第三回 リレー怪談 鬼灯の巫女 第5話

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第三回 リレー怪談 鬼灯の巫女 第5話

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第5話「広がる疑惑」

shake

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「 いやぁーッ!いやぁーーーッ‼︎」

渚の悲鳴は鋭く私達の耳を劈き、そして崩れ堕ちた姿のまま、

「どうして?どうして?」

と自分の手や足を、ゴシゴシ擦り出した。

動く度に、靴についた泥が、部屋の畳に擦り付けられ、

赤黒い箇所が、ジトリと染み込むように渚の顔や手足に広がって行くように見える。

同時に、渚が動く度、鉄の匂いが、フッと鼻をかすめる…。

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「渚、落ち着いて」

そう言って近づこうとした私を、とてつもない力で八月が止める。

「なっちゃん、ダメ、ダメッ!」

「八月、ごめん。ちょっとだけ離して?渚のこと、見てあげなきゃ。

平気だよ。怖くて気が動転してるだけ…」

shake

「ダメッ!!」

普段、おとなしい八月の荒げた声に、今度は皆、一斉に八月を見た。八月はその皆の視線に、ハッとした様な顔をして、

「でもダメ。近寄っちゃダメッ!」

涙を浮かべながら、私の腕を離しはしない。

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潮も、どうしたらいいのかわからないと言った顔で、

渚の異様な姿を引きつった顔で見ているのが精一杯の様だ。

どうしよう…何が何だかもう…、

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「渚…どんな奴がいたんだって?」

東野さんだけが、慌てるでもなく、怖がるでもなく、 いつもの同じ声で、渚にそう声をかけた。

その声に、渚はまるで、見えない糸で操られている人形の様な動きで、頭をフイッと振り、 大きく見開いた目から涙を流したまま、東野さんを見た。

「どんな奴が、何を言ったんだ?」

言葉を区切る様に、もう一度渚に問いかける。

渚は、

「だから…お水をもらいに行ったんですよ。

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そしたら、下には誰もいなくて、私、自分で水を入れて飲みました。

外から人の声が聞こえるから、窓を見たら、そしたら…、

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ヘルパーさんの格好した、アレがいたんですよッ!

最初は、普通な感じだったのに、だんだんおかしくなって来て、よく見たら、全部フジツボで…私は、怖くて、怖くて、ここまで、、、」

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そこまで言うと渚はまた、自分の体を見やり、擦りながら、ヒッヒッと息をしたかと思うと、ハァッーッと息を吐き出し、

大声を上げ、泣き出した。

東野さんは渚の肩を抱き、

「怖かったな。分かった」とだけ言うと、

潮に布団を引く様に言った。

潮の引いた布団に、渚を横にさせ、

「渚、皆んなここにいる。安心しろ。

明日、島に行って、何が起きてるのか確認しよう。大丈夫だ」

それだけ言うと、大きく見開いたままの渚の目に、手を当てた。

しばらく、渚のしゃくりあげる声が聞こえていたけど、

やがて、泣き疲れたのか、スースーと寝息が聞こえて来た。

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ジワっと、腕に力が戻った様な感じがしてそちらを見ると、私の腕をしばりあげる勢いだった八月が、ようやく力を緩め、それでも離れはしないと行った様子で、私の手を握っていた。

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「今夜は…」

そう声を出した東野さんを、

私と八月、それから潮が見つめる。

「今夜はこの部屋で、皆んなでいよう。

この様子じゃ、渚もいつまた、起き出してしまうかも知れないし、かと言って1人にさせるわけにもいかない。

女だけでここにとも、言えないしな」

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チラリと、八月を見やりながら、東野さんがそう言って、渚の寝る布団から少し離れた場所に、壁にもたれるように座り込んだ。

それに習うように、私たち3人も、輪を書くように座った。

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「どう言うことですか?全く、分かんないんですけど。

渚の見たフジツボの奴って、何なんですか?

あいつなんで、水飲みに行って、泥だらけの靴で帰って来て、あの手と口の周り…何ですか?」

…何も、考えがまとまらない内に起きたおかしな事…。

潮が漠然とした質問を東野さんにポソリと投げかける。

「…わからんな。

ただ、渚は、覚えてないだけで、どこかに行ったんだろうな。

行って、何かを…

食べた…。

それも、生のままだろう。

途中で我に帰ったのか、ここまで戻って気づいたのかは分からないが、あいつの手や口についてるのは、アレは間違いなく血だ。さっき、渚に近づいたら、プンプン匂ってた。

靴が汚れてるのも、どこかに行ったからだ。

どこだ?どこに行ったんだ。

いつ行った?そんなに時間は無かったはずだ」

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ウグッ!と音を立て、潮が口元を押さえた。

潮だけではない。私も八月も、薄々気づいてはいたが、

はっきりそう伝えられたことで、喉につっかえるものを感じていた。

八月に至っては、顔色が悪い。

弱々しい声で、

「気分が悪い…」

そう言い、潮と同じく口元を押さえた。

「俺がついて行く。七月と潮は、渚を見ててくれ」と、

東野さんが立ち上がった。

私にタオルを1枚よこすように言い、それを手渡した私に、

「何かあったら、大きな声で呼べ。

渚が起き出しても、無理に止めたりするな」

淡々とそれだけ言うと、

八月を連れ、部屋を出て行った。

静まり返った部屋には、渚の寝息だけが響いている。

渚の方を見なければ、

気持ちよさそうに眠っているようにしか、感じられない。

東野さんがタオルを持って行ったのは、渚の手や口についたたままになってる血を拭いてやるつもりなのだろう。

ふと、自分のカバンの中に、ウエットティシュが入っていたことを思い出し、立ち上がった私に、潮が、

「お前も気持ち悪いのか?」

と聞いて来た。

「平気、潮は?大丈夫なの?今なら、渚もよく寝てるみたいだから、私だけでも平気だよ?」

と言うと、

「いや、さっきより、マシ。落ち着いた」

そう答え、 ハアーッと、大きく溜息をついた。

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分からなくもない。

何も、何も自分では分からないままに、似て異なる伝承を3つ聞かされ、語った1人は病院に送られ、さらに東野さんの憶測が重なり、

真相は明日と心決めた途端、友達がおかしなことになってしまった。

「本当に明日、島に行ったら、解決するのかな。

おかしなことに、これ以上なったらどうするの?

私達だけで、何とかなるの?」

不安でしかないこの状況、口にせずいられなかった。

「分かんね。全然、俺、頭、着いてこない。でも、このまま、何にも知らない顔も、もう、出来ない。行って、分かることがあるなら、何とか解決策もあるかもしれない」

潮は、静かな声で答える。

黙ったまま、渚の手を拭く。

赤黒い血が乾き、こびりつき、拭くために与えた水分を吸って、

また、鉄の匂いが湧き立ち、そこに、かすかにだが、

磯の香りもつきまとう。

「渚が食べたものって…」

言いかけた私に、

「言うな。想像するな。落ち着いたのが、また上がってくる…」

潮は苦い顔をして、止めて来た。

私もそれ以上は何も言えず、黙ったまま、渚の手を吹いていた。

しばらくすると、東野さんと八月が部屋に戻って来た。

「誰もいない。園さんの姿も見えない。

外を覗いてみたが、誰かがいる様子もない」

そう言いながら、手渡して来た濡らしたタオルを、東野さんから受け取り、

拭き取れてない箇所の血を拭いて行く。

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八月は、鼻をかすめるかすかな匂いが耐えられないのか、それとも単純に怖くてなのか、

私の側ではなく、東野さんの少し離れた位置に、膝を抱いて座っている。

「明日、島に行ったからと行って、すんなりことが進むとは限らない。今は少しでも体を休めて、頭を整理させろ。どうなったのか、どうなるのか、は、明日からだ。今は、頭を整理して、ここに来てからの事を其々が整理するんだ。

それと、これから何があったとしても、1人では行動するな。どんな事でも、必ず誰かと一緒でないと行動するな」

東野さんの言葉に、渚以外の私達3人はうなづいた。

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待てど暮らせど、誰かが私達を呼ぶことはなく、

私達以外の人の気配を、感じる事さえなく時間が過ぎていく。

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夕飯にもありつけず、何か作ろうと、

今度は、私と潮が台所に行くことになり、

炊いてあったご飯でおにぎりを作り、置いてある鍋を見ると、中には魚の煮物があり、とても良い匂いがしたが、食べる気になれなかった。

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結局、味噌汁と作ったおにぎりを持って、また部屋に戻り、渚以外の4人でモソモソと食べる。

東野さんは、何も話さず、ただずっと、何かを考えているようで、

八月は、食欲がないと、あまり口にせず、また膝を抱いて丸まってしまった。

潮は、思い悩んだ顔で、ずっと俯いている。

私は立ち上がり、八月の横に腰を落とした。

八月は不安げな顔をして私を見て来た。

私もきっと、頼りなげな顔をしているだろう。

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分からないのだ。何が起きたか、何が起きるのか、どうしてなのか、なぜなのか…、

考えるなと言われても、やっぱり何故か、と、考えてしまう。

2人横に座り、八月は私の手を握って来た。

私も、八月の手を握り返す。

どちらの手の温かさなのか分からなくなり、心が落ち着く…。

同時に、眠気が襲って来た…。

今はもう、何も考えず、このまま、眠ってしまおう

ちらりと目だけで横を見ると、八月も目を閉じている。

手は繋いだまま…。

それだけを確認し、私も目を閉じた…。

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私と八月が寝ているのを、誰かが覗き込んでる…

誰?

潮か東野さん?

それとも、渚…?

部屋の電気を背にして、覗き込む人の数が、

1人…、2人…と、増えて行く…、

誰なの…?…、

…歌が、…聞こえる…

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湧いてくる、湧いてくる…

巌田の家の…

おばあさんの聞かせてくれたあの歌…、歌ってるのは、誰なの…?

鬼灯一つに、瓜二つ…、

歌に合わせて、ゆらりゆらりと、人の数は増えて行く。

やがて、前後左右と体を揺らし、まるで、波に揺られる海藻のように、歌に合わせて動き出す…、

…貢物さえ捧げときゃ、

あやかし、巌田の守り神…、

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あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ

誰かの声なのか、大勢の叫び声かも分からない…、

ギラッと、眼に刺さるような光が走り…、

その後は、真っ暗…、

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………、

何?聞こえない、何て言ってるの…?

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「七月!七月!起きろ」

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東野さんの声で、眼を覚ますと、外にはうっすら朝が来た所のようだった。

昨日の夜の、あれは、誰だったんだろう…

「用意しろよ。八月も起きて、もう顔を洗いに潮と下に降りた。戻って来たら、俺たちが行く。

用意をしたら、出発だ」

虚ろな頭で、

昨日のおかしな出来事や、これから不可解な事に向き合わなければいけない現実に、ノロノロと戻って行く…。

誰かに何かを、最後に言われた気がする…、

何を言われたのだろう…、

私達に…何かを言ってた…

いや違う…、

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私…私に?

私だけに、誰かが何かを囁いた…、

何て、言ったの?

聞こえなかった…?聞こえてた…?

分からない。どっち?

とても大切なことを、言われた気がする。

何だったのだろう。

誰だったのだろう。

ゾクッと、背中に寒気が走り、気づくと私は完全に目が覚め、頭も冴えていた。

島に着くまでに、思い出せるだろうか。

とても大切な事を、私は誰かに言われてる…。

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第6話に続く・・・・・・

Concrete
コメント怖い
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修行者様代理ご苦労様でした。
次回はmami様ですね。楽しみ楽しみ!

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