短編2
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短編①②

隠滅

事故物件を承知で借りた平屋アパートの一階。

今どき和室の畳敷きだが、駅から近いのが絶対条件だったので文句は言えない。

近所の人の話ではどうやら風呂場での事故だったらしい。さすがに初めのうちはシャワーを浴びるのにも抵抗があったが、一週間もすればだんだんなれてくる。

もともと俺には霊感なんてものはないし、何かいたとしても見えなけりゃなんの問題もない。

ただ、一つだけ気になる事がある。

真新しい畳の一部分にだんだん黒いシミのようなものが浮き上がってきた。それは明らかに日を追うごとに大きくなっていて、今では洗面器一つ分くらいの大きさにまで広がっている。

拭いてもムダで、昨日なんて友達が連れてきた犬がそのシミに向かって唸ったり、穴を掘るようにガリガリしたりと、いくら飼い主がなだめても無駄だった。

もしかしてだけど、いや、もしかしてなんだけど…風呂場ではなくこの部屋でどなたかが亡くなっているとか?お願いだから首を吊ったとか、床下に埋められてるとかは本当にやめてほしい。

正直真相は知りたいけれど、俺には畳をひっくり返すなんてそんな勇気はないから、こうなったら明日にでも絨毯を買ってきてぜんぶ隠してしまおう。

うん、それがいい。俺には霊感なんてないし、見えなけりゃ何の問題もないからな。

清掃作業

この季節になると、年に一度だけ町内の人たちと協力しあって一斉に草を刈ったり、溝の掃除なんかをする日が設けられる。

ちょうど先週の日曜日がその日で、朝から昼過ぎまで汗を流してきたんだけど、その中に毎年、知らない女性が一人混ざっている。

町内といっても集まってもせいぜい10人程度なので、みんな顔見知りのはずなのに、その女性は普段一度も見かけた事がない。

女性は朝の挨拶時にはいないのに、掃除が始まって少ししたらいつのまにか離れた場所で草を刈っている。だから、一度も間近で顔を見たことはないのだが、どなたかの奥さんだろうとあまり気に止めないでいた。

が、今日たまたま三件隣りの山田さん宅に用事がありお邪魔したのだが、通された和室に飾ってあった遺影を見てハッとした。

先週、清掃作業で見かけた女性に雰囲気がそっくりだったのだ。帰って妻に話すと、山田さんの奥さんは何年も前に病気で亡くなっていて、生前は子供もいなかったせいか旦那さんとは本当に仲の良いご夫婦だったらしい。

言われてみて初めて、そう言えば昔、山田さんの奥さんが重い病気を患っていると聞いた事を思い出した。でもまさか亡くなっていたとは知らなかった。

妻に山田さんの奥さんがどうしたの?と聞かれたけれど、仲良く草刈りをする山田さん夫婦をまた来年も見たいので、私が見た事は誰にも言わずに墓場まで持っていこうと思う。

Concrete
コメント怖い
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リング様、最高の褒め言葉をサンクスです!
はい、思いついたらまた来ます…ひひ…

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素晴らしい!
また読みたいです!

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ゴルゴム先生、今の僕の夢をひきこもりです。もう炒飯を作るのに疲れました…ひ…
厨房サウナだし…

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カイト様、読んでいただいてスペシャルさんくすです!これからも気がむいた時に短めのお話をちょいちょい書いていこうかと思っています…ひひ…

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