憑かれた出張Ep1
とかく女というものは強いものである。
例えば旦那が見える人間だったとしてもそれを嫁に言った所で馬鹿にされるか呆れられるのが一般的だと思う。
例に漏れずウチの嫁もまさしくそうなのだが・・・・・
嫌、そうであった。
記憶には無いのだが私は物心付く前から見えていたようで母の話によると良く暗い部屋の中で壁に向かって誰かと話していたという。
小学校低学年の時には独り言が多かったり誰にも見えないモノが見えると言い張り気味悪がられ虐められたりもした。
小学4年生辺りから自分が特殊で自分の能力で見たり聞いたりすることは人を不愉快にすることを悟り喋らなくなった。
そして自分が霊媒体質であることを隠しながら生活をした。
いつしか私も結婚をして子供も授かった。
嫁には自分が霊媒体質であることを言わなかった。
言った所で変な目で見られるのがオチだからだ。
子供の頃の様に・・・・嫁にまで嫌われたくないというのが本音である。
ところが事態は嫁の一言で一変した。
「あんたさぁ~昨日私寝てから茶の間で誰と話してたの?」
「あとさぁ~たまに何も無い壁を目で追ってることあるけど虫でもいるの?」
どうしよう・・・・・
本当のことを言ったら嫌われる・・・・・
「目で追う」のは虫で誤魔化せるけど「茶の間での話し」は下手すると浮気を勘繰られてしまう。
「仕方ない・・・・」
私は意を決して重たい口を開いた。
・自分が霊媒体質であること
・たまに霊を連れて帰ってしまい皆が寝てから除霊をしていること
・我が家に用事がある訳ではないがたまたま霊が通ることがありついついソレを目で追ってしまうこと
などなど・・・・ひた隠ししてきたことが一言口火を切った瞬間から決壊したダムの水の様に溢れ出た。
嫌われることを覚悟した諦めモードから来るヤケクソである。
しかし嫁の反応は意外なモノだった。
どうやら昨晩の除霊に耳を澄ませていた様で・・・・
「やっぱりそういうことだったんだぁ」
始めは誰か女と電話でもしてるのかと思って黙って聞いていると何やら呪文の様な言葉を発したり「帰りなさい」とか「成仏しなさい」とかそんな感じの言葉が聞こえたので普通ではないと感じていたと・・・・
それと同時にとても怖かったのでこれは確認しなくてはと思ったらしい。
にわかに全てを信用している様ではなかったが「最悪の事態」は免れホッとしたのを覚えている。
そしてそれからは隠すこともせず霊が通れば「あ!今あそこに霊がいる」とか憑けて来てしまった時はその様に告げた。
嫁にしてみれば自分には見えないので言われれば怖いが半信半疑の様だった。
ある日の晩、ちょうど午前零時を過ぎた頃に私は目が覚めたそして嫁を起こし「ばあさん亡くなったわ」と伝えた。
兼ねてから入院中であった為、嫁もそんなに驚いてはいなかったが「どうしてそんなことが判るの?」と聞かれたので「近しい人が死ぬと線香の香りとリンの音がする」と伝えた。
その直後、付き添っていた嫁のお母さんから電話があり「ばあさん」が亡くなったことを知らされた。
嫁と仲の良かった叔母が亡くなった時もそうだった。
仲が良かったからか逢いに来て今ここにいることを伝えると嫁は「叔母さん叔母さん」と泣いていた。
ずっと嫌いだった自分の能力もたまには人の為になるのだと思った。
さすがにここまで来ると嫁も信じない訳にもいかず「旦那は特殊な人」という認識に変った様だった。
決定的な出来事もあった。
十数年前のこと・・・・
世の中はちょっとした心霊ブームだった。
今でこそ少なくなったが当時はシーズン到来と共にワイドショーやゴールデンタイムでは心霊特番が当たり前のように流れる時代であった。
ある日、家族で映画を見に出かけた。
忘れもしない「リング」である。
確か「死国」との二本立てだったと思う。
これは余談だが「死国」はある意味フィクションとノンフィクションが入り混じった話の内容だったので自分的には「リング」よりも面白かった。
「死国」を観ている時に嫁が聞いてきた。
「本当にこんなことあるの?」と・・・・・
私は答えに困ったが口で説明するよりも体験した方が手っ取り早いと思いあまりやってはいけないことをしてしまった。
「スクリーンの左横に非常口のランプあるしょ」「あそこ見てて」
私はそう言って嫁の首の後ろに手を当て念じた。
「あ!誰か見えた!女の人・・・・・」
嫁が言う。
遠い為かあまり恐怖を感じていなかった様だ。
次に2列前の空席を見る様言い首の後ろに手を当てた。
「ヒッ!!!」
さすがに今度はすぐそこでの出来事だったので怖かった様だ。
「本当にいるんだよ」
私が一言だけ言うと嫁は無言で大きく頷いた。
それからというもの・・・・・
何かが起きてしまった時は安心して嫁に連絡が出来るようになった。
今となっては怖がっていた嫁も当たり前のこととして受け入れてくれている。
つくづく女は強いと感じてしまう。
我が家の「玄関に塩なぁ」はそうやって始まりそして今に至っているのである。
作者andy