長編9
  • 表示切替
  • 使い方

百物語 【第九十七話】

僕がご披露する最後のお話は、とても長い物になります……

…………考えてみると、百物語というのは愚かな行為ですよね……自ら怪異に遇う為に、こうして夜更かしをするのですから……巷ではポストと話したり、人の毛をむしる男の都市伝説が出始めた様ですが、自ら怪異に遇う様な行いは、危険が伴う事を覚悟しなくてはなりません……

nextpage

第九十七話

【逆さかごめ】ー我妻君の話ー

大学を卒業する、少し前の事です。

既に就職内定も頂いていて、卒論も無事にクリアした俺は、友人の博也と2人でラウンジに座り込み、暇だ暇だとボヤいていました。

そこに前に飲み会で知り合った同期の由貴乃が、声を掛けてきたんです。

nextpage

『我妻君達、暇ならウチのサークルの卒業イベントに参加しない?』

……つまらない奴と思われるかもしれませんが、卒業と就職の決まった身で、危ない話は御免だと思いました。

躊躇していると、それに気付いた由貴乃が、イベントの概要を話し出したんです。

nextpage

『変なイベントじゃないよ!心理学の実験だよ!』

由貴乃の話では、サークルは心理学を研究しているもので、卒業前に大掛かりな『オカルト心理学』の実験をやるというものでした。

一体、オカルトの実験とは何なのかと問うと彼女は笑って答えたんです。

『逆さかごめ……って知ってる?』

nextpage

【かごめかごめ】という遊び……ご存知ですよね?

由貴乃の話では【逆さかごめ】は、あの遊びを改良した降霊術なんだそうです。

やり方は、まず前提として【鬼】は置かない。

最初に正規の【かごめかごめ】をやるんですが、唄い始めに最後の歌詞である『後ろの正面、だぁれ?』を付けて、唄うんだそうです。

wallpaper:3423

後ろの正面、だぁれ?

かごめかごめ

かごのなかのとりは いついつであう

よあけのばんに つるとかめがすべった

後ろの正面、だぁれ?

wallpaper:1

nextpage

【かごめかごめ】では、それまで【鬼】を中心にクルクル回っていた参加者達が唄い終わりで、その場にしゃがんで【鬼】が自分の後ろにいる人を当てる……しゃがまない所もあるみたいですが、大体こんな流れですよね?

【逆さかごめ】の場合、唄い終わりで手を繋ぐ参加者全員が、輪の中心に一斉に背を向けて、しゃがむんです。

そして輪の中心に背を向けたまま、立ち上がる。

両隣の人と手を繋いだら、今度は最初と反対周りに回りながら、唄を逆にして唄うんです。

wallpaper:3424

後ろの正面、だぁれ?

つるとかめがすべった よあけのばんに

いついつであう かごのなかのとりは

かごめかごめ

後ろの正面、だぁれ?

nextpage

wallpaper:1

俺も、やってみて初めて気付いたんですが……思ったより、違和感無く唄えませんか?

他の遊び歌で試しに逆さ歌もやってみたんですが、圧倒的に【かごめかごめ】がやり易いんですよ。

…………すいません、話を【逆さかごめ】のやり方に戻しますね。

【逆さ歌】で回り終えたら、今度は内側……輪の中心を向いてしゃがみます。

ここまでが1回分で、今の行程の途中で抜ける事は出来ません。

そして内側を向いてしゃがみ込んだ時……輪の中心に居ない筈の【鬼】がボンヤリとでも見えた人、或いは音を聞いたり……何かしらの怪異に遭遇した人は、この時点で【逆さかごめ】から離脱します。

nextpage

【鬼】が見えなかった人は、もう一度今の行程を最初から繰り返すんです。

そうすると輪の大きさがドンドン小さくなっていくんですよ。

手を繋いで回る人が、抜けていってしまうから。

最終、4人~3人になったら、輪の中心の【鬼】に触れられてしまう、オカルト的にはマジでヤバイって言われてる遊びだそうです。

nextpage

でも由貴乃達はそれを、心理学の実験として行うのだと言っていました。

要するに、意味あり気な歌詞の唄と単調な動きからくる、集団催眠だという検証をしたいというのです。

『お願い!どうせなら、サークルに所属してない人のデータがあった方が良いじゃない?』

正直、あまり乗る気になれなかったのですが、連れの博也は乗り気でしたし、由貴乃は可愛いですから……格好つけたかったのもあって、参加する事にしたんです。

nextpage

イベントは広い集会場で行われました。

集まったのは20人……裏方を勤めるサークル関係者を合わせると、30人以上いたのだと思います。

最初に発案者である由貴乃と、主催者であるサークルの代表だという柊野という男から、今回のイベントの主旨と、ルールの説明がありました。

nextpage

【逆さかごめ】のやり方は、先程お話した通りです。

途中、何かの違和感を感じてリタイアしたい参加者は、挙手をして【かごめ】の輪から離脱します。

そのまま一言も発する事をせず、パーテンションで区切った控えスペースで、何を見たのか……感じたのか、詳細を書き出してから、隣の部屋に用意された休憩所で待機してもらう……という内容の説明でした。

要は、誰かと話してイメージを共有する事のない様にしたい……って事です。

唄は、間違えたり詰まったりするのを防止する為に、予め録音してあって僕ら参加者は、その曲に合わせて、唄えれば唄ってくれればいい……柊野の説明がそう締められると、いよいよ参加者が手を繋ぎ、実験が始まりました。

nextpage

最初の1回目……逆さ唄の所までの1ターンが終了した時は、其処らかしこから笑い声とざわめきが上がりました。

外を向いたり、中を向いたりがなかなか揃わず、お互いの失敗を笑い合う余裕があったからです。

俺も左隣の女の子が、ブツブツと『本当に危険なのに……』とか、『やっぱり集まって来てる……』とか真剣な表情で言っているのを、博也と2人で面白がっていました。

nextpage

『皆さん、静かに!実験は始まったばかりですから、ゆっくりやりましょう!』

柊野代表の呼び掛けに、再び【逆さかごめ】が始まります。

2回……3回……そして……参加者の息が合ってきた、4回目のターンが終わった時です。

nextpage

『イヤァアァァァ!!女の子が!女の子がいるーッ!!』

突然、左隣の女の子が、聞くに耐えない雄叫びを上げて、両腕を振り回し始めました。

繋いだ手を堅く握ったまま、頑として解こうとしないので、俺も肩が抜けるかと思うほど引っ張り回されたんです。

『シーッ!!黙って!静かに!!!』

慌てて飛んできたサークルのメンバーによって、羽交い締められた女の子は、集会場から連れ出されました。

nextpage

後に残された参加者の間には、ザワザワと落ち着かない空気が流れましたが、柊野代表が落ち着き払った声で、彼女が自称・霊感少女だという事、普段から言動がやや怪しい事を告げると会場に失笑が湧き、更にもう一度『何かを感じたら、静かに挙手』というルールを念押しすると、参加者の間も一応の落ち着きを取り戻したのです。

しかし、5回目以降の【逆さかごめ】では徐々に挙げられる手が増していき、12回ほど繰り返した頃……気が付くと、残っていたのは俺と博也……そして主催者でありながら、参加していた由貴乃の3人だけになっていました。

nextpage

ふと気が付くと、柊野代表の姿がありません。

どうやら俺らが【逆さかごめ】をしている最中に、他のスタッフに呼ばれて退室した様子だったのですが、会場に残ったスタッフの態度がどうも変だったんです。

何というか……動揺している様でした。

その内、1人のスタッフが俺らと手を繋いだ由貴乃の元へ、歩み出したのですが……それより早く、由貴乃が俺と博也に話し掛けてきたんです。

nextpage

『ねぇ……どうせこれが最後だから、音楽無しで一緒に唄ってやらない?』

俺らが何か言葉を返すより早く、

『いくよ?……せーの!!』

掛け声と共に、由貴乃がリードを取って回り始めました。

wallpaper:3423

後ろの正面、だぁれ?

かごめかごめ

かごのなかのとりは いついつであう

よあけのばんに つるとかめがすべった

後ろの正面、だぁれ?

wallpaper:3424

後ろの正面、だぁれ?

つるとかめがすべった よあけのばんに

いついつであう かごのなかのとりは

かごめかごめ

後ろの正面、だぁれ?

nextpage

wallpaper:1

逆さ唄に入って背後を向いた時、驚愕の表情で会場に飛び込んで来た柊野代表と、一瞬だけ目が合いました。

何か言っている様でしたが、それを遮るみたいに唄と回転の速度が心持ち速くなり、慌てた俺は【逆さかごめ】に集中する様にしたんです。

『……後ろの正面…だぁれ?……』

最後の一小節を唄い終えて、クルリと向きを変えた時…………人1人立てるかどうかの輪の中心に………“形容し難きモノ”が“有りました”。

nextpage

それは、捏ねた粘土を無造作に積み上げた感じの……例えば円柱の柱が、強い熱で原型を留めないほどドロドロに溶け出した……オブジェの様に見えました。

その物体の全体がドクンドクンと脈打って、微かに震えていたのを見たと思います。

ドロドロと細かな層で構成されたボディに……無数の“クチ”が付いていたんです。

荒れた男の物やプルプルの女性の物、ングングと何かを吸っている様な小さな口や、モゴモゴと絶えず動く皺だらけの口……明らかに人の物ではない平たい口や、嘴何ていうのも付いていました。

それが一斉に、

wallpaper:3425

『だぁれ?だぁれ?だぁれ?だぁれ?だぁれ?だぁれ?だぁれ?だぁれ?だぁれ?だぁれ?』

nextpage

wallpaper:1

……と騒ぎ出すのを網膜と鼓膜に焼き付けながら……

俺の意識はプツンッと途切れてしまったのです。

nextpage

目を醒ました時、集会場の床に転がされてたのには参りました。

体のあちこちが痛くて……気を失った時に、強かにぶつけたみたいです。

水揚げされた鮪みたいに、隣に博也が並べられてノビてたのには笑っちゃいましたけど。

俺が起きた事に気が付いた、柊野代表が謝りに来てくれて、博也が目を醒ますまで集会場の床に座って、何故こんな事が起こったのか、一体何が起こったのか……2人で話し合いました。

nextpage

…………え?……うーん、冷静だった訳じゃないですけど……目の当たりにした光景が、あまりに現実離れしてたので、頭が受付けなかったんじゃないかな?

どこかボンヤリした感覚で、受け答えしてましたから……。

nextpage

そもそもの始まりは、サークルのOBから聞いた怪談だったそうです。

元々、心理学サークルだった事もあり、集団催眠だと笑い飛ばす人が多い中、由貴乃が検証実験を提案したと聞きました。

直ぐに皆、面白そうだと話に乗ったそうですが、最後まで反対したOBからは2つの警告を受けたそうです。

『1度始めたら、逆さ唄が終わるまでの1ターンは絶対に止めるな。』

『どうしてもやるなら、3人になった時点で終了しろ。』

勿論、その2つは守るつもりで、検証実験は始まったのだと柊野代表は語ります。

実験はサークルの外から参加者を募り、その中に1人だけ仕込みを入れて、始める筈でした。

なんと俺の左隣の女の子……最初に『女の子がいる』と騒いで、リタイアした彼女が仕込みだったそうです。

適度な所で幽霊騒動を起こす事で参加者に、『女の子の幽霊』を印象付ける事が目的で、それにより集団催眠に陥り易くなった参加者から、リタイアする人が出た時に『女の子の幽霊』の目撃者が多数出れば、【逆さかごめ】の集団催眠は立証出来る……というのが、実験の本当の形でした。

nextpage

ところが……実験が進むに連れて、予想外の事が起こった様です。

慌てた様子のスタッフに呼ばれて、柊野代表が控え室に行ってみると、そこで見せられたリタイア組のアンケートには、『クチが浮いてた』『唇が沢山並んでた』『黒いモヤに唇がイッパイ張り付いてて怖かった』等、仕込みで使った『女の子』とはかけ離れた内容が書かれていたのだとか。

柊野代表も流石に不気味に思い始めた時、集会場のスタッフから、

『由貴乃が暴走して、残り3人で【逆さかごめ】をやっている!』

という、連絡を受けて慌てて会場に戻ったそうです。

俺が最後の【逆さ唄】で見た、柊野代表の姿はこの時の物でした。

nextpage

3人が輪の中心を見詰めたまま固まり、ゆっくり崩れ落ちるのを見て、慌てた柊野代表は【逆さかごめ】を教えてくれたOBに連絡、驚いたOBが対処法を教えてくれたお陰で、

俺達はこうして事なきを得て生きてきました。

…………でもですね……

見えるんですよ……時々……

駅のホームの柱や、会社の壁……家に続く道端の電柱や、店のガラス窓……至る所に張り付いている“クチ”“口”“唇”……

その存在に気付くと、いつも聞こえるんです……

wallpaper:3425

『だぁれ?だぁれ?だぁれ?だぁれ?だぁれ?だぁれ?だぁれ?だぁれ?だぁれ?だぁれ?』

……って…………ああ……関係あるか分かりませんが……昨日………が死にました……先週の……に続いて……俺、またご葬儀行って来ます…………ご相談したかったのはこの事です……どうしたらなくなるんですかね……今……目の前のテーブルに張り付いている……その煩い“クチ”……

【了】

Normal
閲覧数コメント怖い
89920
30
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意