマトンネルを作るなんて!そんなバカな!」

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世界が光につつまれた。

私の意識は白い光に飲まれる。

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目がさめると、暗闇だった。

ここは、地獄なのだろうか。

私は、あの暗黒の地獄の塔に閉じ込められてしまったのだろうか。

ほんのりと、足元が温かい。

えっ?上半身を起こすと、体から布団がすべりおちた。

「お姉ちゃん、こんなところで寝てると、風邪ひくよ?」

私は懐かしいその声に、こたつを飛び出して、マミに抱き着いた。

「な、なんなのよお。気持ち悪い~。はあ?なんで泣いてんの?怖い夢でも見たの?」

妹が心配そうに、私をのぞき込む。

うん、長い長い、怖い夢を見てたんだよ。

私はその後、職場を辞め、とある研究所に勤務している。

プラズマの研究で、来月には北極に旅立つ。

プラズマ放出機により、プラズマトンネル発生させ、北極点より亜空間を作り、地球内天体の情報を得る実験を敢行するのだ。

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よもつ先生、ビビっときました

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すごく臨場感ある作品で引き込まれました!
とてもおもしろかったです!

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さすが感満載の、よもつworld。
面白かったです。
lastが大好き。

ただ、途中、妹の名を呼ばれた時に『ドキィッッ』としてしまいました。

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