「…ううう」
目を醒ますと欽也の体は汗でびしょ濡れだった。結局、そのまま一睡もする事なく会社へと向かう。
「なあ、金森」
オフィスで仕事をしていると、同僚のNが話しかけてきた。
「ん?」
「お前を友達だと思っていうんだけどさ。お前ちゃんと風呂とか入ってるか? 少し臭うぞ、最近のお前」
「えっ、そうかな?」
「なんだ自分で気づいてないのかよ?多分それあれだぞ、ワキガだ。 まあワキガだったらただの病気だし治療すりゃ直る。
なあ金森。こんなことで顧客に迷惑なんてかけらんねーし、悪いこと言わないから病院行って来い」
ワ キ ガ ?
オ レ ガ ?
頭の中で嫌な予感がよぎった。
『 ウチが死んだのは、あんたのせいや。あんたの・・・あんたの・・・・・・あんたのせいなんや!! 』
死んだ筈の少女。
「行くか?」
「え?」
同僚の声に、欽也は唐突に我に返る。
「行くって、どこに?」
「どこにってお前、今言っただろ?焼肉かどこか… 確か『あみやき亭』が半額セールやってたかな?」
「ごめん何?話が全く見えないんだけど」
「だから、おまえ今言っただろが?『肝臓が食べてーよー』 って。レバー食える店って他にもどこかあったか?ああ、焼き鳥屋もあるか」
不意に同僚の声が遠ざかった気がした。
肝臓が食べたいだと?
「言ってない」
「んっ?何だ金森」
「お、俺はそんな事は言ってない…俺は、俺は、そんなこと言ってない!!」
欽也は同僚を置いたままオフィスを飛び出した。
途中、何度も転びそうになりながら、そのまま一直線に駅前の脇田クリニックへと向かった。
「ちくしょー!何だってんだよ!」
すれ違う人間全てが自分を指さして何か言っているようで…
鼻をつまんで不快な視線を投げかけているような気がして…
欽也は狂いそうだった。
…
クリニックの脇田先生は、欽也のワキに鼻を近づけながら首を傾げた。
「おかしいですね。この匂いはあなたのワキからではありません。ふーむ」
「そんな馬鹿な、先生もっとよく調べて下さいよ!みんなが僕を見てクサいと鼻を摘むんです」
「そんな事言ったってどうしよーもないじゃないかー」
「え、えなり!?」
見ると、先生の後ろにいる女性スタッフが「くくく…」と俯きながら笑いを嚙み殺している。
「欽也ー、ウチは死ぬまであんたに取り憑く言うたやろ?くくく…」
先生が叫んだ。
「な、なんだチミは?!!」
「し、志村!?」
女性スタッフはゆっくりと顔を上げて欽也を見た。それは紛れもない、死んだ筈のあの少女だった。
「欽也、あんたは一生ウチと同じ苦しみを味わいながら生きていくんや。一生言うても長生きはさせんで、あんたの肝臓はもうあと一年ともたん。ウチがジワジワとなぶり殺しにしてやるさかい覚悟しときぃや!きゃはははは!!」
思わず欽也は立ち上がり渾身のロボットダンスで少女を威嚇するが、生前の彼女とは違い全く効いていないようだった。
「もうそんなん効かんわ、あんたは死ぬ。一年以内やで」少女はもう笑っていない。
「な、何故だ!僕がいったい君に何をしたっていうんだ?見ず知らずの僕に何故つきまとう?こんなのおかしいよ!いい迷惑だ!」
欽也は泣きながら叫んでいた。泣いたのは何年ぶりだろう?
「なぜウチがあんたに付き纏うかだって?ふふふ、童貞のくせに面白い質問ね。
無いわよ…」
「えっ?」
「理由なんてあるかよこのフニャチンヤロウが!世の中なんでも理由があるなんて思うな粗チンの包茎ヤロウ!クズ、ノロマ!って、いつまでロボットダンスやってんだよこの馬鹿チン!!」
息つく間もなくそれだけ言うと、少女は隣りで興味無さそうに欠伸をする先生を睨んだ。
「なあ先生、ウチの言うてる事間違ってる?」
「あ、失礼!全然聞いてませんでした申し訳ない」
すると少女は物凄いスピードで先生に関節技を決め、先生が地面をタップしようが泣き叫ぼうが力を込め続けた。
「ぐえええ!死ぬー折れるー!」
先生が泡を吹きながら気絶すると、少女はニヤリと笑って欽也を見た。
「欽也ー、あんたが助かる方法は一つやで。人間の肝臓を食べー、もちろん生でやで。それも死にたてほやほや限定や!ひゃはは!あんたに人が殺せるやろか?」
そこからの記憶はなく、気づいたら欽也はカポエラ教室の入ったテナントビルの前に倒れていた。
「ゆ、夢?!」
「ちょっとあなた大丈夫ですか?」
倒れている欽也に気づいたおじさんが肩を貸してくれた。しかし途中で手を離されて、欽也はまた地面に尻餅をついた。
「くっさ!!」
おじさんは鼻を摘みながら走り去っていった。欽也は逃げるおじさんの背中を見つめながら確信した。
これは夢じゃない、あの少女は間違いなく僕の近くにいて、僕を監視している。
僕が生きた人間の肝臓を食べるその時まで。
作者ロビンⓂ︎
制作協力者:修行者様
リレー直前デモスト企画発案者:修行者様
怖話いち乗りの良いナイスガイ:修行者様
http://kowabana.jp/stories/28964