中編6
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赤い靴

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「だーかーらー!!!会議資料にはページと表紙つけろって何回言わせんだよ!!!やり直し!!!」

昼間のオフィスに怒号が響きわたる。

「申し訳ありませんっ!!!」

叱られた女性=新人派遣OL オオシマ リカコは頭を下げて、自分のデスクに戻る。

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「また彼女ですか?」

「そのとおりだよ・・・勤めて10年くらいになるが、あんなに出来の悪いやつは初めてだ。」

「同感ですよ、派遣じゃなきゃとっくのとうに飛ばしてますけどね・・・男でも出来れば変わるんじゃないですか?」

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「無理無理。毎日毎日、代わり映えのない服にナチュラルメイク。

誰もあんなの誘わねえよ」

「まったくですよ。」

彼女を恫喝した上司が二人揃って部屋を出て行く。

「聞こえてるっつーの」

リカコは苛立ちながら、キーボードを叩いた。

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「首にされちゃうのかな・・・私。」

トボトボと家路を帰っていたリカコは、ふといつも通るゴミ捨て場に目をやった。

「え・・・?」

ゴミ捨て場に、綺麗な赤い靴が捨てられていた。

奇妙なのは、その靴はどこも、汚れたり壊れている様子がないことだった。

「これ・・・有名な海外ブランドのやつじゃん・・・なんで捨てたんだろう・・・」

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「あー・・・やってしまった。」

リカコは思わず、その靴を自宅に持って帰ってしまっていた。

「いいんだよね、別に。捨ててあったんだから、誰のものでもないよね・・・」

まじまじとリカコは靴を見つめ、吸い寄せられるように・・・その靴に足をはめた。

奇妙なことに・・・靴はぴったりと、彼女の足におさまった。

「マジで!?こんな偶然ってあ・・・」

それ以降、彼女の意識は遠のいた。

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翌日。

オフィスに派手なファッションの女性が入ってきた。

上司が声をかける。

「君、誰?新しい派遣の人?人事部から何も聞いてないんだけど。」

「え?オオシマですけど。」

「はあ!?お前…オオシマなのか?急にどうしたんだよ!メイクも服も…まるで別人じゃないか!」

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「なんだっていいじゃないですか。あんまり言うと人事部に報告しますよ。それに」

強気な態度。昨日までの内気で大人しいオオシマとはとても同一人物とは思えない。

「私にもペースがあるんで、一方的にああしろこうしろ言うのはやめてくださいね」

そういって席につくと、テキパキと業務をこなしていく。

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「どういう事だ…何があったんだよ…たった1日でまるで人が変わったみたいに…

あいつは…本当にオオシマなのか!?」

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所が変わって、あるマンションの一室。

「疲れた〜明日も忙しいのに勘弁してくれよ、まったく」

会社員…マツダ カズキは飲み会を終え、ソファに倒れこんだ。

ピンポーン。

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「そうだ、今日は確か妹が来る日だったな」

近くの大学に進学した妹が遊びに来る予定だった。カズキは確認せず、ドアを開ける。

「いらっしゃ…え?」

ドアの前に立っていたのは、全く知らない派手な服の女だった。

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「あの〜、部屋間違えてませんか?」

別の部屋の住人が部屋を間違えでもしたんだろう。

そう思った。

しかし次の瞬間、彼女の口から出た言葉にカズキは驚愕した。

「久しぶりだね、カズキ」

「えっ!?」

紛れもなく自分の名前だ。

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「なに、少し会わなかったぐらいで人の顔忘れるの?」

ドアを閉めようとするカズキの手を払いのけ、女は部屋の中に入ってしまった。

「疲れた。お風呂入れてよ。ラベンダーの風呂、わかってるよね?」

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「いやいや、ちょっと待てよ。俺あんたのこと知らねえよ。いきなり人の家に入ってきて、ラベンダーの風呂ってどういう…はっ…ラベンダー…?」

カズキは何かを察したように態度を変えた。

「わかった。すぐ入れるよ。ちょっと待ってくれ。」

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「ふう…癒されるなあ…」

女はラベンダーの風呂に浸かり、疲れを癒していた。

しかし、目をつぶってしばらくすると…

「ええっ!?ここどこ!?私なんでここにいるの!?」

急に我に返ったように取り乱して、女は風呂を飛び出した。

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「本当に…何とお詫びしていいか…信じてもらえないと思いますけど、私、何も覚えていないんです…私、オオシマリカコと申します」

「いや、いいんですよ」

カズキはさっきと打って変わって、冷静に答えた。

「それより、あの靴。あれは拾ったものですか?」

玄関に置かれた赤い靴を指差してカズキは言った。

「捨ててあったので…あまりにも綺麗だったから…つい…もしかして、あなたの彼女さんとかのものですか?それならお返しします!ごめんなさい!」

「いえ、結構です」

カズキは靴から目線を外さずに答えた。

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「あの靴の持ち主は…いえ、正確に言えば、あの靴の持ち主だった女性は…もうこの世にはいません」

「えっ!?」

リカコの目が点になった。

「あれは今からほんの少し、前のことです」

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「お察しの通り、私には彼女がいまして、大学時代から長く付き合っていました。恥ずかしいお話ですが、既にここに一緒に住んでいて、結婚の約束もしていました」

リカコが部屋を見渡すと、確かに男性が絶対に使わないようなものがいくつも置かれている。

「あの靴は、私が彼女に初めてプレゼントしたものです。とても喜んでくれて…私と彼女は長らく幸せな時を過ごしていました」

徐々にカズキの表情は曇りだしていた。リカコは無言で聞いていた。

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「しかし、僕は社会に慣れていくにつれ、色々な遊びを覚えて…彼女のことをないがしろにするようになってしまいました」

リカコは無言で聞きながら、男ってそんなもんだろう、と思っていた。

「そして、ある日…」

リカコは唾を飲み込んだ。

「それで、どうしたんですか?」

「連絡が通じない彼女を心配して部屋に押し掛けると、彼女は手首を切って自殺していたんです。」

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リカコは背筋が寒くなった。

「遺書にはただ「さびしかった」とだけ書かれていました…」

カズキは慟哭し、泣き崩れた。

「俺が悪いんですよ!あいつの気持ちも分からず好き勝手自分のやりたい事ばかりやってたから!俺は最低の人間です!」

「そんな事言わないでください、カズキさん」

リカコは震える彼の手を掴んだ。

「過去のことは替えられなくても、これからは変えられます。後悔し、悲しむ気持ちがあるなら、もうこれから、同じ過ちは繰り返さないはず」

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「リカコさん、あなたは優しい人だ…」

ピンポーン

チャイムが鳴った。

「あ、そうだった。今日は妹が遊びに来る日なんです。大学生です。今開けるよ!上がって」

カズキはオートロックを解除した。

「そうだったんですね、では私はこれで」

「待ってください」

帰ろうとするリカコをカズキは引き止めた。

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「えっ」

「もう時間も遅いです。女性の一人歩きは危険だ。妹にはなんとか言っておくので、今夜は泊まっていってください」

「そんな…申し訳ないです」

「大丈夫です。何もしませんよ」

彼の真剣な目を見て、リカコは何も言えなかった。

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「おつかれーらいす!お兄ちゃん元気だった?あれ?新しい恋人さん?綺麗な人!」

「おいおい、あんまり茶化すなよ」

「はじめまして。リカコと言います。すみません、疲れているので先に休みます」

リカコは二つある寝室のうち一つに入っていた。話がややこしくなるので、カズキの新しい恋人だということにした。

「あれ、この靴誰の?きれい!履いてみていい?」

「わかった、すぐ脱ぐんだぞ」

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「うぎゃあああああ!!!」

玄関から悲鳴が聞こえ、慌ててリカコは部屋を飛び出した。

「ひいっ!」

リカコが見たのは、おぞましい光景だった。

妹が包丁を、笑いながら何度も何度もカズキに突き立てていた。

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リカコは慌てて、妹を跳ね飛ばし、包丁は床に突き刺さったが、もうカズキはすでに事切れていた。

妹は狂ったように笑い続けていた。とても正気ではなかった。明らかに何かに取り憑かれていた。

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「いやあああっ!」

リカコは耳を塞ぎ、目を瞑った。

カズキの身体から流れ出た鮮血が、赤い靴をさらに赤く染めていく…赤く…赤く…

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