ー風鈴ー
夏の風物詩であり、あの心地良い鈴の音色は暑さを和らげてくれる。
そんな風鈴は、ある地方で目的を異して使用されている。それはー
『魔除け』
知っている人は知っているだろう。
古くから現代に伝えられた物、者、モノ。それらの中には、当初の目的を曲げて伝えられたものが沢山ある。
風鈴もその一つだ。
冒頭で述べたように、風鈴は元々魔除けを目的として作られた。勿論、確定的なものでも無いし、私自身も古い記述や本を調べた訳でもない。
しかし、事実ある地方では今でも、涼に加え、盆を迎える際などに、先祖と共に悪しきモノが家に入らぬよう、縁側や入り口に風鈴を掛ける。
そして、もう一つ。これはあまり知られていないが、魔除けに纏わる話しだ。
魔除けには、大まかに分けて三つある。
先ずは、札や像などの物。そして地域的な場所。最後に、人だ。
魔除けとは文字通り、魔を除ける。つまり、退けることだ。怖話にもあるように、例えば特殊な札を持つことにより、霊的なモノの進行(侵入)を退ける事などが出来るだろう。
しかし、どうだろうか。霊的なモノに好かれる体質な人が居たとしよう。彼らは、その体質故に霊障に悩まされ、神社や寺、聖域といった場所に逃げ込もうとする。その一定の範囲内に、霊的なモノ達は侵入する事が出来ず、範囲外をウロつく事になる。
つまり、有名な所ほど、実は危険なのだ。そういった場所に逃げ込むのは、一人二人では無い。憑かれた人が持ち込む霊的なモノ達は、ほとんどが範囲外に退けられる。
そう、範囲外、その周囲は霊的なモノ達のオンパレードになるのだ。勿論、除霊されれば、何の問題も無いのかもしれない。しかし、多くは放置。さらに、逃げ込む人は、範囲内にいる為、除霊された錯覚に陥り範囲外に出てしまう。出てしまった時、さらにタチの悪い霊的なモノに憑かれる可能性が非常に高いと言えるだろう。
これらの大きく分けて二つの点。魔除けと風鈴の話しを頭の片隅に置いて、次の話しを読んで頂きたい。
先に、「×××さん 初呪文」を読まれる事をオススメします。
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ひと昔前の日本の、ある地方に纏わる話だ。
ある小さな田舎町に、鈴という名の若い人妻がいた。名前の読み方だが、人によって異なった。ある人が、鈴(すず)さんと呼べば、またある人は、を鈴(おすず)と呼んでいた。
大体の人が、そのどちらかの名で呼んでいたが、鈴の主人と親戚の一部はこう呼んでいた。
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を鈴(おれい)さん、と。
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そんな、を鈴の主人は、名を村鷹と言った。町の有力者の一人息子であったが、病弱であった。その為か、父親は遠い友人の子を引き取り、村鷹を捨て自らの義息子として育てた。
財を無くしたも同然の、哀れな村鷹と結ばれたのが、を鈴だった。
を鈴は元々、村鷹が幼少期に住んでいた屋敷に、使用人として十四歳から働いていた。村鷹が十一歳の頃だった。使用人と言えど、歳上にも関わらず精を尽くして自分に使えるを鈴に、村鷹は幼いながらも心惹かれていった。
村鷹が十七歳、を鈴が二十歳の時だった。村鷹の病気が悪化したのだ。そして、見兼ねた村鷹の父は、遠い友人の子を引き取り育て始めた。
ー父から捨てられた子ー
誰かが言葉を発した訳では無い。しかし、そのレッテルは鋭利な刃物の様に、幾度となく村鷹の心を突き刺した。
いつしか、村鷹はを鈴としか会話をしない様になり、気がつけば父との縁が切られ、町の一角の古い家に身を移された。
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を鈴もまた、村鷹について家主の父親を説得しようとして、嫌われ追い出された。
自然と、を鈴は村鷹に呼ばれ共に住む様になった。を鈴には、長く働いて貯めた金があった。
しかし、二人生きてくには、それでも不安が絶えない。そこで、を鈴が遠い町で賑わっていたガラス細工を購入し、村鷹が絵を描き売る事にした。
を鈴の選び購入したガラス細工も中々だったが、とりわけ村鷹の絵は類を見ない素晴らしいものだった。
何かを表現しているのだろうか、その絵は赤を主色とし、紫や黄色、白で着色をした美しく怪奇とも言えるモノに仕上がった。
を鈴は、その絵が好きだった。早速、町で売り出してみると、少しずつではあるが、買う人が増えていった。
ついには、ガラス細工が売られていた遠い町からも購入する人が出てくるようになったのだ。
困窮と、先の見えない不安な生活に、余裕が生まれ、改めて二人は互いを見る様になった。
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村鷹が二十一歳、を鈴が二十四歳の時だった。空には美しい白い大きな月が浮かんでいた。二人が初夜を迎える事になったのだ。これまでは、村鷹が病弱だったという事もあり、互いにそのような気にならない様に努めていた。
しかし、その日の夕方、村鷹は痩せた顔で弱々しくあったが、を鈴に言った。
「今夜、君が欲しい。僕の体調は大丈夫だから」
を鈴は、最初は躊躇っていたが、村鷹の優しそうな瞳の奥に光る、強い気持ちを悟って了承した。
夜、月が空高く昇った頃、二人は布団を挟んでお互いを見つめていた。
しかし、を鈴は時々目を伏せていた。それは決して恥じらいからではなかった。
を鈴が、細々と話し始めた。
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「村鷹さまに申し上げます。実はこのを鈴、今夜が始めてでは無いのでございます。いえ、決して初夜は恋した相手ではございません。そのような時間もありませんでしたからー」
を鈴は、話の途中から嗚咽混じりになり、目は潤んでいた。そんなを鈴の白く美しい手に、村鷹は自身の両手をそっと置いた。
「これを話せば、村鷹さまが私から離れてしまうのではと怖かったのです。村鷹さまが去ってしまえば、私は壊れてしまいます。しかし、どうか。どうか、私は告白を致しますから、去ってしまわぬようお願いし、ま…す」
「ああ、を鈴が何を言おうと、私の愛は変わらないし、去る訳もないよ」
村鷹の顔を見て、を鈴は小さく吐息を吐いてから、絞り出すように言った。
「私の、私の初夜は旦那様、つまり村鷹さまのお父様でございます」
村鷹の表情が、一瞬にして強張った。を鈴も、その表情を見て顔を歪めた。
「父に、本当に父に身体を預けたのか? 何で、何で父なんー、ごほっごほっ!」
村鷹が咳込み、息を荒げる。
「村鷹さま、大丈夫ですか?! すみません、すみません! この汚れた女を許して下さい!」
を鈴の瞳からは、涙が溢れ出していた。村鷹は、肩をワナワナと震わせて荒い息遣いで呼吸をしていたが、を鈴の涙声に気がつき、ハッとして顔を上げた。
「す、すまない、を鈴! 泣かないでおくれ。ありがとう、ありがとう。悪いのは君じゃないよ。今まで苦しかっただろう、告白してくれてありがとう」
二人は抱き合った。を鈴は、まだ涙で潤む目を閉じて村鷹に身体を預けるように。村鷹も目を閉じて、を鈴の身体を繊細な硝子細工に触れるように優しく、しかし精一杯力強く抱きしめていた。
何処かで、寺の鐘の音が鳴り、二人を包んだ。を鈴が、村鷹の体から引いた。村鷹も腕をゆっくりほどいて、を鈴を見つめた。
「村鷹さま、ありがとうございます。色々な事をお話ししなければなりません。旦那様との関係、私が使用人として買われた事。そして、私が使用人以外の目的で買われた事と、私自身の事を」
村鷹は小さく頷き、言った。
「いかなる事があっても、もう私は動じないよ。そして君から離れる事も無い。だから苦しいだろけど、話してくれないか?」
今度は、を鈴が頷き話し始めた。
その内容は、あまりに酷で、汚れており、怪奇な話だった。
村鷹は、何度耳を閉じようとしたか分からないほどだったが、を鈴の長年溜めていたモノを吐き出すような話し方に、一字一句ハッキリ聞いた。
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「つまり、簡単に言えば君は、我が一族への生贄だったのか?」
あまりの衝撃的な内容に、村鷹の目は虚ろになりかけていた。を鈴はただ、はい、と短く答えただけだった。
「そんな奇っ怪な話があるのか?呪われた私の一族の為に、君の一族が犠牲になるなんて! 考えただけでも滑稽だ!」
しかし、を鈴の目は笑っていなかった。
「それでも、滑稽に思える話でも、事実でこざいます。私の一族は、山中にある忌域を代々護っておりました」
村鷹が震える声で言った。
「それで私の先祖が、その忌域の神なる存在を殺し呪われ…。そして君の先祖が責任として呪いを和らげる為に犠牲になるなんて!」
を鈴は、ワナワナ震える村鷹を宥めてから再び話し始めた。
「ー」
脚注:1
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そして、を鈴は、町民に交じる村鷹の父と、村鷹の親族に向かって泣き叫んだ。
「あなた方のこの非道を決して許しません!村鷹さまが平安のウチにおられるなら、私は獄卒共と先祖達と地の底から呪うでしょう!あなた方が私を利用したのですから、私の番です!」
そう言って、なおも火の中で踊り狂う、村鷹に背を向けながら、一歩ずつ後退した。
そして、やっと我に返った町民達が、を鈴に走り寄った時には、を鈴は空高く燃える火柱の中で、村鷹に寄り添っていた。
それでも、火柱の中からは、村鷹の父達に向けて叫び声が上がり続けていた。
死ね死ね死ね、と。
村鷹の父は、その場で、近くの警官の持っていた拳銃を奪い、笑いながら自らの頭に銃口をつけて発砲した。
これ以降は不明ー
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shake
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。そして、該当する方、すみません。
ネタバレをさせて頂きます。
まず、この「を鈴さん」の六割は、私の作り話です(主に前半の会話部分や、細かい設定など)すみません!
この話を執筆するに至った経緯を簡単に説明させて頂きます。
事の始まりは、三週間位前に例のオカ研の友人からの一本の電話でした。
「面白い物を拾ったから来いよ」
ワクワクしながら友人のアパートに行くと、他にも友人達がいました。
俺が部屋にはいると、テーブルの上に一冊の汚れたノートがありました。表紙は勿論、ページを開かなくて紙が痛んでいることが分かりました。
友人の話によると、彼の大学の山岳部の友人から、山中に不気味な廃村を見つけたとの報告を受け、オカ研の連中で行ったそうです。場所は、秋田と青森の隣接した山中だそうです。
その廃村は、ほとんど苔の生い茂る地面と同化した家が数件と、蔵みたいな高い建物があったそうです。
そして、蔵の入り口の前に落ちていたのが、その大学ノートだったそうです。
大学ノートは、雨のせいか、ページが歪んてページ同士が貼りついていました。
ただ、書かれていた文体を見てみると決して古いものじゃなくて、古くても昭和辺りと推測しています。
読んでいくと、どうやら内容は写しのようでした。つまり、原文があるようです。(これも推測ですが)
内容を、頑張って簡単に書き出します。
要は、を鈴という女の人の呪いを手助けする為のノートみたいです。
書かれていたのは、を鈴と村鷹という人が、村鷹の父を始め、親族に裏切られたという事と、を鈴という人の特徴?でした。
を鈴さんは、村鷹の家系に伝わる呪い(話しにあった神殺し故の呪い)を、和らげる為に宮野一族に、使用人として引き取られたようです。しかし、この宮野剣尊という村鷹の父親は、自分の事業が成功するや否や、呪いが無くなったと思い、を鈴さんに伝えたそうです。それでもを鈴さんは、呪いはまだあると聞かなかったそうで、何故かそのまま剣尊に強姦されてしまったようです(理由は書かれてませんでした)。
その後、話しのように、村鷹と共に暮らしてたようですが、(この辺りからページが破れ破れで難読したので、以降俺自身の単語を繋げて読んで考えた推測)山神の呪いが町民に広がったそうで、を鈴さんが作っていたガラス細工を加工した風鈴を用いて除霊を開始したようです。
透明な風鈴は、除霊(成功したかどうか書いてない)する度に黒く染まっていき、真っ黒な風鈴が何十個も出来たそうです。
それで、何があったのか分かりませんが、風鈴が壊され(多分後半の文章から村鷹の父親が壊した)村鷹が狂って、壊した風鈴を燃やす火の中に飛び込んで死んだそうです。それで、を鈴さんも宮野一族を後世まで呪うと言い残して火の中に飛び込んだ…と、ここまでが長々と書かれていました。
ただ、ページの中間辺りで止まっていて、続きがあったと推測しています。
では、この話は何なのか。
つまり、宮野一族の子孫探しが真の目的ですね。原文の書かれた原本が伝わっていたようですが、大学ノートのは、その写しのようです。
読んだ人間で見分ける…どのようにか?
皆さん、「を鈴さん」←何て読みましたか?
おすずさん、ほとんどがそう読んだ筈です。
しかし「をれいさん」という特殊な読み方をした方、そして鳴る筈のない、風鈴が読んでいる途中に鳴った人こそが宮野一族の血を濃くも薄くも引いている人だと書いてありました。
初呪文も同様に、宮野一族の子孫なら少なからず関連する語です。
呪いがどのようなものか分かりませんが、気をつけて下さい。
いないことを祈りますが…
作者朽屋’s