中編3
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艶事師

ホームに降り立った俺は、改札を抜けて寂れた繁華街に向かった。シャッターだらけのアーケード街の脇道に逸れると、地階に伸びるコンクリートの階段を降りていく。ところどころ油の浮かんだ水をたたえていて、それらを避けながら足を運んだ。

「Closed」

ドアに掛かった札を無視して、ドアをノックする。

ガチャリと解錠する音が響いて、お入りとしわがれた声が響いた。

中に入ると、初老の女がカウンターに腰を下ろしたところだった。隣の席を指されたが、「ここでいい」と伝えると、軽くうなずいてファイルをカウンターに置いた。

「この女を頼むよ」

興信所の作成したものらしい。標的のあらゆるデータが記されている。

「事情はそれを読めば察しが付くだろ。前金で五十、成功報酬は百五十でいいね?」

「結構だ」

「分かってるだろうけど、持ち逃げなんてしたら…」

「分かってる」

反社のお礼参りはごめんこうむる。

ぼんやりと酒棚の写真…若かりし頃の老中と、息子らしき青年が写っている…を見つめる老女を尻目に、札束をつかみ踵を返す。

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ドアをノックすると、解錠する音が響いて、若い女が中に招き入れる。部屋に入るなり抱き寄せると、女は少し笑って腕を絡めてきた。濃厚なキスに続いて、互いの服を剥ぎ取り貪るように求め合った。

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女は困惑していた。生まれたての我が子の顔は、どう見ても夫にも自分にも似ていない。生後半年になる頃には、ある男の面影を宿すようになった。

その男とは結婚前に別れていたし、婚前交渉もゴムとピルを併用して妊娠だけは避けていた。おまけに時期が完全にずれる。

それなのに、腫れぼったい目元やとがり気味の顎、赤ん坊とは思えないあの男にそっくりの目つき。あの男からは、楽しませてやった報酬に貯金を幾分か頂戴したんだっけ。向こうは若くて綺麗な私の体を、その代償に金を提供し合ったんだから、まあお互い様っしょ。

ある日、ベッドに横たわる我が子を前に、女は言った。

「こいつさ、何だか気味が悪いんだよね。昔の知り合いに似ててさ」

夫がたしなめようとした刹那、赤ん坊が口を開いた。

「お前は絶対許さないからな」

野太い声に、夫婦は凍り付いた。

それからしばらくして、女は赤子をベランダのコンクリートに叩きつけ、精神病院に収監された。

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俺は無精子症だ。

それを悲劇とは思わない。女とやるのは可能だし、単なる性欲処理なら見た目の良さもあって難しくない。もう一つ、俺の先祖は魂寄せを生業にしていたらしい。

今回のように込み入った依頼を受けて女を抱く場合、俺の能力と身体的欠陥がうまく噛み合ってとある目的を達成するのに役に立つ。避妊薬も避妊具も役に立たない。

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老女の店を訪ねると、とある事件の切り抜き記事と札束が放置されていた。札束を取り、代わりに青年の形見を置いた。降霊の依り代となったそれは、塗装のはげかけたアナログ時計だった。写真の中のそれはまだ光沢を保っていたように思う。酒棚の写真と共に消えた老女の行方は、俺も知らない。

Concrete
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