私は29歳のサラリーマン
毎日残業でもうクタクタだ
家から会社まで車で約1時間
だが、高速道路を使うと20分程でいける
だから、私は残業で遅くなった日は高速道路を使うようにしている
高速道路へは、一般道から歩道を横切り左折する事で入れる
その左折する所の歩道の端にはいつも花瓶が置いてあった
そして、その花瓶に生けていた花はいつも新鮮で艶やかであった
きっと亡くなった人の親族か誰かが毎日代えに来ているのだろう…
そんなある日残業で遅くなった私はいつもより飛ばして車を運転していた
高速道路の入り口に差し掛かり左折しようとした時、ハンドル操作を誤り少し歩道に乗り上げてしまった
ガシャーン!!
何かガラスの様な物が壊れる音がした
例の花瓶だ
「あちゃー…マジか…縁起悪ぃなぁ…」
とりあえず降りて片付けようか迷ったが、疲れていたし、誰も見ていなさそうだったし、私はそのままにして帰る事にした
嫌な物にぶつかったなぁ…気持ちわりぃ…
あまり気分良くはなかったが、あんな所に置いてる奴も悪いと、無理矢理自分を納得させた
高速道路を数分走った時、路肩に何かを見つけた
「あれなんだ?」
近付くにつれ目を細めよーく見ると、それは5歳位の男の子だった
「わぁっ!!」
私は思わず声を上げた
だか、すぐ驚いている場合じゃないと思った
「こう言う時は警察か?」
とりあえず私は警察を呼んであの子助けてもらわないとと思い、運転しながら警察に連絡した
「もしもしこちら110番です。事件ですか?事故ですか?」
「どちらでもないのですが、○○道の○○付近で5歳位の男の子が歩いてます!多分間違えて入っちゃったんじゃないかなぁ?すぐ助けてあげて下さい!」
「わかりました。すぐ高速隊を向かわせます」
「お願いします」
しかし、老人が高速道路に迷い込む話はよく聞くが、子供が迷い込むってのは始めてだな…
などたわいもない事を考えながら私は家路を急いだ
男の子を見かけてから数分位経った頃だろうか私はある異変に気がついた
左のヘッドライトがおかしい…
左のヘッドライトで照らされた地面に妙な影が写っていた
ハートを半分に割った時の片方の様な形の影が左のヘッドライトで照らされた地面に写っていたのだ
何かヘッドライトについたのかな?
と考えていると、いきなりその影が動き出した
「なに!?」
と同時にその影の正体がボンネットの上へ乗り上げて来た
「あぁ…あぁぁぁ…」
そこで私の目に映ったのは、ついさっき高速道路の路肩を歩いていた男の子だった
だが、さっきと少し違う所がある
手が異様に長いのだ
手長猿の様に地面に付きそうな程長い手
その長い手でボンネットにしがみつき、それは私の方へ近づいて来た
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
私は車内で今までで一番であろう大声をあげ、とっさに急ブレーキを踏んでしまった
次の瞬間100km以上出ていた車のタイヤはロックし、ハンドルを取られそのまま私の車はガードレールへ突っ込んでいった
「くっ…痛ぇ…」
私は薄れゆく意識の中で、ボンネットに目をやった
グチャグチャに潰れたボンネットの上に、それは三角座りをして座っていた
次に目を覚ましたら私は病院のベッドの上だった
「おや、目が覚めましたか」
そこには白衣を来たおじいさんが立っていた
「大事に至らなくて良かったですね。左足を骨折しただけで、他は大した事ないです。2、3週間もすればリハビリを開始出来るでしょう」
生きていたんだ…
私はその時なぜこの様な事故を起こしたのか、記憶が少しかけていた
何か嫌な事があった気がする…とてつもなく怖く嫌な事が…
胸の中には何かにモヤモヤした物があるが、それが何なのか全く思い出せなかった
そんな事を考えている内に気づけば日が暮れていた
まぁ、いいや。早いけどもう寝よう
私はモヤモヤした物を抱えたままとりあえず眠る事にした
その夜私は奇妙な音で目が覚めた
ペタ…ペタ…ペタ…
ペタ…ペタ…ペタ…
んん…廊下を誰か歩いてんのか…
ペタ…ペタ…ペタ…
ペタ…ペタ…ペタ…
その音は靴やスリッパの音ではなく、まるで濡れた素足で歩いている様な音だった
ペタ…ペタ…ペタ…
たっくうるせーなぁ
私は少しイライラを感じていたが、フッおかしな事に気づいた
この部屋には廊下に繋がる扉がある
そこは消灯と共に閉まっているハズだ
なのに、足音は俺の耳元でハッキリ聞こえる…
耳元で…ハッキリ…
まさか…
「¥×・○×%$!!」
私は言葉にならぬ声を上げた
と同時に体の自由を奪われた
そう金縛りだ
くそっ…くそっ…
病院での金縛りは普段と違い妙な恐怖を私に与えて来た
ペタ…ペタ…ペタ…
ペタ…ペタ…ペタ…
ハッキリと私の耳元でその足音は聞こえた
体が動かぬ状態で、他の機能が研ぎ澄まされていたのか、私はある事に気がついた
この足音の主は私のベッドの周りをグルグル回っている
ペタ…ペタ…ペタ…
ペタ…ペタ…ペタ…
間違いない…何者かが私の周りを回っている!!
そう確信した時不意に足音止まった
だが、まだ金縛りが解けておらず私はその様子を確認する事が出来なかった
ヒュー
その時、耳元に生暖かい風が走った
「×○$<*+¥!!」
私は思わずまた言葉に表せないような声を出してしまった
その途端目玉だけが動かせる様になった私は生暖かい風が吹いて来た方へ視線をやった
私はその瞬間自分のとった行動をとてつもなく後悔した
そこには両目がえぐり取られ、顔の皮膚が爛れた男の子が口元をニヤつかせ立っていた
私はよもや声も出なかった
あまりの恐怖で、恐怖が一周してしまいその状況から意識が飛びかけていた
そんな中少年は耳元でこう呟いた
「壊した物は直さないと。そう言う悪い人は例え壊されても文句言えないんだよ?」
えっ…
次の瞬間私の骨折していた左足に激痛が走った
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
私は部屋のみならず、病院全体に響きそうな位大きな声で叫んだ
その叫び声を聞きつけ、すぐに看護師と先生が部屋にやってきた
「どうしましたか?○○さん!!大丈夫ですか?どこか痛むのですか??」
驚きの表情を浮かべる先生に対し、痛みで気が狂いそうになっていた私はただただ左足の骨折した部分を指差す事しか出来なかった
私はすぐレントゲン室に運ばれギブス越しにレントゲンを撮られた
その後私はあまりの痛みに耐えきれずそのまま気を失ってしまった
「んん…ん…夢か…?いや、夢じゃないまだ痛む…」
だいぶマシにはなっていたが、左足の痛みはまだ消えていなかった
と同時にその痛みにより昨日の事が夢でないと思い知らされた
目が覚めた私の元に先生がやってきた
先生は暗い表情のまま私に衝撃の事実を話した
「あなたの左足の骨折した部分、及び周囲の骨全てが粉々に砕けていました。落ち着いて聞いてください。簡単に説明します。今あなたの左足はギブスで固定されていますが、ギブスを外せばそこはもう皮一枚の状態です。」
「えっ…」
「切断しましょう。それしかもう方法は残っていません…」
私はこの様な状況にも関わらず、手術の事より花瓶の事を思い出した
あの仕打ちがこの状況なのか…
ならあまりにも重く酷すぎはしないか…?
くそっ…くそっ…
その後、病院には警察も駆けつけた
自然に骨がこの様な状況になる訳がない
誰でもわかる事だ
だが、俺が事実を話した所で警察は信用しなかった
むしろ、俺は左足を失うショックでイカれちまったんじゃねーかって感じだった
それから1年後私は病院を退院した後、そのまま地方の精神病院へ入れられた
まぁ、あの様な事ばかり言っていたのだから当たり前か
私は今精神病院の窓から外を眺めている
遠くの方に道が見える
そこには花瓶が置かれていた
綺麗で艶やかな花を飾って
作者@ko