この話は実際に存在した、労咳患者収容施設を舞台にした、フィクションです。怖くはないかも知れないし、長いので暇な時にでも、お読み下さい。
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……………
その建物は六角形作りの塔があった為か、六角塔と呼ばれていた。
僕らがその場所に行ったのは、まだ大学に入学して間もない頃だ…孔明(ひろあき)が、地元出身の陽介に有名な心霊スポットを聞いたんだ…
その時の話に出たのが、『六角塔』と呼ばれる廃病院だった。
その昔、労咳、つまり結核を患っている患者などを収容していた施設だったそうで…
そこでは、かつて、かなりの数の人間が亡くなっており、なんでも、行けば必ずと言っていいほど怪現象が起こると言われている最凶の心霊スポットだ…
面白半分で出掛けて行って、怪現象に遭遇し…精神に異常をきたして入院をした者がいたほど危険な場所だ。
「マジかよ…ヤバイなそこ……」
孔明は、ふん…ふん…と相づちをしながら、暫(しばら)く腕組みをして考えこみ、突然、信じられない事を口にした。
「よし!…皆んなでさ…行ってみねえ?その六角塔って所。。」
……………
孔明(ひろあき)…この男はどうかしている。頭はピンク色でモヒカン刈りの様なヘンテコな髪型、擦れた革ジャンパーの背中にはペンキで髑髏(どくろ)の絵を描き、左耳には六つもピアスの穴を開けて、その全ての穴に太っといピアスをし、更に、眉上辺りにも銀色のピアスが光っている。
何時もホラー映画などを観ているからなのか、その度に怖い話をしているクレイジーサイコな奴だった。バンドなんかもやっていて、確か…サイコビリーなるジャンルの音楽をやっていた…誘われて、仕方なく僕も観に行ったが、僕には理解の出来ない音楽だった…
……………
そのイカれた提案に陽介がこう答えた。
「え?行くの?…うーん…まぁ、場所は知ってるし、行ってみたいなぁ…とも思ってたし…じゃあ、行ってみるか!」などとこれまた、信じられない事を吐かしやがる…
……………
陽介(ようすけ)…こいつは、若干の天然で、まず…人の話を聞かない。
そのせいで、突拍子のない発言で会話を乱す事がよくあるのだ、その名も『会話クラッシャー』
…容姿はそれなりにハンサムで今風に言えばイケメン…髪を何時もいじっているその仕草に何時も僕はイラつきをおぼえるが、悪い奴では無いので、何時も僕らは行動を共にしていた…
……………
何故か僕まで着いて行く事になり、(まぁ、強面(こわもて)の孔明が恐いってのもあり)三人でいざ六角塔へ…
場所を知っている事、車を持っているのは陽介だけだったって事もあり、陽介の車で行く事になった。
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○嶺峠から脇道に入り、徐々に恐怖の『六角塔』に近づくにつれ、キリキリと緊張が増していく…と言いたいとこだが1人やかましい男がいるので、何だかコレから遊園地にでも皆で行こうとしているかの様な気分で、正直その時は僕も楽しかった。
「ここだよ。」
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陽介が、あまりに長い道のりに疲れ…少し眠りに落ちていた僕と、異常にテンションが高い孔明に告げる…
(着いてしまった…)
陽介の話の通り、一つ高い塔が立っている。
建物の周りには雑草が生い茂り、現在この場所には誰もいない事、使われていない事を物語っている…
「入口っつか、入れる場所探すべ!」
孔明が僕らにまんべんの笑顔で言う…
この男は今、僕がどれだけ心臓がはち切れそうなほど鼓動しているかなど、どうでもいいのだろう…
建物をぐるりと見て回る…が入れそうな入口など見つからない…僕はこのまま、見つからなければいいのにと心で願った。
しかし、僕の願いを打ち破るセリフを陽介が吐く
「なあ?窓とかならあいてるかもよ…」
その通り!!あいている場所が一箇所だけあったのだ。僕はそれを見つけていたが、黙っていた。
(くそ!なんて事をいう奴だ!この男は!)
結局、その窓を見つけられてしまい、そこから中へ…
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廊下は、あまり長くは無く一つの階に四部屋ずつの小さな病院らしい…三階に分かれており、一階から順に見て回る…
はじめの部屋>>
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まさかベッドがそのまま残ってるなんて思いもしなかった…
窓から月の光が差し込んでいる、だからかもしれない…あんな物を見てしまったのは…
ベッドには勿論…布団は無い、剥き出しの状態なのだが、その恐らく患者の頭があったであろう部分に、血の様なシミが…
(ぐわ…最悪だ…)
このベッドで寝かされていた患者が、咳き込み血を吐いている光景が想像されて、僕はもう吐き気すらしていた…
「うわ…これ血の跡だべ?布団とか使ってなかったんかな?…だってこれ布団の下だろ?普通なら…」
孔明が陽介に聞いているのか、僕に聞いているのか判断出来ない感じで、ベッドを見つめながら口にする…
「ねえ、これなに?ベッドの下に落ちてるやつ…」
相変わらず、人の話を聞いていない陽介がベッドの下に何かを見つけたのか、指をさす…
布の端(はし)?…薄汚れた布がちょっとだけ見えている…
この後、孔明の発言に、僕は彼に殺意を覚える事になる…
「おい!聡(僕の名前>>さとし)!お前ちょっと引っ張り出してみろよ?」
まったく…こういう時ばかり僕を利用しやがって!……………かと言って断れない僕の情けなさったらまったく嫌になる…
「うわ…何だこれ…」
布団のシーツの様な大きさの布には焦げたように黒々とシミが着いている…何と無くシミの形が人の形に見え、不気味だった…
「げぇ…気持ち悪ぃ…聡!その手で俺に触るなよ!」
クソ孔明…お前が僕に引っ張り出させたんだろ!
と心の中で呟きながら…その布をまたベッドの下に蹴り入れた…
逃げる様にその病室を後にして、次の病室へ…
この部屋には特に何も無く、つまらないな…などと話しながら部屋を出ようとした…
期待を裏切らないのが、恐怖の廃病棟、『六角塔』である………………僕は見てしまった…部屋の角(かど)に何かが居るのを…
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それは一切、動く事無く僕を見つめている…孔明が部屋から出て次に陽介も出ようとした時に、僕が一点を見つめ、固まっている事に気がついてくれた。
「どした?行こうぜ…この部屋には何もねえし…」
僕にそう言って薄情にも行ってしまう…待って!この言葉が何故か言えない…それに金縛り?身体が動かせない…
陽介が部屋から出る…僕も後に続きたいのに、全く足が動かない…いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!
角に立つソレはまだ僕を見つめている…
しかし、けして動かないでただひたすら僕を見ているだけだった…
くそ!だから嫌だったんだ!こんなとこ来るのは。
僕は昔から『見える』タイプだった、街を歩いている時もスクランブル交差点の真ん中にずっと動かず立っている子供の霊とか、ゲームセンターでUFOキャッチャーの前でジイっとゲーム機の中を見つめている女性の霊とか他にも挙げたらキリが無い…
「何してんだよ!!早く来いよバカ!」
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僕を救ってくれたのは、孔明だった。
その怒鳴り声の後直ぐに僕の身体は自由になり、あの角に立つ人影も消えていた…
「ゴメン…」
僕は急いで部屋を出て、今見てしまった経緯を説明し、もう帰りたい旨を二人に伝えるが、
孔明の「黙れ」の一言で僕の願いは見事に、一蹴されてしまうのだった…
次の部屋に行こうとした…だが、その二つの部屋は医務室だったのか扉があり、鍵もかかっていて、中には入れず、仕方なく二階に向かう事にした。
階段の踊り場には窓があり半月がぽっかりと顔を覗かせている…
ベンチが置いてあり、そこには是非とも消えて欲しい者の姿がまた見える…俯き、膝に肘をのせ、じっと下を見ている…孔明の笑い声に気がつくとソレは、ふっ…と消えてくれた。
クソ孔明…それなりに頼りになるじゃないか…やな奴だけど…
だが、その頼りの孔明は二階に着くなり、不思議な行動をし始めた…
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指を舐めながら…いや、吸いながらと言った方が正確だろう…
「僕、お母さんにもう会えないかも知れないな…」
彼の口調でないことは明らかで、僕と陽介が顔を見合わせ、首を傾げていると、突然…
孔明は、ダッ!と走りだし廊下の一番奥にあった窓に飛び込んで、まるで嘘みたいに頭から真っ逆さまに、ニヤァ…と僕らに笑顔を見せながら落ちて行ってしまった…何故かその時の光景はスローモーションに時が流れていた様な感覚で、あの時の孔明が見せたあの不気味にも取れる笑顔が頭にネットリと焼き付いている…
パニックだった…
その時、起こっている事を理解するまで三分は、かかったと思う…
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気がつくと僕らは走り出していた。
自分の身体能力がこんなにも高かったのかと驚くほどのスピードで階段を駆け下りる!
いや、飛び降りる様な殆ど二歩くらいで14段の階段を2つ計28段を駆け下りた!
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途中踊り場のベンチの前で転けた陽介も必死になってついて来ていた…二人とも泣いてたと思う…
(さっきの窓!さっきの窓は!?ちょっと!内側からだと、どれがさっきの窓か分からない!)
陽介が…
「こっち!!!!」
と僕を呼ぶ!!急いで窓から外に出て、車の方に行こうとすると、陽介に呼び止められた!
「おい!聡!孔明君あのままにして帰れないだろ!!」
確かに、友人を置いて帰るなんて最低だ…
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孔明が落ちたと思われる場所に行く…
陽介はさっき、走っている時に懐中電灯を落としてしまったようだった…でも、僕の照らす明かりだけでも、月明かりがある為か別に周りが把握出来ない事も無かった。月を見上げる…
……………
あれ?さっき半月じゃ無かったかな?
まん丸とどこも欠ける事のない満月がぼんやりとした光を放っている…
……………
「確かこの辺りだったよな?」
陽介が後ろからボソりと、聞いてきた…
だが、鬱蒼と茂る草が邪魔で孔明が見つからない…
建物を見上げさっき孔明が飛び込んだ窓を確認する…
あれ…?ちょっ…嘘だろ…
窓の内側から孔明がこちらを見下ろしている…
悪い冗談だ!あの野郎…僕らにドッキリを仕掛けやがった!しかし、ちょっとやり過ぎだ!怪我でもしたらどうするつもりか!!
「酷いよ!孔明君!僕らめっちゃビビったんだよ⁉」
その声に、必死に孔明を探していた陽介もさっきの窓を見上げる。
「な、なに言ってるの?聡…孔明君?中にいたの?」
今も僕らを見下ろしている孔明の姿が陽介には見えないはずが無い…
目が悪いわけでも無いのに、不思議な事を言う奴だな…と、僕が陽介を見やる…
ん?
陽介の後方にあの高い塔が見える…
その塔の先端から煙が上がり月にかかっている…
「ねえ…陽介…?あの塔って煙突なの?」
その質問に窓を見上げていた陽介が、僕に向き直り…
「え?あ、うん…確か、火葬とかに使っていたってのを聞いた事があるよ…それがどうしたの?」
と、僕の目線に気がつき後ろの塔を見上げた…
「は?煙?なんで……」
すると、僕の背中にゾクっと寒気が走り、後ろから声が聞こえた…
「また…ひとり…しんだ…あしたは…ぼくだ…」
もう帰りたい…こんなとこにこなければ良かったと思うほど、怖ろしい声…人間では無い、それにさっき見た霊などでも無い…地縛霊という霊の事を知っているだろうか…未練を残しその場でいつまでも漂い続ける者。
最初に見た霊も、踊り場で見た霊もどちらも地縛霊である事は確かであった…
だが、こいつは…比べものにならない…
膝がガタガタ震える…
冷や汗がジワぁと全身から噴き出し
今にも吐いてしまいそうなくらい、胃袋を恐怖が締め付ける…
「孔明…君…中にいたから…さ…む、む、迎えに行こ…陽介…」
言葉がやっと出る…
その言葉に反応して陽介が振り返ろうとした。
「こっちみちゃダメ!!」
僕が必死に声を上げるも…陽介は振り返ってしまう…
shake
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「うわああああ!!!!!!!!!だざぎゃつてぐであああ!!!!!!!!」
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陽介は悲鳴と言葉にならない事を叫びながら、その場にヘタァっと腰を落とし、両の手を前に出して、来ないでくれえ!と言わんばかりに仰け反った…
僕は一切振り返る事が出来ず、固まって…しかし
、兎に角、今、どうすべきかを必死に考えた…
その時…
shake
冷んやりとしたものが僕の手に触る…
僕はガチガチと歯を鳴らし、怖る怖るそれを見てしまう…
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声が出ない…
もう吐き気すら引っ込んでしまい、息も出来ない…
ただひたすら、頭の中で…いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ…
と、繰り返し続けた。このまま僕らも連れていかれてしまう…そんな予感がしたからだ…
そんな時だ!
shake
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「こぉらぁあ!お前らこんなトコでなにしてるか⁉」
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music:4
中年風の声が、まるで子供のイタズラを叱るようにする。
ザクッザクッと足音が近づいて来る…
……………
あれ?人?…知らないおじさんが、孔明の腕を持ち僕らに近づいて来た。
「ここは、人の所有する場所なんだぞ!お前ら、ガキじゃあるまいし、そんな事もわからんのか⁉馬鹿たれが!さっさと帰らんか!!!」
た、助かった…のか…?
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僕らは田中と名乗るおじさんに、深々と頭を下げ、ウチに帰った…
……………
僕は、帰りの車の中で、あの時、孔明の姿が窓の内側に見えたという事を孔明に話した。
しかし、彼は…
「は?何だそりゃ…俺…気づいたら、外の草の上に落ちてたぜ?そしたら、あのオッさんが、こぅらああ!って来て…」
と建物内には居なかったと話した…
じゃあ、僕が見たあの孔明は何だったのか…
しかし、気味が悪かったので、それ以上考えるのはやめた。
煙突の煙はおじさんがウチから持ってきたゴミを燃やしていたとの事。最近は、焚き火やなんかも禁止されているから、内緒でココで焼いているそうだ…
不法侵入の件はその事を黙っていてくれたら許してくれるらしい…
でも、本当、孔明が擦り傷だけで済んだのが何よりだった………………
今では、あの建物も取り壊され、最凶とうたわれた『六角塔』の存在は知る人ぞ知る都市伝説となっている。
作者退会会員
今も周辺には怪しいモノが彷徨っているとか…居ないとか…