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「臨時ニュースです。」
「ただ今入りましたニュースによりますと...」
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―――2週間前。
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大学3年の秋頃から準備をしてきた卒論もようやく書き終え、私はホッと胸を撫で下ろしていた。
ちょうどその時期に父は長年愛用していた車を手放すことを決心し、家族は新しい車を買い替える話で持ちきりだった。
それから1か月と経たず新車を購入し、大の車好きということもあって、親子共々乗り回していた。
そしてそんな中、単位も無事採り終った私はふとちょっとした一人旅に出ようと考えた。
今時の大学生が「自分を見つめなおす旅」と称する、アレだ。
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目的地は、××山。
何度も行った慣れ親しんだ土地だ。
朝方で、まだ夜の涼しさも残る頃、私は家族には何も告げず出発した。
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3時間して、××山へと到着。
清々しい気持ちに浸り、新たな自分に出会えるのではと期待感を膨らませていた。
だが、同時に森というのは、何とも言えぬ不安感を煽るものだ。
そんな相反する感情を抱きながらも、私は車を前へ走らせた。
もう後戻りはできない。
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車を走らせていると、謎の気配を私は感じた。
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「チリン..」
何かが聞こえた。
前方を見渡しても、特に何かがいる様子はない。
―――しかし。
ふとバックミラーを見ると、子どもが小さく映っていた。
真っ赤なランドセルを背負って、じっとこちらを見ているようだった。
「チリン...」
何故か私の六感は危険を感じ取った。
その場を一刻も早く離れなければいけない気がした。
私はアクセルをもう1度勢いよく踏み込んだ。
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どんどん車を走らせていくと、とあるレトロな雰囲気の御茶屋に辿り着いた。
そこで一旦気分を落ち着かせ休憩をとろうと、車を停め、店内へと入る。
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「いらっしゃい...」
ガランとした店の奥から、50代前半の和服の似合うおじさんが笑顔で出てきた。
おじさんは観光客に慣れているのか、私達は和気あいあいと話をし、時間はあっというまに過ぎていった。
私たちは××山での生活について、大学、友達のことなど他愛もない話で盛り上がった。
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やはり、夕方の山ということもあり、私たちの話は怪談話へと発展していった。
おじさんは怖さを出そうとしているのか声をひそめながら、話し始めた。
「昔このあたりで、幼い女の子がよく迷子になったんだよ。ほら、ここ道も細くて、夜になると暗くなるだろ。その頃は街灯もほとんどなかったからね。」
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「その女の子たちは結局誰1人と見つからなかった。
それでその対策としてかならず鈴をランドセルにつけさせると町内会で決まったんだ。
しかし結局それは何も意味がなかったんだ。
犠牲者は後を絶つことはなかった。」
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「迷子になった子たちはいつも道路脇に捨てられていた。
首は反対方向に曲がり、かならず身体の一部分が何かに食べられている形跡が見つかる。
...そして何故か鈴を毎回口に含んでいたんだ。」
「・・・」
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「それ以降というものの、夜この辺りは外出禁止になった。だからこのあたり夜になると本当に静かになる。車1台でさえ通ることはない」
私はその話を食い入るように聞いていた。
夏にも関わらず、寒気を肌で感じた。
「チリン......」
「???」
遠くで何かが聞こえた気がした。
おじさんは何も聞こえていない様子だった。
私のためにお茶をせっせと淹れている。
気のせいかとは思ったが、さすがに日も暮れ始めている。
私はおじさんに別れを告げ、その店を後にすることにした。
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山というものはこんなにもすぐに暗くなるものなのか。
本当に人どころか車の気配さえない。
辺りは静まり返り、聞こえてくるのはエンジン音のみ。
車内は不穏な空気で満ちていく。
私は何も考えないように、無心で帰路についていた。
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―――かなりの時間が経った。
(おかしい。
ここはさっき通ったはずだ。)
どうやら同じ道を何度も通っているようだ。
私は馴染みのある箱根であるにも関わらず、自分が迷ってしまっている状況に焦りを感じ始めていた。
冷や汗が頬を伝う。
(早く家に帰りたい。)
その一心だった。
辺りは既に真っ暗になっている。
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しかし、突如---
「...チリン.......」
再度のあの「音」が頭の中でコダマした。
それに続いて、何か他の音も聞こえた。
次第にその音は近づいてくる。
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―――これは声だ。
紛れもない人の声。
どんどん近づいてくる。
どんどん、どんどん............
「ま...っ」
「..す..け.....おね...ぃ」
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shake
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キイィーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!
バンッ!!!!!
shake
「のせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせてのせて」
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声が出ない。
手が震える。
現状が呑み込めない。
これは何なんだ......。
「それ」はものすごい形相で私の眼を見ている。
shake
細い腕で何度も何度もフロントガラスを叩いていた。
頭の中でおじさんの話がフラッシュバックされる。
一気に恐怖が込み上げてくる。
もう私は帰れない...........。
このままでは殺される..........。
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私は最後の気力を振り絞ってアクセルを全開にした。
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逃げ切れるかもしれない。
私はバックミラーを横目で見た。
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そこにはこちらを目がけて、全力疾走する「それ」の姿が視界に入った。
「チリンチリンチリンチリン....チリン...リン..リン........リン....ン..」
しかし距離は広がっていく。
鈴の音が遠ざかっていくのが分かった。
私は少し安堵しながらも、決してブレーキは踏まなかった...................。
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大分あの場所から離れたと思う。
さっきの「あれ」は何だったのか。
私は幻覚を見ていたのだろうか。
幻覚に違いない。
そうであって欲しい。
私は暗闇の中、車を走らせた。
すると道の先に光が見えた。
懐中電灯を持って、人が歩いている。
その姿を見て、私は一気に安心した。
・・・なぜならば、その人は先ほどの茶屋のおじさんだったからだ。
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私は車をおじさんの前で停め、窓を開けた。
おじさんは汗だくだった。
息を切らしている。
「このくらいの女の子は見なかったかい?僕の娘なんだ...迷子なんだ......」
非常に焦っていることが伝わった。
(ああ、僕は何てことをしてしまったんだ。暗くて頭が混乱していたのかもしれない。幽霊なわけがない)
私は申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、同時に恐怖から解き放たれ、ようやく安心することができた。
おじさんには先ほど走ってきた道を指し、私も帰り道を教えてもらった。
感謝を告げ、その場を後にした。
車を発進させ、ふとバックミラーを見ると、そこにはもうおじさんの姿はなかった。
私は少しばかり妙な違和感を感じていた。
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私はついに地元に帰ってきた。
疲れ果てていた。
私は家に着き、そのままベッドに倒れこんだ...。
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―――2週間後。
平凡な毎日を過ごしていた。
私は大学から帰りテレビを見ていた。
「臨時ニュースです。」
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「ただ今入りましたニュースによりますと、××の山中にて、少女の遺体が発見されました。2週間前、両親が捜索届を警察に提出したばかりでした。殺害されたのは小学2年生の○○○○○ちゃんで、##県警は殺人事件として捜査を進めています。遺体はひどく損傷しており、警察は犯人の痕跡を探している模様です。この村では以前から子供の誘拐殺人が繰り返されており、手口が同じことから、今回の事件との関連性が指摘されています。」
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....................................................................私はすべてを悟った。
作者ぶうたろう