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渦芥の森(うずけのもり)

中編5
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渦芥の森(うずけのもり)

 

 

私の同僚のMさんという方が体験したお話です。(実名を伏せております。)

Mさんは5月の連休を利用して、実家の○○県E町に帰省していました。E町はとても静かな田舎町で、田畑やたくさんの緑に囲まれた住みやすい所です。

Mさんの実家は、最寄り駅から20分ほど車を走らせた場所にあります。今回の帰省は、中学の時の友人2人が実家に遊びにくるということもあり、Mさんは少し上機嫌でした。

友人の1人は女性、もう1人は男性で、二人とも中学からの親友です。

帰省して一日目の夜、その友人達と昔話で盛り上がっていました。

会うたびに同じような話をして、同じようにおどけて、同じように笑うことが、Mさんにはとても心地いいものでした。

ちょうど夜12時を過ぎた頃、女の子がある話を始めました。

『「渦芥の森」ってあったよね。』

渦芥の森(うずけのもり)は、付近にある大きな公園のことでした。

「森」と名付けられたその公園には、薄暗い森が隣接しています。

公園にはアスレチックが設置されていて、昼間は多くの親子連れでにぎわっていますが、夕方になると潮が引いたように人がいなくなります。夜は地元の人でも近づく人はいません。

それには大きな理由があったのですが、この時はMさん達は知りませんでした。

『あったね。あの森、肝試しにはちょうどいいかもね。』

『いってみようか。肝試しに。』

深夜12時半頃、Mさん達は渦芥の森の前にいました。そこは実家から車で10分ほどの所にありました。

森はすでに物々しい雰囲気を纏っていて、三人は入り口で少し立ち尽くしていました。

それほど森は深く、暗く、ジメジメと淀んだ空気がたちこめています。

この森には散策路が通っていて、ある程度奥までいくと、少しひらけた場所に木製の長椅子、テーブルが1つずつあり、休憩できるスペースがあるそうです。

3人は女の子を真ん中にして手をつなぎ、ゆっくりと奥に進んでいきました。

自分たちの足音以外聞こえない静かな森を、ゆっくりと歩いていきました。。。 

携帯電話のライトで前を照らしながら、ざっ、ざっ、と進みます。 

少しの無駄話さえ、そこでは許されていないような気がしました。

まるで誰かに聞かれていそうで、声を出すのも怖かったのです。

ふと腕時計を見ると、もうすぐ深夜1時になる所でした。

Mさんはたまらず、

『なぁ、どこまでいくの。もうやめないか。』

といいました。

女の子は横でブルブル震えていて、顔が真っ青です。もう一人の友人は、

『とりあえず、テーブルのあるあたりまで行こうぜ。』

と怖がりながらも、ここで引き返したらつまらない、といった様子でした。

Mさんはしかたなく、もう少し奥まで進むことにしました。

もう少しで開けた場所に着きそうだ。。。

その瞬間、3人は今までで一番の恐怖を感じました。

ーギィ、・・・・ギィ。

音が聞こえました。

自分たちの足音以外の音が聞こえたので、3人は同時に凍り付きました。

ーギィ、・・・・ギィ。

この音には覚えがありました。木が軋む音です。

締め付けるような乾いた音でした。

ーギィ、・・・・ギィ。

音は一定のリズムで、闇の向こうから聞こえてきます。

これ以上は怖すぎる。自分たちの精神状態も安全ではない。

3人は強く握った手で、同時に考えました。

もう引き返そう。

ーギィ、ギィ・・・ギィィ・・ギィ。

音が一瞬不規則になりました。

暗闇の奥の方で、ふと、ゆっくり揺れている何かが見えました。

それは力無く、ゆっくり揺れています。

『イヤァァァァァァアア!!!』

その瞬間真ん中にいた女の子が大きな叫び声をあげて、来た道を走り出しました。

Mさんともう一人の友人もめちゃくちゃな足取りで走り出し、3人は急いで車に乗り、渦芥の森を後にしました。 

その後、3人はすぐに解散することにしました。

特に会話を交わすこともなく、女の子があそこで何を見たのか、聞くことは出来ませんでした。

友人達を家まで送り届け、Mさんも実家に帰りました。

その夜Mさんは、寝ている間も、あの乾いた音が耳から離れませんでした。

次の日、Mさんがテレビを見ていると母親が背中ごしに話しかけてきました。

『あんたさぁ、渦芥の森あるじゃない。』

その言葉にMさんはギクリとしました。

なんで今、その話をするのか。Mさんは返事をしませんでした。

それでも母親は続けます。

『いや、今更なんだけどねぇ。ほら、コージ君、覚えてるでしょ?』

コージ君は、Mさんの小学校のときの友達でした。

とても仲が良かった友達の一人でしたが、中学1年の秋に隣町に引っ越したので、それ以来会っていません。

あぁ、コージがどうかしたの。とMさんは訊きました。

『いや、ね、コージ君のお父さんね、昔、渦芥の森で自殺したの。森の中で、首を吊って。』

心臓がバクバクと大きな音を立てていました。

詳しく聞くと、中学1年の夏に、コージ君のお父さんは渦芥の森で首を吊って自殺をしていたのです。夜中に自殺を図ったようで、次の日の朝に発見されました。

テーブルの上に覆いかぶさるような形で生えていた木に縄をくくり付けて、おそらくテーブルから大きく身を投げ出すようなやり方で首を吊ったのだと。

 

先生達は職員会議で、当分の間、あの森に子ども達を近づけるのはやめよう、という話をしたそうです。

子ども達がよく集まる公園のすぐ隣の森だったので、真実は伏せて、不審者出没ということで注意を呼びかけました。PTA会議でも話し合ったそうです。

もしかして昨晩聞こえたあの音は・・・いや、そんなはずがない。幽霊などいるわけないのだ。

しかしMさんにはまだ疑問があります。

『え、でもさ、なんで今その話したの?』

Mさんの母親は少し言いあぐねてから、ゆっくり口を開きました。 

『実はね、昨晩、コージ君があの森で首をつって自殺をしたの。』

コージ君は父親が自殺してから精神科に通うようになり、ずっと精神が不安定だったらしいのです。

自殺場所と方法は父親と全く同じ、森の奥の、テーブルの上の木に縄をかけた首つり自殺でした。

その夜3人が向かっていった場所は、コージ君の自殺現場だったのです。

あのまま進んでいっていたら・・・

Mさんはあの乾いた音が忘れられないそうです。 

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たくさんのコメントを頂き、本当にありがとうございます。読みにくいという指摘をたくさん頂いたので、文を修正致しました。読みにくさを感じられた方、申し訳ございませんでした。

返信

スマホでみるとちょうどよい間だけど。
しかし、こわいね。

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たしかに間あけすぎかな(-_-;)

返信

怖い( ;´Д`)
森ってパターンがさらに怖い!

返信

なんか
空白がなければもう少しいいと思います…。
話はいいと思います!

返信

他の方は肯定されてますが、間がどうにももどかしかったです
内容は良かったです

返信

「足音だと思ったら実は・・・」って展開が怖いですね。
夜の森は実際危険がいっぱいなので近づかないようにしましょう。

返信

特徴のある間が絶妙で、良かったです。

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