私は、怖い話やオカルト的な話を探す為に全国を旅する怖話ハンターだ。
実は、私は『怖話』だけでは無く…怖い物品、『怖物』なども探し、集めている。
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だが…
流石にコレだけは、怖ろし過ぎて受け取れないと思った物を紹介しよう…
それは、ある老父からの連絡を受け、取り敢えず伺います…と、見に行った時の話だ。
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内藤と名乗るその男は、だいぶ腰も曲がり、脚も悪く、耳元で話さなければ、声が聞こえないと言うほどのお年寄りだった。
その『怖物』は物置にあるらしく…
「ワシぁ腰も脚も悪いもんで…代わりに取りに行ってくれんか…」と、内藤氏宅に着くなり、言われた…
物置と言われたので、イナバ物置などをイメージしたが…
やはりこう来なくては…
土蔵造りのその建物は、築190年の蔵…
何とも、今回ばかりはワクワクする!
蔵の入り口は二重になっており、まず、重く観音開きの分厚い扉を開ける…
「っんしょおおっ!!っと…!ふぃ〜!重い…。」
そして木製の引き戸をあけて…
「ふんっ!あれ?建て付けがっ!!悪い…なっ!!…よいしょお!!っと!…ふんっ…っと…ふう…開いた…うわっ!…ごほっ!ぶほっ!…ひぇ〜。埃っぽい…」
手をパタパタしながら、中に入る…
まず目についたのが、鎧兜。
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箱などにいれないのか?
粗末に他の荷物の上にただ置かれていた…
そして、龍の置物。埃のかぶったガラスケースの中で転けている…
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「適当な爺さんだな、まったく…本当に大丈夫かな?そのお宝…」
内藤氏によると、日本人形の左脇にその『怖物』があると話していた…が…
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あった。
巻物?古ぼけた長細い木の箱が置かれていた。私は、そっと持ち上げ箱を開けようとした…
shake
「ちょっと待った!!」
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内藤氏が蔵の入口に手をかけ、立っている。
「なっ…何ですか?ビックリしたなぁ。でも、中身、見ないと分からないので…」
私が少し不機嫌に言うと、内藤氏はヨロヨロと蔵の中に入って来てこう言った…
「中身は掛軸さな…見なくとも、その箱に名(めい)が入っているだろぅ…?○川○斎の名が…」
聞いた事も無い名前だ…兎に角、中身が見たい。
私は、爺さんをほっといて箱を開けた…
「いかんっ!!!!!!!!」
……………
何かが起これば面白い話が出来るのだが、何の怪現象も無い…
取り敢えず、蔵の中では暗くてよく分からないので、私はそれを外に持って行った。
入口で内藤氏が扉に寄りかかり震えている…
「拝見します…宜しいですね?」
内藤氏は、うんともすんとも言わず、ただ震えるばかりである。
……………
紫色の紐を解き掛軸をゆっくり広げてゆく…
??
女性の顔が現れる…目つきが鋭いな…
シュルシュルっと…音を立て全体像が露わになる…
!!
幽霊画だ…
赤茶色い墨を使っているのか、薄く消えてしまいそうな色合い…
繊細なタッチで描かれたその絵は、とても美しく、まるで本物をモデルに描いたのではないかと思うほど不気味だ…
こちらをジッと見つめる幽霊の表情は見る者をゾクっとさせる…
素晴らしい。
私は絵に釘ずけになった。
欲しい!
是非とも欲しい!!
「内藤さん?これ、お幾らで譲って頂けますか?」
この作品ならば、幾らでも出す覚悟は既に出来ていた、この絵を見たその瞬間に。
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「……………」
なっ…!?無視をするとは…
私はもう一度大きな声で言った。
「あの?!幾らで!譲って頂けますか!!?」
すると、ようやく内藤氏は口を開いた…
「そ…そ、そんな物…た、た、た、ただでくれてや、や、やるわぃ…」
やっと絞り出すように内藤氏は話す。何かこの絵には曰くがありそうだ。
それを聞かず帰る訳にはいかない!
是非、聞いてかないと私のメンツに関わる!
「聞かせてもらえませんか?この絵に関わる話…」
私は内藤氏に向き直りユックリとした口調で聞いた…
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「は?」
耳に手をかざし、何ともマヌケな顔で聞き返して来た…
あ……
耳が遠いのか…。
…………………………
本宅に戻り話を聞いた…
何でも、江戸時代中期に描かれた物で、その作者は、幽霊画ばかりを描く絵師だったそうだ。
しかも、なんと…実際にその幽霊を見て描いていたとゆう逸話が残されていると言うからおもしろい。
「墨は使わない絵師なんだ…それは人間の血を使って描かれている…それに、筆も女性の髪の毛を使っていたそうだ…」
気味が悪い。
その絵師はイカレてる。
更に、内藤氏はこう語った。
「その絵師が描いた絵を持つ者には必ず、災いが訪れると言われとるんだ…ワシの周りにも色々あった…ある日、その絵を手に入れ、床の間に飾っておったんだ。すると、女房が突然、身体中を自らの手で掻き毟り…更に目玉をえぐり…首を吊って死によった…
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更には、娘までおかしくなりよった…自らの脚を鉈(なた)で切り落とした…何度も叩きつけたのか脚には無数の切り傷が残っとった…ワシはこの絵が災いと気が付き、直ぐに物置の奥にしまぅたんだが…災いは更に続いた…娘は自らの手の指を噛み切った…ワシが気づいた時には、全ての指を………血が出過ぎて……………手遅れじゃった…
お前さんが、どうでもその絵が欲しいならくれてやる、いや、もらってくれんか?」
その昔、○川○斎の絵は、見る事など以ての外…そこに描かれた霊が見た者に憑き、恨めしい相手を殺すと言われるほど怖れられた。
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恨みを持つ者が○斎に依頼をすると、彼はまず、その依頼主にある準備をさせた…家族、親類などの女性を一人殺し、髪の毛と血を取り、持って来いと言うものだった。その依頼主がそれらを持ってくると、彼は、それらを使いある儀式の様なものを行い、一気に描き上げたと言う…
そのさまは、何とも言えない怖ろしさであったそうな…
その絵は美しく、素晴らしい物だった。その為、依頼主がその絵を恨みを持つ相手に渡すと、たいそう喜ばれた…この後、災いが降りかかる事も知らずに……
………………………………………
「要りません。」
私は深々と頭を下げ、そそくさとその家を後にした…帰りに事故を起こし怪我をしたが、あの絵によるものかは定かでは無い…
作者退会会員