中編5
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地獄と繋がる場

 Fさんという男性の方から、一人暮らしの学生時代にコンビニエンスストアでアルバイトをしてたときに体験した奇妙の話を先日うかがった。

 そのコンビニエンスストアは普通に何処にでもあるコンビニエンスストアで目立った特徴といえば近くにハローワークが建っていたということだった。

 ハローワークに通う人たちが利用してくれるのもあり店はそこそこ繁盛していたという。

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 そしてその中でもFさんに親しげに話しかけてくれることで仲良くなったお客さんが二人いた。一人は甲、もう一人は乙という名前。

 甲の方は何時もスーツや髪をきっちり決めていてとても神経質そうで家庭持ち、乙の方は大柄でいかにも体育会系な雰囲気で独身。二人はとても仲良しで、正反対だからこそ仲良くなれたのかなとFさんは思ったそうだ。

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 Fさん相手に最初は親しげに話しかけてくれた二人も時間が経っても就職が決まらないことに徐々に元気がなくなり愚痴混じりの発言も多くなってきた。

 特に甲さんの方はまだ学生の子供も養っていかなければならないということでその焦りからなのか愚痴もかなり多くなっていた。

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 ある日、甲さんが一人でコンビニエンスストアに来店したとき妙なことを口走った。

 「最近あのハローワーク、子供連れが多いのか知らないけど子供がいたるところでぴょんぴょん騒いでるのが視界の端に見えて気が散ってたまらない」

 Fさんは内心、仕事が決まらない焦りからか過敏に反応しちゃっているんだろうと思ったが、それを口には出さず曖昧な感じに肯定していたという。

 そして、その日を境に甲さんは店に来なくなった。

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 甲さんが来なくなってから数日後に乙さんが来店したとき衝撃的な話を聞いた。それは甲さんが自殺していたという。

 「甲の奴、まだ奥さんも子供もいるのにバカなことするなんて……」

そう言った乙さんが涙ぐんでいたことがとても印象に残っているという。

 「甲さんの分まで頑張らないとですね」

Fさんの慰めの言葉に乙さんは何も言わず頷いた。

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 しかし乙さんの方も仕事は一向に決まらず、今度は目に見えて乙さんがおかしくなっていった。

 髭は伸び、服も着替えてないのか染みが至るところに付いていて臭いも強烈。そして極め付けは目付きが明らかに前と違っていてこっちを見ているようで見ていないそんな目になっていた。

 喋る言葉も意味のなさない言葉が多くなりFさんはとても居た堪れない気持ちになった。

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 そんな乙さんだがある日とても気になることを言った。

 「何時も通りハローワーク行ったら甲がいたんだよ。苦しそうな様子でいてさ、でも周りは誰も気にしてないんだよ。苦しむ甲の周りを子供がぴょんぴょん跳ね回ってるし、もうあそこ行きたくない……」

 

 あまりの乙さんの言動にアルバイトの先輩に相談したこともあった。

 「ああいうのたまにだけどあるよ、前みたいにうちの前で自殺するって騒がなきゃ平気だって」

 このときFさんは心底凄い場所でアルバイトしているんだなぁって気持ちになったという。

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 Fさんも凄い場所だとは思うが実害があるわけでもないしとそのままアルバイトを続けていたが、そんなとき実家のお母さんから電話があった。お母さんが言うにはお母さんの親友でFさんが子供の頃から可愛がってくれたMさんがFさんにどうしても会いたいだという。

 断る理由もないので了承し、Mさんとお母さんと一緒にご飯を食べる約束をした。

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 約束の日、MさんはFさんと出会った早々「信じられないかもしれないけど……」と前置きをしながら話を切り出した。

 Mさんのお母さんは俗にいう霊感のようなものがある人で失せもの探しやアドバイスなどもたまにするぐらいの人であった。そのお母さんが言うにはどうもFさんが危ないという。

 Fさん自体に問題があるわけじゃないがFさんの行動範囲に人間の負の感情が凝縮されて地獄と繋がってしまった場があるという、その影響をかなり受けているという話だった。

 そしてこのことに心当たりあるのかとFさんに問いかけた。

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 Fさんは最近起きていた甲さんや乙さんのことを思い切って全部話すことにした。

 聞き終えた後にMさんが一言「そのハローワークもう手遅れだね」

 Mさんが言うにはハローワーク内で飛び跳ねてる子供とは多分地獄における鬼のこと、それが見える段階というのはもうどうにもならないほどに地獄とくっ付いてしまっているということ。

 Fさんのアルバイト先はハローワークの近くではあるがその地獄の影響を受けるには十分な距離なので離れなさいとのこと。

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 しかしFさんは実害を受けているわけでもなく、またそのときはMさんのことを正直信じられなかったのでバイトを離れるという気にはならなかった。

 Mさんもそう言われることは見越していたのか、それ以上離れなさいとは言わずFさんに向かって数珠を差し出した。

 「離れないのならせめてこの数珠を何時も持っていなさい。そしてもしこの数珠が割れるときが来たら逃げなさい」

 言われるままにFさんは数珠を受け取った。

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 数珠を受け取ってからしばらくアルバイトしていても何も起きず、Mさんの言ってることも当てにならないなぁと思い始めてきたときのこと、最近全く姿を現さなかった乙さんが来店した。

 その瞬間に、

shake

ピキィーーーーンッ!!と大きな衝撃が数珠を入れているズボンのポケットからした。

 直感で数珠に何かあったのだと悟った。心の中ではこれは危ないという気持ちとそれでもまだ信じられない気持ちが半々で、とりあえず乙さんの方を確認しようとしたが、そこには信じられないものがあった。

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shake

 子供だ。 

 小さい子供のようなものが乙さんの周りをぴょんぴょん跳ね回っている。あまりにその動きが速くてぶれて見えるのでしっかりとは分からないが背丈から真っ黒い子供のようなものと分かった。

 そのときFさんは全てを理解した。

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 ハローワークが地獄と繋がってるんじゃないんだ。乙さんそのものが地獄と繋がっているんだ。

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 そこからFさんは何とか頑張って乙さんとの対応を済まし、バイト終了後に数珠がどうなっているのかを確認した。

 数珠の玉が4つほど割れていた。女性用で小さい石とはいえそう簡単に割れるはずのない石が4つも真ん中から綺麗に割れていたのだ。このときFさんはもうここから離れようと決心したという。

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 Fさんはアルバイトを辞め、その後は幸運にも何も不思議な体験はしてないという。

 そんなFさんが最後に語った言葉が自分としてはとても忘れられない。それは次の通りである。

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 「正直、甲さんや乙さんみたいな就職決まらない人って全国で少なくないと思うんですよ、そういう人たちが次々に地獄と繋がってると思うと、今のこの世の中どうなっちゃうんでしょうね」

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