中編3
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握られた手

私の母の実家は田舎のほうにありました。

私が高校にはいるまでは、毎年の夏、お墓参りのために実家に三、四日滞在していました。

といっても、小学三年生まで、私にとっては実家へ行くというのは墓参りのためというよりはもっぱら祖母と会うため、というのが目的でした。

私が小学四年生になるころに祖母はなくなってしまいましたが、それまでは私が実家に行くたびによく可愛がってくれました。

その祖母と遊ぶときは、ほとんど家の中でおはじきをしたり、駒を教えてもらったりとそういったものでしたが、たまに外にでかけることもありました。

「それ」は、祖母と外へ遊びに行った時のおはなしです。

花でも摘みに行ったのか、また虫採りにでも行ったのか、細かいことは覚えてませんが、とにかく祖母とともに、どこかから帰る途中のことです。私は祖母の右手を握って連れられていました。

実家をでてすぐ右に曲がり、しばらく行くと、道端に倒れたお地蔵さんがあります。

ちょうど仰向けで、空を見上げているような形になっているので、「見上げ地蔵」と呼ばれていました。

そして、そこを通る時はそのお地蔵さんと目を合わせながら歩くのだと言われました。

その名前は祖母から聞きましたが、また祖母も、その母親から伝え聞いたとのことで、なぜ倒れているのか、とかは知りませんでした。

帰り道、その「見上げ地蔵」にさしかかった時のことです。

祖母に言われた通り、「見上げ地蔵」と目を合わせながら歩いていますと、いつのまにか、両手を握られていることに気づきました。

左手は祖母の手を握っていましたが、なぜか右手も、なにかベトベトした手に握られていたのです。

ほんの少し目線を左にずらすと、黒ずんだ、裸足が見えました。

怖くてその足を上に辿っていく、ということは出来ず、涙目で祖母のほうを見ると、どうやら異変に気づいたらしく、なんだか怖い顔で私の顔を見ていました。

すると突然、ぐいっと私の右手が引っ張られました。

私が「ひっ」と声をあげると、祖母はすぐに私のことをだきかかえ、走りだそうとしました。

しかし、その右手を引っ張る力は無くならず、私はぐいぐい引っ張られて行きました。

それでもなんとか祖母は私をかかえて進み、ちょうど「見上げ地蔵」を通り過ぎたとき、ふっと引っ張る力が無くなりました。

するとすぐに祖母は私を連れて駆け出し、家のなかへと逃げ込みました。

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なにがあったのか理解できませんが、ともかく危機が去ったというのはわかりました。

怖い思いをしましたが、なにが出来ると言うわけでもなく、その日は終わりました。

後日、祖母がお供えものをしてきて、お坊さんにも来てもらって供養してもらったと言っていました。

このあたりでは、そうとう昔の話ですが旅の人が野垂れ死んでいるのが見つかったりというのがたまにあり、旅人の神様として、あのお地蔵さまが置かれたとか。

それより前に死んだ旅人が、まだ残ってたんじゃないか、とのお話でした。

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祖母がなくなってからも、やはり墓参りにはいっていました。

それから、私がなにか変なものを見たとか、会ったとかそういうことはありませんでした。

ただ最近、こんなことがありました。

その年は、家族で都合がつかず、私を除いて、父と母だけで墓参りに行きました。

そこで、父が車で事故をおこしたというのです。

父が言うには、「突然右手を引っ張られた」とか……

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