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中編5
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マンホール

小雨の降る、寒い夜だった。

もう春だというのに気温は相当低い。

「明日は休みだし、一杯やりにいくかな。」

普段は真っ直ぐ帰るだけだし、休みの日はダラダラと過ごすだけ。

引っ越しをしてから飲みにはいっていなかったし、この街を知る意味で。

一緒に飲みにいく相手は…1人でいっか。

くるりと向きをかえて、飲屋街へと。

飲屋街は閑散としていた。

何軒かみてまわったがどこも空いている。

しばらく歩くと飲屋街の端に焼き鳥屋を見つけた。

「ここにしよう。」

ガラッと引き戸を開けた。

「いらっしゃい。」

小柄な男性の店主らしき人が迎えてくれた。

「1人なんですが…」

「カウンターどうぞ。」

カウンターの椅子をひき、腰をかけた。ビールを頼み、メニューを見ているとある物が目に入った。

六名ほど座れるカウンター席の目に付く場所に、行方不明の人探しのビラが貼ってある。

どうやら男性を探しているようだ。

顔写真がでていたが、知らない顔だった。

ビラを見ていると店主らしき人がビールを出してくれ、話かけてきた。

「それ、息子なんですよ。」

ビールを一口飲み、「そうなんですか。」と答えた。

奥の座敷に一組の客がいたが、もう注文する感じもなく、一人きた僕に話しかけてくる。

「もういなくなって、丁度二ヶ月。何にも言わずいなくなって…いい歳だし家出なんかする訳もないから、さっぱり分かりませんで。」

「そうなんですか…。」

「どっかで見かけたら教えてください。」

二ヶ月前か、丁度引っ越したぐらいだな。

なんて心の中で思っていた。

寂しそうに店主は焼き鳥を焼いている。

お腹は満たされ、程よく酔った僕は勘定をして、帰ることにした。

帰り際にも店主から息子を見かけたらよろしくお願いしますと頼まれた。

歩いていると、客引きに声をかけられた。

「お兄さん、どうですか?安くしますよ。」

まぁ、帰っても一人寂しく寝るだけだから…

「じゃあ、ちょっとだけ。」

と言って店に案内された。

店に入ると週末とは思えないくらい空いている。

座るとすぐに女の子がきた。

「こんばんは。一人ですか?いつも一人で飲むんですか?」

などとたわいない話をしていた。

すると女の子がこんな話を始めた。

「知ってます?最近、噂のマンホール。」

「え?マンホール?知らないな。」

「怖い話は大丈夫ですか?」

ま、この場で話されても怖くはないだろうし、酔ってると気が大きくなるのか、全然平気な気がした。

「大丈夫だよ。なに?」

「この先のS区の新しい道路しってます?最近通れるようになったやつ。そこにマンホールがあるんだけど、そのマンホールの上に男の人がずっと立ってるんだって。

なんでも工事中に事故が起きて、マンホールの中で人が死んだらしいの。」

よくある話で怖さなど微塵も感じない。

ただ気になったのはS区は僕の住んでいる地区、新しい道路は帰り道に通る、その道路に沿って建っているのが僕の住むマンションだってことだ。

なんだか今日は自分の何かと関わる話が多いな…

だいぶ酔いも回り、時間も深夜に突入したので帰ることに。

来た道をフラフラ歩いていた。小雨もいつの間にかやんでいる。

さっきの話にでた例の道に近づいてきた。

マンホールを探している、自分がいる。

あれか…が、幾つもマンホールがあり、どれか分からない。

なぜだかほっとして、気が大きくなっていた。

マンホールを一つ一つ踏んで歩いてみる。

道路は幅が広く、車の法定速度は40km。

あの店の女の子はいつ歩いたんだ?

車がきたらひかれるな…

しかし、どのマンホールが本物か見つけなければ気が済まなくなっていた。

自分のマンションが近づいてきたが、まだ見つからない。

幾つのマンホールを踏んだだろうか…

ふと振り返ると二つほど前のマンホールあたりに人が立っている。

こちらを向いているようだ。

この部分は街灯がなく、とても暗い。

さらに自分のマンションくらいしか建物もなく、このマンションも入居者がまばらで空き部屋ばかり。

ましてやこの時間に灯りのついている部屋などない。

するとこっちに車が走ってくる。

ライトの近づき具合からすると結構なスピードだ。

自分は歩道にあがる。

しかし、その人は動かない。

う、嘘だろ…ひかれるよ…

運転手は気がつかないのか?

あっ!危ない!

ブレーキをかけることもなく、車はその人をはねた。

その人は反対側に飛ばされ、マンションの横の草むらの中へと消えていった。

ひ、ひき逃げだ‼

腰が抜け、膝から崩れ落ちたが、携帯から救急車と警察に電話をした。

5分もしないうちに救急車はきたと思う。

警察も到着し、草むらのなかを救急隊の人と警察官が探しはじめた。

警察官に見たことを話したが、事故のあとがないと言う。

だけど僕は確かに見た…

しばらくすると、草むらから声があがる。

「うわっ!…い、いたぞ!見つかった。」

ひきつる声だった。

よっぽど悲惨なんだろう。

時間が時間だったので、翌朝に警察署にくる様に言われた。

翌朝になり、言われた通りに警察署へ。

なんともばつが悪い取調べ室のような所へ通された。

「Aさん、もう一度昨夜見たことを話してもらえませんか?」

そう言われ、話をしたが警察の人は腑に落ちない感じをものすごくだしている。

更に、飲んでいた店などさまざま聞かれた。

まるで僕が犯人のようだ。

質問にひたすら答えようやく解放してもらえたのは、昼過ぎだった。

それから三日後の夜に警察官が家にやってきた。

「Aさん、この前はすみませんでした。事件のことも明日には報道で流れるでしょうから、先にお話を伝えようと思いましてね。

実は…あのひかれたご遺体なんですが、二ヶ月前には亡くなっていたんですよ。

ひかれたのは間違いないようなんですがね。

Aさんが見たのは…その何て言うか…説明つかない感じでしてね。

何か知っていることや、思い出したことがあったら連絡ください。」

そう言うと警察官は帰っていった。

僕のみた光景は何だったのでしょうか。

見つかった方は、32歳の男性だったそうです。

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