中編4
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~ 一場春夢 ~

柔らかい日差しを浴びながら、私は新鮮な空気を身体中で吸い込む。

夏草は枯れ、その合間を通る風は冷たい。季節は、秋。

紅葉には未だ少し早く、かと言ってもう水遊びをする子供を見掛ける事のない季節。

田んぼの稲は刈り取られ、夏の間、その隙間や葉の裏を這いずっていた虫達も共に消えた。

本格的に寒くなる前に、そろそろ冬支度をしないと。。。

私はそんな事をぼんやりと考えていた。

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その時、すぐに近くにいた隣人が、空から降って来た黒い影に覆われた次の瞬間、空高く舞い上がって行く。

隠れる場所もない、空っぽの田んぼから、私は慌てて走って逃げる。

奴等は、突然襲って来るのだ。

私達をその足で掴み上げ、どんなに暴れた所で離してはくれない。

連れ去られた者達が何処へ行ったのか、どんな末路を送るのか。。。

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奴等に掴まったら、二度とここへは帰って来れない事だけは知っている。

イヤ。

研ぎ澄まされた木の枝に串刺しにされた者を、何回も見ている。

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生きながら身体は木に貼り付けにされ、悲鳴も上げず、ただ言葉も無くし、両手両足をバタつかせている。

それでも私達は助ける事が出来ない。

奴等がいつ舞い戻って来るかも分からず、見つからない様に木に登る事も不可能だからだ。

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”怪鳥”

まさしく、奴等はそう呼べる。

私の兄も弟も、妹達も奴等に捕まり消えた。

いつも一緒にいた兄妹達。

私にとってかけがえのない大切な者達。

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せめて、私だけでも奴等に捕まることなく生き延び、兄妹達の死を悼んでいたい。

共に生きた証しも、私まで消えてしまったら何も残らなくなる。

何処から奴等が来たのか?

いつから彼等に狙われる様になったのか?

それすら私は知らない。

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ある日突然、奴等はやって来た。

この空を奴等は飛び交い、狙った獲物を追い詰め拐う。

全身で暴れ、もがき、悲鳴を上げながら消えて行く仲間をどれ程見ているのだろう?

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吹く風の香りを嗅ぎ

空に煌めく星を数え

命の源である川で喉を潤し

私達はこの世界で、自然に逆らう事なく生きている。

例え短い一生が儚い夢だとしても、私達は自然の摂理に逆らう事なく生きている。

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ふと、足を止めた私の頭上に暗い影が落ちて来る。

見上げると、翼を大きく広げ、足を前のめりに突き出した奴が。。。

~ああ。。。私にも終わりが来たのか。。。~

そう思う間もなく、私の身体は鋭い爪に掴まれ、空高く上がって行った。

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~もうすぐ、あのキラキラ輝くお日様に届く。。。~

もしかしたら、兄妹達は、あの日の光の輪の中で私を待っているのかもしれない。

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~~~~~~

いつからこうして此処にいるのだろう。。。

私の身体は仰向けに空を見上げたまま、横を向く事も、動く事もなく、両手と両足を力なく垂らし、万遍なく陽の光を受けている。

お腹も空いた。。。

喉もひっ付きそうな程、カラカラに乾いた。

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だが、背中から腹にかけて貫通した尖った枝は、簡単に折れそうもなく、手足をバタつかせてみても、抜く事が出来ないでいる。

近くの枝には、仲間や仲間以外の者も串刺しで死んでいる。

中には尻と足だけになった者や、頭だけがない者もいる。

食い散らされた者達が私と同じ様に串刺しになっている。

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そろそろ、冬眠をしなくてはいけなかったのに。。。

私の身体が動けなくなる頃、ぶ~んと羽音を立て飛んで来た蝿が腹に止まった。

いつもなら舌を使い捕食するのだが、私にはもうそんな力がなく、食べる事も追い払う事も出来ずに、ただ腹に卵を産み付ける蝿を黙って見ている。

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奴等は、あれから何処かに消えた。

北風が強く吹き荒ぶ前に、奴等は何処かへ飛んで行ってしまった。

寒い冬を越し、私の子供達が元気に川を、田んぼを泳ぎ回る姿を見た様な気がして、私はそっと目を閉じた。

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~~~~~~

『おばあちゃん!こっちにも蛙が死んでるよ?』

幼い子供の手を引き歩く老婆は、曲がった腰に片手を添え、幼子に話す。

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『そりゃ、”百舌の早贄”だ。

冬になると北の方から百舌がやって来て南に向かって飛んで行くんじゃが。。。

欲張りで食いしん坊の百舌はなぁ~

手当たり次第、餌になる虫やら蛙やら蜥蜴やら獲っては、こうやって尖った枝に突き刺したまま忘れるんじゃよ。

まあ、最近はめっきり姿も見んじゃったが。。。

早贄があるって事は、この村にも百舌が来寄ったんじゃな。』

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『ふぅ~ん。。。』

幼子は枝の先端に突き刺さる蛙には既に興味を無くした様子で、老婆の手を引っ張り先を進んで行こうとする。

老婆は蛙を一瞥すると、空を見上げ、冬の日差しを受けながら、『はいはい。。。』幼子に引っ張られ、田んぼの畦道をゆっくり歩いて行った。

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