落語風にお送りいたします。
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人というのは…怖い話や怖ろしい絵や品物を…
…怖いもの見たさと言うんでしょうか…勿論、皆様の様に好きな方もおりますし、だからこそ、こういった怪談もあるのですが…
中には、嫌なのに、何故か見てしまう…怖いのに、何故か覗いてしまう…そういった方もいて、なんとも不思議なものです…
……………
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ある、お長屋に久兵衛さんとゆう、屑屋を営む男がおりましてな…この男、大の酒好きで、仕事で作った金は、みな酒に使ってしまうってぇほどの酒好きだったそうで…
まぁ…その日も仕事が終わり、いつものように呑み屋に参りました。
「こんちは…えへへ、女将さん、今日も一杯頼むよ……」
「また、来たのかい!?久さん。
お前さん…いい加減にしないと、お嫁さんに逃げられっちまうよ?まったく…。」
「そいつぁ…言いっこなしですぜ、女将さん。オイラ、毎日一生懸命働いてるんだ、女房にゃあ、とやかく言わせやしませんよ…
さぁ!酒くだせえな!」
「まぁ、ウチとしては商売だからね…かまやしないけどさ…」
とまあ、この有様で…今日も好きな酒をひっかけて居りました。
するってえと、丁度その時に居合わせた、お武家様と思しきお方が、久兵衛さんに話しかけて参りました。
「そなた、屑屋か?」
「へ?あ、へい。そうでございますが…」
「拙者、山本 左衛門尉と申す。実はそなたにある品物を買って貰いたいのだが…どうか?」
「え?あぁ…いやぁ…お武家様の頼みではございますんですが、何分…アッシらの様な商売は檀家ってぇもんがございましてな…ですんで、檀家以外の方から物を買い取るってぇのは規則を破る事になりますんで…。そいつぁ…どうか…」
「そこを、何とかならぬか?」
「いやぁ、申し訳ねぇっすが……。あっしも今は仕事を終えたばかりでございますし…許してくださいな…ね?」
「そうか、では…こうしよう、そなたにこの店一番の酒をご馳走しよう。その代わりにこの品物を受け取って貰いたい…なに、高く売りつけるとは言わん、一文で売ろう。悪くはないだろう?どうだ?」
「え?酒を?しかも、この店一番の酒?…へへへ…そう言われたら、流石の久さんも黙っちゃあ居られねえや!よっしゃ!買いましょう!……で?そのお品物ってえのは?」
「おおぉ、そうか、良かった…えとな、よっ…とっ…これだ、あー…だがな、ここでは風呂敷は解かないで貰いたい…何分、人目もあるのでな…」
「へ?人に見られちゃぁマズイお品モンで?」
「ん?いや、中身は…そのぉ…ある壺だ…大した物ではないが、売れば、四両には、なるであろう…」
「ひゃあ!…お武家様ぁ、太っ腹でござんすなぁ…そんなお品物を、たったの一文でお売りになさるたぁ、中々、出来るもんじゃござんせん…しかも、酒までご馳走してくださるたぁ!へへへ…ありがとうござんす。」
………………
その風呂敷に包まれた壺…久兵衛さんは中身も確認しないで、買取っちまったぁ…
…そして、いつものように、しこたま呑んで家に帰ったわけで…
「帰ったぞぉお!ひゃあははは!千代!久兵衛様のお帰りだぞぉぉ!」
「お前さん…また呑んで来たのかい?しかもこんなに酔っ払って…嫌だねえもう…」
「馬鹿野郎!俺様がいくら酒を飲もうが勝手だろう…へへへ…」
「まったく困った人だねぇ…さぁ…荷を下ろしなよ…ん?なんだい…今日はえらく荷が重いね…」
「おう!そうよ…壺が入ってるからなぁ…ここまで担いで来るのには、骨が折れた…うにゃははは!だけどな…こいつぁ売れば四両にはなるお品モンだぞぉ!どうだ?!参ったか!ハハハ!」
「まぁ!そうなのかい?凄いじゃないか!で?どんな壺なんだい?あたしにも、見せておくれよ?」
「ん?いや、そいつぁ…ならねぇ!誰にも見せたらならねえと、言われてんだ!」
「は?あんた!それじゃ…一文にもならないじゃないか!まさか、騙されたんじゃないだろうねぇ?」
「馬鹿だなぁ…おめえは…こいつはなぁ、あるお武家様からいただいた、たいへんな品物なんだ…そのお方の話じゃよ!こいつをある、寺に持って行けってぇ言われてな…で、其処の住職が…コレを四両で買取ってくれるってぇ話しよ…
ほれ…書状も入ってるだろ?」
「大丈夫なんだろうねぇ…」
「アタ坊よ!…なんだ?おめえ…この久さんが信じられないってぇのか!?」
「いや…まぁ…あんたは、あたしの亭主だからねぇ…信じるしか無いだろ?」
「流石はオイラの女房だ!ハハハハハハ!!」
……………
で、翌朝、久兵衛さんは山本 左衛門尉なる侍に言われた通り、言われた寺にそのお品を持って行く事になったわけで…
江戸の町よりかなり離れた所にその寺はあったってんで、まるでほとんど、一人旅の様だったが、なぁに…四両ってぇ大金になるんだ気にはならなかったそうで…
「ほんじゃ、お千代!行ってくらぁ!」
「お前さん…気をつけて行って来ておくれよ?壺、落として割ったなんてことになったら、あたしゃ…」
「馬鹿!縁起でもねぇ事言うねぇ!…大丈夫でぇ!オイラに任しとけってんだ!」
……………
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鼻歌交じりで向かう久兵衛さん…
まぁ…当然この男、途中、休憩で茶屋に寄る…
で、お察しの通り…酒を呑まずにゃ居られない…
性分ってもんでござんしょうなぁ…
呑んじゃう。
だけどね…
酒は好きだが、めっぽう弱い…
たったの数杯でベロンベロン。
さあ出かけようってんで、フラフラっと荷物を担ぎ、立ち上がったが…始末が悪い。
コテンッ!と転けっちまう!
「痛!…おお…痛ぇぇ!ちくしょうめ!
…ん?あっ!!いけねぇ!」
急いで荷物を下ろし壺を見る!
「割れてら…」
まったく…予想どうりの展開。
まぁ…ここからが、この話、怪談話の始まりでございます。
……………
「いけねぇ…どうしよう…ちくしょう!オイラとしたこたが…し、仕方ねえ…米ノリで繋ぎ直して持ってくか…」
と、風呂敷を開け…砕けた破片を集め、握り飯の米をノリがわりにその壺を直す…
直しに関しちゃ、お手の物…道具屋の倅だった久さんだ…何とか形にする。
「何でぇ…きたねぇ壺だなぁ…本当に四両もするのかね?よ…っと…」
「へへへ…まぁ、こんなもんだろ…だけど、これじゃ、もしかしたら、値が落ちちまうかもしれねぇな…グスン」
だが、自分の不始末だ仕方ねぇとそれを持って向かうことに…するってえと…
「ん?何だこりゃ…お札?何でこんなもん貼ってあんだ?ちぇっ!気味が悪い…」
と、お札をヒョイっと捨て、また歩き出す…
……………
何だか様子がおかしいことに気がついたのは、その日の夜だった…
宿屋に着き部屋に通されて、荷を下ろす…
昼酒を呑んで壺を割っちまった事で、流石の久兵衛さんも反省したのか、その日の夜は酒は控えめにして、直ぐに寝ちまった…
(ぐ……る……じ……い……)
夜中、不気味な声が聞こえ目が覚める…
「何でぇ?誰だぁ?」
(ぐ…る…じ…い…)
「あ?…オイラぁ疲れてるんだ…静かにしてくれや…」
(ぐるじい!!)
「何だってんだ!ちくしょうめ!疲れてるって言ってんだろうが!」
と、辺りを見回す…
人の気配が無い…今夜は月夜。部屋の様子は見える…が…誰も居ない…何だか気味が悪くなり久兵衛さん、布団を頭まで被って丸まった…
「苦しい…」
今度はハッキリとまるで耳元で話すかのように聞こえる!
「なんだ?やめてくれ!オイラぁ…こういうのぁ…苦手なんだ!!」と、目と耳を塞ぐ。
しかし…
「くぅぅるぅぅしぃぃいぃぃぃ!」
ひゃあ!
shake
と、布団を掴みまるでダンゴムシの様に丸くなる!しかし、まだ、聞こえる…
「左衛門様ぁぁ!?」
するってぇとそれは、信じられない事に、布団の外から聞こえる声じゃない!?
恐る恐る、ガッチリ瞑っていた目を開く…
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shake
「ぎゃああああ!」
恐ろしくなって布団から飛び出して、明かりをつけた!
しかし、なぁんも居ない…
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夢か?幻でも見たんか?と、また布団に潜り眠りについた…
その夜はそれっきり何もなかった…
翌朝、また荷物を担ぎ、旅に出る…
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昨夜のことが頭から離れない…
怖ろしい夢などガキの頃以来、久々に見たもんだから、嫌な予感を感じながら、ただひたすら歩いた…
「なに…ただの夢さ…」
と、自分に言い聞かせた。
山本 左衛門尉に言われた寺まで行くのには、歩いて四日は掛かる。
詰所も幾つか通らなければならない。
荷物の改(あらため)などもしているため、久兵衛さんは裏の山路を通ることにした。
誰にも見せたらならねえ…そう言われていたからだったが、そういえば…
久兵衛さんは、ある事を思い出した…あのお札…気味が悪いと捨てちまった…あのお札…
もしかして、昨夜見たあの夢は…
「いかんいかん、オイラとした事が…何を馬鹿な…」
夕刻になり…宿を見つけ、部屋に通されて、荷を下ろす…
今夜は、昨日みたいな事があったら、シャレにならねぇ…と気晴らしに酒を呑んだ…
酔いつぶれて眠る…
ふと…目が覚める。
「厠(かわや:トイレの事)ぁ行きてくなっちまったなぁ…」
だが、昨日の事を思い出しちまった…
チラリと風呂敷に包まれた壺を見やる…だけんど、特に異変はない…
でも、何だか気になる…
風呂敷を広げ壺の蓋をそっと開けようとしたその時!
壺の口から何やら聞こえる…
(くるしい…)
「うっ!」
(くるしい…)
またもや、今夜もおかしな夢を見てるのかと…頬をつねるが痛いだけ…ブルブルと背筋が凍る思いになり…飛び出すように厠に行く事にした…
「な、何だってんだ?気持ちが悪い!」
今夜もいい天気で月が夜を明るく照らしている…
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するってえと…何か変な音が聞こえる…
厠の扉を何かが触れる様な音。
(ガタっ…ズリっ…)「あ…け…て…」
怖ろしい事に声まで聞こえ、久兵衛さん、慌てて厠を飛び出して、布団に潜り込んだ!
声がまたもや聞こえる…
「左衛門様?左衛門様?どうか…私の話を…聞いておくんなまし…苦しいのでございます…どうか…お見捨てにならないで…」
「知らん!オイラぁ左衛門じゃねぇ!久兵衛だ!助けてくれぇえええ!」
「嘘をついてまで、お菊をお嫌いになったのですか?酷い…酷い…酷い…酷い…酷い!!!!!」
「ひいぃぃぃ!!」
耳を塞いでも、ハッキリと聞こえるその声は、一晩中続き、流石に久兵衛さんも疲れ果てた…
「ちくしょう!あの侍…とんでもねえ物、売りつけやがって!今度あったら、ただじゃおかねぇ…」
しかし、金になる仕事を、このまま捨て置くわけにもいかず…久兵衛さんはまた、寺に向かう事にした訳でございますが…
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「しっかし…重てぇな…最初よりか、何だか倍以上、重く感じやがる…何だってんだ?ちくしょう!」
寺まではまだ、一日はかかる…
しかも、詰所を避けて山路を歩いて居たためか、疲れがかなり溜まっておったそうな…
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「クソ!もう…暗くなってきやがった…仕方ない…今日はあそこにある御堂に泊まるか…」
山路の一角に小さいが御堂が見えてきたので、今夜の宿はそこにする事にしたわけで…
中に入ると、まぁ…それなりに一人なら狭くは無く、取り敢えず荷を下ろし、寝転んだ…
辺りはもう、すでに真っ暗で先など全く見えない…
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「今日は出ないでくれよ…潜り込みたい布団も無いんでぇ…頼むよ…ほんと…」
などと、言いながら…疲れていたのか直ぐに眠っちまったぁ…
(起きて下さいな…左衛門様…起きて…)
shake
「(うっ!?また出やがった…か?)」
(左衛門様…なぜです?お菊を…なぜ?…………………………なぜです?)
「(は?何言ってんだ?)」
チラリと辺りを見わたす…
暗すぎて、なぁんにも見えやしない…
(なぜです?なぜなんです?)
久兵衛さん、何が何だか分からない…そりゃそうだ…左衛門様ってえのは、恐らくあの侍の事だ…
「な、何言ってんだか、オイラにゃさっぱりだ…」
(ひどい!あなた様は……………………………………………………………………わたくしを殺したくせに!!!!!!!!!!!!!!!)
shake
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「ぎゃあ!!!!!」
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久兵衛さんは御堂を飛び出して、兎に角、走り、逃げた…
「ひゃああ!た、助けてくれぇええ!」
暗い山路を駆け下り、何度も転びながら、ひと気の有る場所を探した!
するってえと…ボンヤリだが明かりが見える…
「ぁぁ!助かった!うわぁあ!」
と、そこに向かうが…
いくら走っても、明かりは遠ざかるばかり…
「どうなってやがるってんだ!ちくしょう!」
(お待ちよ…左衛門様ぁぁ…)
「ひいぃぃぃ!」
明かりは遠ざかるばかりだが、そいつは近づくばかり!しかも、また転ぶ!膝を強く打ち立てない…
流石に久兵衛さんも疲れ果てて…気を失っちまった…
…………………………
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気がつくと、辺りに木漏れ日が差し込んでいる…
「(助かった?)」
何故かさほど、御堂から離れておらず、御堂の横にはゴロリとあの壺が転がっている…
(ガタタンッ!)
と、御堂の扉を叩く音がする…
怖くて恐ろしくて…でもなんだか、気になる…どんな奴なんだと見てみたい…恐怖よりも好奇心が勝って
とうとう、久兵衛さん御堂の扉を開けっちまう!
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「ぎゃあああああああ!!!!!」
そこには、見た事もない化け物が立っていたってんで、久兵衛さんは腰を抜かして、その場にひっくり返っちまった!
目玉がデカくって…口が馬鹿デカくって、ギザギザの歯が生えている…
身体は、ガリガリに痩せていて、手足が長く…辺り構わず腕をブンブン振り回して血まみれになっていやがったってんで、それはそれは、気味が悪かった…
そいつは何度も繰り返し叫ぶ!
「左衛門様ぁぁ!菊を殺した左衛門様ぁぁ!!!!!!許しておくべきか!!!!!許しておくべきか!!!!!」
「ひゃああああ!!!助けてくれぇええ!!!!!!!!!!!!!!!!」
作者退会会員
あくまで落語風ですので、オチは無いです。ゴメンなさい。