中編6
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ミツケテ

2020/08/23 4:30

一応自分の身に何かが起こった時のためと備忘録を兼ねて今までの経緯とこれからのことを記録しておこうと思う。

8/20

テニスサークルのみんなで山にキャンプに行った。

電車とバスを乗り継いで都内から5時間程度のところにあるキャンプ場で、先輩からはこのサークルができた当初から毎年使っている馴染みの施設だと聞いている。

キャンプといってもロッジを借りているので素人集団でも特に困るようなことも起こらなかった。

夕食の後スナックや乾物をつまみに酒を飲んでだべっていたらなんとなく怪談が始まった。

特に怖くもオチもないような話が続き副部長の番になった。

「これは10年ほど前に実際にこのキャンプ場付近の山であったことなんだが1人の女子大生が行方不明になった。

彼女は俺たちみたいにサークルの集まりで来たそうなんだが自由時間に少人数で散策していたところ登山コースらしき入口があるのを見つけて数名で登ったそうだ。

まともな装備も知識もなかったのと運の悪いことにその登山道はあまり人が使っていなかったために道もわかりにくく荒れていた。

そのせいで彼らは早々に帰り道がわからなく、まあ遭難してしまったらしい。

しかも日が暮れかかり疲れも溜まっている中を無理に進んだために1人の女性メンバーが遅れて着いてきていないことに前を歩く集団は気づかなかった。

彼らがふと立ち止まった時に初めて1人いないことに気がつきそこで待機していたが彼女が後ろから追いついてくることはなかった。

この集団は一晩山で過ごすことになったが翌日警察などの捜索により無事保護されることになった。

しかしはぐれてしまった女性はどれだけ探しても見つかることはなかった。そして捜索も打ち切られることになった。

ここからが怖い話なんだが、それ以来この周辺の山でたまにミツケテ ミツケテって女性の声が聞こえることがあるらしい。

どうやら今も彼女は自分の遺体を見つけてほしいと願っているみたいだな。

ちなみにこれマジだからな。俺の3つ上の先輩達も聞いたことがあるらしい。」

女子達はキャーとか言っているがこの時はまあよくあるほら話だなぁと思った。

8/21

二日酔いの体に鞭打って昼から川遊びをした。

すぐに疲れてしまい木陰で休んでいると背後からミツケテ ミツケテという女性の声がした。

昨日の副部長の話が急に思い出され恐怖で振り返るがそこは藪しかない。

夏なのにゾクリと背中が寒くなる。

しばし動けないでいると

「めっちゃビビってるー」と言いながらガサゴソと藪を掻き分け同期の女子のKが姿を見せた。

「いやまじふざけんなよ つーかビビってねえし」と強がるがバレバレのようだった。

これはしばらくいじられるやつだなとやや憂鬱になる。

その日の夕食後はベタだが肝試しとなった。

例年2年生が驚かせ役で1年が犠牲者とのこと。

くじでペアを決めたが何の因果かKとペアになってしまった。

「ビビりがパートナーだと苦労しそうねー」とカラカラと笑うK。

自分たちは3番目の出発だった。

肝試しのルールはキャンプ場から徒歩10分程度のところにある東屋に置いてあるノートに名前を書いて帰ってくるというとても単純なものであった。

スマホの灯りと先輩達が地面に置いてくれた電気ロウソクを頼りに歩き始める。

いわゆるオカルトは昔から好きでいろいろ読んでは来たが肝試しって意外に初めてだななどと考えながら歩いていると「ワっ!!」と叫びながら道の脇から何かが飛び出てきた。

少し焦ったが落ち着いて見ればハロウィンコスプレ的な風貌の先輩であった。

「先輩めっちゃ似合ってますよー」とKはまたカラカラと笑っていた。

半分くらいまできたころKとたわいもないおしゃべりをしながらも視線と神経はスマホで照らされる道に向ける。

するとKの歩いている側(自分から見て右)からまたミツケテ ミツケテと声がする。

また俺をビビらせようとしてるなとすぐに理解し、大声で「じゃあ見つけてやるよ!」と返した。

そして右を見ると誰もいない・・・

「何を見つけるの?」と声がするので後ろを振り返ると3mほど後方でKが靴紐を結ぶためにしゃがんでいた。

危ないから止まるなら言えよと文句を言ったが「いやー急に私が横からいなくなったらビビるかなーと思って」とカラカラと笑った。

その後は何もなく無事ノートに記名して復路を歩き始めた。

帰り道相変わらずKはなんてことないことを楽しそうに話しているが自分はさっきの声が今も耳にかかっているような気持ちの悪さを感じていた。

8/22

朝から片付けをしてキャンプ場から撤収する。

帰りの電車でうつらうつらしていると内容は思い出せないが悪夢で目覚める。汗をぐっしょりとかいていて気持ちが悪い。

サークルで保有してる道具を部室に戻して16時には解散となった。

先輩達はそのまま飲みに行くらしいが自分は疲れたので帰ることにした。

8/22 17:00?

一人暮らしの安アパートに帰宅。

そのままベッドに倒れ込み寝る。

8/23 2:15

むくりと起きて時計を見る。

変な時間に起きてしまった。

もう眠れないと判断して荷物の片付けを始める。

時々スマホの写真を見返してつい数日から数時間前のことなのに懐かしく思う。

そしてやっと荷物整理も終わりかけたとき静まりかえった部屋に

ミツケテ ミツケテ

と声が響いた。

上下左右どちらの方向からか見当もつかなかったが間違いなく肝試しで聞いたあの声だった。

呆然として立ち尽くしていると

ミツケテ ミツケテ 

ミツケテクレルノヨネ ミツケテクレルノヨネ

と声がますます大きくなっていく。

あまりの恐怖から逃げ出したいあまりに「見つけます!見つけますから!」と叫んだところ声が止んだ。

しかしその後も先程に比べれば小さい声だが断続的にあの声が聞こえる。

こういうときはやっぱり見つけてあげないといけないのだろうと腹を括る。

せっかく整理した荷物を再度詰め始める。声が弱まったような気がする。

始発の時間までこれまでのことをスマホのメモ帳に記録する。

8/23 5:30

概ね今までのことは書き終えたので詳細は電車の中で書くとして移動を開始する。

声は遠くに聞こえる。

8/23 9:30

この前来た時に乗ったバスが全然来ない。

声は少し強くなっている。

8/23 14:30

日曜日はバスのダイヤが違うことに気づかなかった。そのせいでキャンプ場到着が遅くなってしまった。

声は今も聞こえる。

8/23 15:00

肝試しのコースを歩いてみる。

8/23 15:05

声がコッチダヨ コッチダヨに変わった。

声の方向を見ると森の中 気をつけて中に入っていく。

15:15

時々声が足元を注意してくれながら誘導してくれるので思ったよりも安全にすいすい進めている

だが気づくとスマホは圏外になってしまっておりそこは不安を感じる

15:30

さっきから同じところをぐるぐる回っているような錯覚を覚える

似たような景色が続いている

疲れてきているが声は休ませてくれない

15:40

太陽はまだ高い位置にあるはずなのに森の中はだんだん暗くなってきている

足元が見えにくいが声が危険をあらかじめ教えてくれるから安心だ

15:50

やってしまった 声を盲信して進むと踏み出した先の地面が緩んでいたのか滑って斜面を3mほど落ちてしまった

足が痛くて動かせない わからんが折れてる?

声が聞こえなくなった

15:52

遠くから声が聞こえる 今までの女性の声ではなくすごく低い声

ただなんと言ってるかは聞き取れない

15:54

声が山の奥から近づいてきているようだ 笑ってる?

15:57

低い声はまるで嘲るように笑っている どんどん近づいてくる

マタヒトリオチタ マタヒトリオチタ マタヒトリオチタと言ってる?

15:5〒〒

もうらすぐそこからきこえるこえ めのまえ?

も時間ない? 諦めた スマホは上に投げる

たれかミツケテ

Concrete
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