去年の暮れあたりだっただろうか、仏壇の掃除をしていた時のこと。
抽斗の整理をしていると、お寺関係の書類と一緒に封筒がひとつ紛れていた。
それとなく中を覗くと、L判サイズの写真が一枚入っている。
何故こんな所に一枚だけと不思議に思っていると背後で、「あっ!」と声が聞こえた。
振り向くと妻が苦い顔をして立っている。
「やだぁ、見ちゃったの?」
洗い物でもしていたのか、エプロンで手を拭いながら近寄る。
「なにか変なものが写っているでしょう?」
妻の一言に背筋が冷たくなった。
写真に顔を近づけ「ほら、ここ──」と指でさす。
私は妻と写真を交互に見やる。
「あなたが気にすると思って隠しといたのよ、ほら、仏壇の側に置いとけば、なんか守ってくれそうじゃない」
自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
そんな私を見て妻は、写真をひったくるように奪い抽斗に戻した。
「ほらぁ、気にしない、気にしない」
妻は努めて明るく振る舞っていた。
「し、しかし......これは──」
「はい、終わり。気持ち悪いからこの話はもうしないで」
妻は私の話を遮りそのまま、部屋を出ていってしまった。
夕飯を食べながら、やはり写真が気になる。見なければよかったと後悔するが、見てしまった以上話さなければいけないと思い口を開く。
「さっきの写真なんだけど──」
妻は黙って箸をテーブルに置き、真剣な顔で私に目をやる。
「もう、本当にやめて」と、妻。
長く一緒にいるからこそ分かるのだが、これ以上この話を続ければ機嫌が悪くなるのは必至だろう。
私は諦め、早く忘れるように努めた。
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写真を見つけてから数日が経過したが、やはり頭から離れない。
私は妻の不在時を狙って例の写真を恐る恐る取り出した。
やはり、──何も写ってはいない。
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それは、文字通り、何も写っていないのだ。まだ印刷される前の真っ白い写真。
この写真が妻の目にどう映っているのか、私はいまだ問いただせずにいる。
作者深山