短編2
  • 表示切替
  • 使い方

現実逃避

 浩次は薄暗い部屋でパソコンに向かっていた。

 今、夢中になっているもの、それは街づくりをする無料のネットゲームだ。二、三人の住人から徐々に人数を増やし、家を建て、店を作り、学校や警察署も建設する。コインやアイテムを貯め、貯まったら土地を買い広げていく。

 もちろん市長は自分だ。

 住人の悩みを聞き、解決し、信頼を得ていく。

 コインは十分に貯めてある。その他のポイントも貯め、アイテムもしっかり確保している。順風満帆の世界だ。

 だが。

 浩次の現実世界はひどいものだった。リストラに会って現在は無職。職を探すもなかなか自分にあったものは見つからない。雀の涙だった貯金ももうすぐ底をつく。割引の付いたパンや特売のカップ麺で食いつないだ食生活もますます厳しいものになる。

 金が尽きればネット生活もやってはいられない。

「あーあ」

 浩次は大きく伸びをした。

 オレの人生、なんてつまらないんだ。

 頼りにしていた両親は死んでもういない。彼女もいない。友達もいない。仕事もない。金もない。才能も運も、何にもない。

 この中の自分になれたらなあ。

 そう思いながら自分のアバターを見つめる。自分の顔に似せた間抜け面の、だがかわいいアバターが立派な持ち家の前で立っていた。

 浩次はぎゅううっと目をつぶった。神様に、いや悪魔に願い事をしてみる。

 この中の住人にしてください。魂売ってもいいです。だからこのゲームの中に入れてください。

 頭が破裂してしまうほど力を入れ悪魔に願った。力を入れ過ぎてくらっと眩暈がした。頭の片隅でオレは馬鹿かと自問する。

 ああ、馬鹿だとも。

 浩次は何度も何度も力を込めて願った。

separator

 がやがやとにぎやかな声が聞こえてきた。

 そっと目を開けると画面で見なれたカラフルな町が目の前に広がっている。自分が選んだ住人たちが右に左にと楽しそうに町の中を走り回っていた。

『市長さん、こんにちは』

 横を通った住人の言葉がフキダシになって通り過ぎていく。

 うそだろ。ホントに来たのか? ――マジかよ。オレ、市長だぜ。

 わくわくどきどきしながら貯めに貯めたコインに思いを馳せる。

 よし。まず上手い飯を食いに行く!

 浩次は食堂街に作った様々な飲食店を思い浮かべた。

 ここの料理のグラフィック、クオリティーが高くて美味そうだったんだよな。

 しかし、進もうとしても足が動かない。

 ん? なんでだ。なんで動かないんだ。バグかよ。おい。どうなってるんだ。どうなってるんだよっ。

 ――ああっ、操作するものが誰もいないっ。

separator

 もう浩次に知るすべはないが、部屋にいるのは腐敗臭を攪拌して飛び回る大量の蠅だけだった。

Concrete
コメント怖い
12
16
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信

すごっ!
こんなオチ初めて読んだw w w
思わずニヤリとしちゃいました(笑)
ニヤリ=声を出して笑ったり吹き出したりするわけではないけど、結構面白くて口元が緩んじゃう感じ

返信

いさ様
ありがとうございます。
私も本当に思ってしまったんですよ。こんだけ金がありゃあなーって。み、みじめ・・・
ホラーゲームには入りたくないですけどね。いや、やっぱり入りたいかな。
今だったらVRっていうんですか、あれで体験できますよね。いいなー、バイ〇ハザ〇ド7おしっこちびるくらいビビるよ。きっと。

返信
表示
ネタバレ注意
返信

ふたば様
お読みいただいて&怖ポチありがとうございます。
書く作業ってなかなか進まなくてつらいですね。そこが楽しい部分でもあるのですが(≧◇≦)
私も新作を書こうと思いながら全く進まないでいます。途中まで書いたのが二、三作あって、頭の中でストーリーも出来上がっているのですが書くという作業ができません。言葉がスラスラ出てきてサラサラ書ける人がすごくうらやましいです。でも、自分だけではないんだとふたばさんのコメントで思いました。きっと皆さんそうなんでしょうね。お互い頑張りましょう!!
これ、だいぶ前に書いたものです。書いている途中で飽きてくると、つい既存作をいじくって投稿してしまいます。んで、怖ポチもらって元気ももらいます(≧◇≦)アリガトー!

返信
表示
ネタバレ注意
返信

いつも読んでいただき&怖ポチありがとうございます!

月船様
飽きちゃってもう長い間行ってないのですが、某サイトのゲーム(というのか?)で自分が思ったことをアイデアに書きました。マジであそこの住人になりたい(≧◇≦)
孤独は嫌いじゃないです。目指せ孤独死。近隣の住人に迷惑かけまくって死んでやるっ!と思っている私は悪い人でしょうか(冗談ですよ。冗談( ̄▽ ̄))

りこ様
短いのも長いのもまだまだだと思い悩んで書いてます。本当に正解が見えない。ので、面白いと言ってもらえてうれしいです(≧◇≦)ノシ

むぅ様
自分のことも含めてですが、いらんことに労力使うんならもっと働けよって思います(≧◇≦)

mami様
私も短い話を小気味よく書ける人がうらやましいです。削るということができない上に、もっと描写しないと伝わらないんじゃね?と、どんどん書き足していってしまうので結局無駄に長い文になってしまったりして。
無駄な部分も必要だと思うのですが、私の場合は本当に無駄ですからね…それがあるがために読み手を正しいほう(伝えたいこと)へ導けないという…ね…ははは( ̄▽ ̄)
短い文章なのに的確な描写で読み手に状況を想像させることができる。そんな書き手に私はなりたい。( `ー´)ノイッショウムリ

返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信