落語風にお送りします。
男ってぇモノは大概、…あたしもそうでございますが…スケベぇなモノでございます。
…そのおかげで、大変…馬鹿を見る事や、中には怖い思いをする事もあるのでございますが…
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時代は江戸の頃でございます。
…神田の三河町に大家で次郎兵衞ってぇのがいて、棚子(たなこ)、今で言うアパート住人でございますが…お馴染みの助平ってのがおりましてな。
この助平、その都度、長屋に女を連れ込みましてな、昼も夜も関係なしに、ちちくりあっておったそうです。
「馬鹿野郎…お前ってぇ奴ぁ何処まで女好きなんだ?ええ?!…その都度、違う女を俺の長屋に連れ込みやがって!まったく…」
「へへへ…すんませんです。へえ…」
「何時も言ってんだろ!女の尻ばかり追いかけていないで、そろそろ身を固めて…おっかさんを安心させてやれって!…他の住人からも苦情がきてるんだぞ?昼も夜も関係なしに、いやらしい声が聞こえてくるって!」
「いやぁ…でも、あっしぁ別に女の尻追いかけているわけではござんせんよ…女のほうが、あっしに着いて来るんでさぁ、…で、あっしも困ってるんで…」
「なに?!じゃあ、てめぇは一切女を口説いて…連れ込んでるわけじゃねぇって、そう言うんだな?…そうか…分かった…そうゆう事ってんなら、俺が何とかしてやろうじゃねえか。ん?大家といや親同様、棚子といやぁ子も同様だ…遠慮のねぇとこで言わしてもらわぁ…
…問題はまず、お前ぇのその整ったツラにあると、俺は思うんだ!…だからな、明日から毎日…出かける前にウチに寄っていけ…そしたら俺がお前をひん殴って、不細工にしてやらぁ…それで問題解決ってぇわけだな?…うん。」
「ちょっ…勘弁しっ下さいな…それじゃあっしぁ、恥ずかしくって…外を歩けませんよ…それに子のツラぁひん殴って不細工にする親なんていやしませんよ…」
「カカカ!そりゃそうだな!でも、お前ぇ困ってるってんじゃねぇのか!?」
「いえね、困っているのは困ってるんですが…何もひん殴って不細工にするこたぁ無ぇじゃありゃせんか?」
「馬鹿野郎!…そうでもしなきゃ…お前ぇはちっとも変わりゃしねぇじゃねえか!」
「へぇ……そりゃぁ…まぁ、そうかもしれやせんが」
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とまあ、こんな感じで大家と助平さんが話をしておりますってぇと、そこに一人の女が入ってきましてな…
「おやまぁ…助平さん、こんな何処におりやんしたのね…あちき、探したんでござんすよ…」
「げ!お鈴!いや…誰の事でござんすか?あっしぁ次郎兵衞でござんす…」
「おい…そりゃ俺の名…」
「大家さん!お願いでござんす…」
と、助平さん小さな声で囁く…
「あら…あちきの目が見えないからって、そんな嘘を言っても無駄でありんすよ…その声は間違い無く、助平さんでありんすから…」
「弱ったな…大家さん…お助けを!」
「なんだ?この女ぁ…盲目か?」
「ええ…あっしの顔も知らないのに、着いてくる…困った女ってぇのがこのお鈴なんでさぁ…」
「見たところ遊女みたいだが…お前ぇ…そういう女も手ぇつけてるのか?」
「違いまさぁ…たまたま、酒場で飲んでたら、ボロボロの格好で店に飛び込んできたんで、あっしが引き取ったんでさぁ…着物は他の女から頂いて、与えたんですがね、こいつ…着物もまともに着れないってんで、こんな花魁みたいな着方を…」
「目が見えねぇ女を引き取るたぁお前ぇもいいとこあるじゃねえか…えぇ?」
「よして下さいな!あっしはただ…その…あんまりいい女だったもんで…へへへ…」
「やっぱりな…まったく、お前ぇって奴ぁ…どうして直ぐそう破廉恥(ハレンチ)な考えになっちまうんだ、馬鹿野郎!…まぁ兎に角、直してやんな…あんな着方をして…妙な奴に連れてかれちまったってんじゃ目も当てらんねえだろ…?」
「へえ…」
「しょうがねえなぁ!おい、お鈴…分かったよ…お前ぇの察しのとうり俺は助平だ…しかし、お前ぇ…その着物ぁ、なんて着方をしてるんだ…俺が直してやるよ…」
と、助平さんお鈴さんの着物を直してやるってぇと…
「あちき…この着方しか知らないんでありんす…遊女でありんすから…」
これを聞いて大家の次郎兵衞さん驚いた…
「おい…助平、まさかこの女ぁ…遊郭から逃げてきたってんじゃねえだろうな?そうだとしたら、お前ぇ…てえへんなことだぞ!」
「わっ…分かってまさぁ…ウチで匿ってんすけどね。」
「おい…おい…そんじゃぁ、お前ぇ…命に関わるぞ…幾らなんだって、俺はそこまで面倒みらんねえからな?」
「へえ…だから、大家さんにゃあ…黙っておこうと…」
「あちきがいたんじゃ、助平さんも迷惑でありんしょうなぁ…」
「馬鹿!そんなこたどうだっていいだろ?お前ぇ…俺が嫌いか?ウチにいたくねえか?」
「あちき…助平さんが好きでありんす…」
「だろ?う…うん、えへへ…」
「見ちゃいらんねえなこりゃ…」
とまぁ、助平さんお鈴さんと一緒に自分等のウチに戻ったわけで…
…が、何だか妙な感覚を大家さんは感ぜられたそうでな…
実は、『お鈴』という名…聞いたことがあった…
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はるか昔の事…まだ次郎兵衞さんの若い頃、
…盲目の花魁、『お鈴』と言やぁ、江戸の町じゃあもっぱらの噂の種だった…
目ぇは見えちゃいねぇがそりゃあ、いい女ってんで、よく…こっそり裏手から覗きに行ったもんだったが…
…それは昔の話し…まさかあの若い女があの頃見た『お鈴』なわけが無いってんでいたんだが、よく似てる…何だか気味が悪かった…
「まぁ、ありえねぇか…」
と、考えるのをやめた…
暫くして…
「大家さん!あっし…所帯を持つ事になりやして…」
「なに?本当か?嘘じゃあるめえな??ええ?ほう!……そうかぁ!誰と?何処ぞの誰と所帯を持つ事になったんだ?」
「へへへ…お鈴でさぁ…」
「え…お前ぇ…アレは確か、盲目じゃなかったか?大丈夫か…?お前ぇみたいなロクデナシがあんな女ぁ、めとって…?」
「そ…ロクデナシはひでえや!あっしぁ…ただ、あいつの目になってやらっと思ったわけで…」
「いやいや、カカカ!悪かった…お前ぇのこたぁ俺もよく知ってらぁ!人に優しく出来る…特に女にはだが…いい奴だってなぁ!よし!お祝いしてやらぁ!カカカ!」
「えへへ…ありがとうござんす。」
とまあ、助平さん、お鈴と夫婦(めおと)になっちまったぁ…
次郎兵衞さんも一応、お祝いの言葉をしたが…
はたして、あの二人上手くやっていけるのか…心配ではあった。
察しのとうり、浮気っぽい助平。直ぐに彼方此方から噂が立つ…
…………………
「馬鹿野郎!お前ぇって奴ぁ…何処まで女好きなんだ?ええ?…嫁さん貰って大人しくなると思やぁ…妙な噂ばかり立てやがって…どう考えてるんだ!まったく。人の小言を頭の上で聞いてるから、こんな事になるんだ!馬鹿野郎!」
「へえ…すんません…」
「すんませんで済むならお天道様はのぼらねえんだ…馬鹿め!お鈴に顔向け出来るのか?そんなんで…ええ?」
「顔向けも何もあいつぁ…目が見えゃせんがね…」
「そうゆう事を言ってんじゃねえ…分からねえ野郎だなぁ…お前ぇは…で?お鈴はどうしてんだ…?」
「それが…いなくなっちまいまして…それで、大家さんに相談に参った次第で…」
「なに?じゃ…お前ぇ…アレは盲目だそんな遠くまでぁ行けねぇだろ…探したのか?」
「へえ…探したんすけどね…いねぇえんす…ぐすっ」
「馬鹿…泣く奴があるか…そもそもお前ぇが悪いんだろ?彼方此方で女ぁこしらえて…お鈴の耳にゃ届かねぇとでも思ってたのか?逃げられて、当然っちゃ当然だな…」
「でも…あいつぁ目が見えねぇっすから…逃げるわけねぇって思ってたんす…」
「馬鹿、…だってアレぁ遊郭から逃げて……。おい!…まさか連れ戻されたってこたぁ無いよな?」
「分からなねぇっす……」
以前より、女癖の悪い助平さん…噂はお鈴の耳にも入っちまって、何処ぞに行っちまった…暫くして…見つかり…慌てて助平さんも見に行く。
小さなお堂の中…
小さく丸まって死んでおったそうな…
老婆の様な真っ白な白髪の遺体は助平さんが着せたトンボ柄の着物を着ている…それに助平さんが働いてやっとのおもいで買ってあげた簪(かんざし)をさしていた…紛れも無くお鈴だった…が、その遺体はかなり古く…最近、息絶えた様には見えなかったそうで…
それを見た助平さん、怖ろしくなってどっか行っちまった…
次郎兵衞も心配して助平さんを探したが、一行に見つかる事無く時は過ぎましてな…
「こんちは…」
「はい?誰?屑屋かな?」
「あっしでさぁ…助平です。」
「な…お前ぇ…いってえ…何処ぞに行ってたんだ?俺ぁ心配してたんだぞ!!?馬鹿野郎!…お前ぇんトコのおっかさんも死ぬまで、助平は何処だ…助平は何処だ…言って……」
「すんません…」
「すんませんで済むならお天道様はのぼらねえって何度も言ってきたろ馬鹿め!…うぅ…」
「大家さん…俺…今日は、お別れを言いに来たんす…世話になって、本当にありがとうござんした…」
「なんだ?どうゆう事だそりゃあ?」
「へえ…あっしぁ…本当に心の底からお鈴を愛しておりました…なんで、お鈴の元に行こうと思いまして…」
「なっ!おい!馬鹿な事考えてんじゃねえだろうな!?」
「あっしは馬鹿でござんすから…へへへ…じゃあ…お元気で…」
「おい!ちょっ…」
助平さんはスゥっと消えて姿が見えなくなっちまった…もう既にこの世の者じゃ無かったんでしょうな…
ですが、もしかしたら幽霊を愛した事で、既にこの世のモノでいられなくなっちまっていたのかもしれませんが…
作者退会会員
駄作です…次回作は頑張ります。