僕はとある会社で、賃貸にだされている貸マンションなどのメンテナンスや、ちょっとしたリフォームをする仕事をしている。
不動産屋ではないのでこの話の最終的な結末は分からないが、もしこの先に賃貸住宅を借りる予定の人がいたら、少しでも参考になればいいなと思います。
分からない人は、分からないままの方がいい気もしますが…
あれは、3月の始めだった。
5階建てマンションの4階の一室、ファミリータイプの部屋のちょっとしたリフォームで洗面化粧台の交換だった。
洗面化粧台ってハミガキや手を洗う、だいたいはお風呂場の横にあるやつだ。
上は鏡になっており、下は収納になっている。
水道関係は下の収納の中で作業をしなければならない。
古い洗面化粧台を外し、新しいやつの設置を始めた。
下の収納から設置を始める。
穴を開けたり、やることは色々ある。
設置をし、収納の前に座り込み、頭を収納の中に突っ込み水道関係の作業をしていた。
ちょうど作業をしている自分の背中側が廊下になっている。
扉は全開になっており、玄関のドアも開けていた。
万が一、不審者がきても分かるように。
不思議に思うかもしれないが、簡単な電球交換などは不動産屋がするので、ブレーカーをあげても部屋に電気はない。
投光器など灯りの設備ももちろん持っているが、たいした作業ではないので用意が面倒だから準備はしない。
小さいライトを収納の中で照らしながらの作業だ。
なのでなるべく扉をあけて、光を取り込む様にしている。
作業をしていると、後ろの廊下を誰かが通り過ぎる気配がした…
集中していても、明らかに分かる気配だった。
ただ、人ではないなと…猫か何かか?
って思いながら各部屋をみてまわったが何もいない。
気のせいかなって思い作業に戻る。
少しすると「こんにちは。」と玄関から声が聞こえた。
不動産屋だった。
ご苦労様と声をかけてもらい、借りる予定の人がカーテンなどの採寸に来たので見せてもらっていいかと言われた。
もちろん断ることなどできないので、快諾し自分は作業に戻る。
見に来た家族はわざわざ自分に挨拶をしてくれた。
若い夫婦で5歳くらいの女の子がお母さんの横にピッタリとくっついている。
お父さんはスケール(計測するやつ)を片手に、お母さんはビデオ撮影をしていた。
自分は挨拶をして作業を続ける。
家族は各部屋を丹念に見ている。
30分くらいいただろうか、一通り見をえると家族は帰っていった。
自分の作業も完了していたが、不動産屋と家族を見送る。
帰り際に不動産屋の担当者が、とても気にいったみたいで間違いなく借りるのでクリーニングの手配もお願いしますと言われた。
自分の会社はハウスクリーニングまで行う契約をもらっている。
分かりましたと答え、最後の確認をして施錠し、部屋を後にする。
ハウスクリーニングは自分の後輩がやるので会社に連絡をし、手配をした。
次の日になり自分の会社の事務員からクリーニングに入るのに1週間後になってしまうと連絡をうけ、大丈夫かどうか不動産屋の担当者に連絡をいれた。
すると不動産屋の担当者は「すみません、やっぱりお客さんがキャンセルしたいって言ってきたので次の入居者が決まったら連絡します。」と… そうですかと答えたが直ぐに担当者が、明日に物件を見に行きたいお客さんもいるから、直ぐに決まると思いますよとも言っていた。
1週間がたった。
しかし不動産屋からの連絡はない。
とりあえず売り上げはあげられるので問題はないのだが、この時期はハウスクリーニングの手配が大変だ。
引っ越しが多くて職人の数が足りない。
参ったなって思い、担当者に連絡をした。
そうしたら担当者が、困った口調で話しを始める。
実は…2番目に見にいったお客さんが、部屋に入るなり、頭が痛いと言い始めた。
具合が悪いのかと尋ねたが、違うと。
この部屋には何かいる、とてもじゃないが入れないと…
困惑したが、そんな話は聞いたことないし、
曰く付き物件ではない。
冷やかしかとも考えたが、そのあとにお祓いしますとか、除霊しますとかの話もない。
あまりに気になり、最初に部屋を見て、キャンセルしてきた家族を訪ねた。
キャンセル理由は間取りがどうとか、思ったより狭かったなど言っていたが、正直に2番目に見にきた人の話をすると、実は困っていた、見て欲しいと撮影したビデオを見せられた。
絶句…ただそれだけだった。
撮影したビデオは、玄関、リビングと順に撮影している。
映像がキッチンを映す。
背筋が凍った…
キッチンの隅に小さい女の子が映っている。
しかし、この家族の子供ではない…
一目で分かる。
頭から血を流し、ニヤニヤして間違いなくカメラを見ている…
何か言っている様だが、音声には入っていない。
さらにビデオは北側の部屋に。
旦那さんがカーテンの採寸をしている姿を映している。が…
窓のに張り付きニヤニヤしている女の子がカメラを見ている…
ありえない…
今さっき、キッチンにいた女の子だ…
口がパクパクしている。
すべての部屋を映しおえて、映像がきれる直前、玄関前の廊下の映像。
玄関側からリビングの方を撮影している。
リビングにあの女の子が映っている。
口をパクパクさせながら、カメラにむかってきている。
撮影している、お母さんの声で「以上、新しく引っ越す部屋でした。」との音声が流れた直後…「ママみて、ママみて、ママみて」
とかすかな音声が入っていた…
言葉がでなかった。
訳の分からない汗をかき、とにかく映像を消しましょうと消去するので精一杯だった。
こんな話を聞いた自分は、あの後ろを通り過ぎた気配を思い出した。
あの部屋は今も空室だ…
作者げげげの怖男