中編3
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汽車

 こんな初心者用のハイキングコースで迷うとは思ってもみなかった。

 木々の密度加減からして深い森ではないようだが、もといたコースを見つけることができない。

 下手に動けばかえって悪い状況に陥るだろうと思ったが、人の姿も声もなく、なぜか鳥のさえずりさえも聞こえないこの森が不安でたまらず、じっとしてはいられなかった。

 コースに近づいているのか、もっと奥に入り込んでしまっているのか、行けども、行けども、同じ景色ばかりで状況がわからない。

 非常にヤバいのではと思い始めたころ、かすかな音が聞こえて足を止めた。

 だが耳を澄ましてあたりを見回しても、何も聞こえず何も見えない。

 葉擦れが聞こえただけだろうとがっかりしたが、木々を揺らすような風がまったく吹いていないのに不思議だった。

 歩き始めてしばらくするとまた聞こえてきた。小さくて途切れ途切れだが確かに聞こえる。

 耳を集中させ、音の鳴るほうへと足を向けた。

 シュッシュッシュッ。

 近づくにつれ音がはっきりと聞こえてくる。

 何の音だろう。人の声にも聞こえるが――

 足を速め、しばらく行くと二十メートルほど先の木立の間から人の姿が見えた。

 よかった。助かった。

 そう思ったが、何か違和感がある。頭の中で警報が鳴り響き、思わず木陰に隠れた。

 そっと近づいて様子を窺うと、十数人の老若男女が前の人の肩を持って一列に繋がり汽車ごっこをしている。シュッシュッという音はその人たちの口から発せられているようだった。木々やでこぼこと飛び出した根、繁茂した低木や下草をものともせず、軽やかなテンポで前進している。

 大の大人が何のためにそんなことをしているのか。見てはいけないものを見ている気がして膝が震えていた。

 先頭を含む全員がうつむいているのにぐんぐん前に進んでいる。

 なにかの撮影でもしているのかと周囲を見回してもほかには誰もいない。しかも、人々が木立に隠れるたびに人数が増えたり減ったりと変化する。

 もし彼らに戻る方法を訊けたとしても、森の外には出られないと確信した。

 この場から離れようとそっと振り返ったとき、枯れた木の枝を踏んでしまった。ぱきっという乾いた音は木立の間によく響いた。

 シュッシュッと言う声が止んだので恐る恐る視線を向けると、汽車の先頭がゆっくり、こっちに方向転換するのが見えた。

 うつむいていた全員が顔を上げた。誰もが曖昧な輪郭で滲んだようにはっきりしない顔をしていた。

 ポッポオオオオオ

 先頭が声を上げると人汽車はものすごいスピードで突進してきた。

 逃げる間もなく目の前まで迫ってきたが、やはり彼らの表情は濡れた薄紙を張り付けたようにはっきりと見えなかった。

separator

 シュッシュッシュッと言いながら足踏みをする。

 緑一色の景色は滲んでぼやけ、はっきり見えているのは前にいる青年の肩とそれをつかむ自分の手だけ。

 ポッポオオオオオ

 その音を合図に汽車が動き出した。

Concrete
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@深山 様
怖ポチ、コメントありがとうございます。
嬉しいコメントでした(≧▽≦)

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読んでくださった皆様ありがとうございます。怖ポチもありがとうございました。

いも様
コメント、怖ポチありがとうございました。
ホラー映画しか観ないので、黒沢監督の映画観たことない・・・狐の嫁入りの話観てみたいと思います。

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汽車

読ませて頂きました。
非常に独特な世界観で、読んで得したなと。
唯一、近いなと思えるのは、黒澤明監督の「夢」の中の狐の嫁入りの話。
「もし彼らに戻る方法を訊けたとしても、森の外には出られないと確信した。」
この一行はバッチリですね。

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読んでくださった皆様、ありがとうございます。怖ポチもありがとうございました。

珍味様
怖ポチ、コメントありがとうございました。
心霊特番でよく見る映像を見て思いついた話なので、何でこうなったのかとかあとどうなるとか考えてないですのですが、町で見かけたらいやだなと思いました(≧◇≦)

修行者様
怖ポチ、コメントありがとうございました。
そっか、キョンシーか・・・呪怨の清水監督のキョンシーの映画怖いですよね。ああいうのを文章で書けたらいいのになといつも思います。

むぅ様
怖ポチ、コメントありがとうございました。
へんなの見かけて巻き込まれましたというお話です。

ロビンⓂ様
怖ポチ、コメントありがとうございました。
一緒に走りませんか?

月舟様
怖ポチ、コメントありがとうございました。
自分がもし山で何かに遭遇したらと考えると怖いですヾ(≧▽≦)ノワクワク。怖い何かに出会ったことはないですが、夜の山道で斜面を落ちかけたことあるの思い出しました。今となっては笑い話です。

mami様
怖ポチ、コメントありがとうございました。
珍味さんのとこでも書いたのですが、テレビで映像を見て思いついた話なので、他のことは全く何も考えていない。珍味さんやmamiさんの想像力、さすがだなと思いました(^^)v
さらにそこから話を膨らますということを考えなければ!

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