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俺の名前は創平。近くの大学に通っている大学二年生だ。今日も遅くにバイトを終えて家に帰る途中だった。
「はー、今日も疲れたなー。早く家に帰って休みたい」
そう思いながら歩いていると、ポツポツと雨が降り始めた。
「うわっまじかよ。天気予報当てになんねーな」
今日の天気予報は晴れ、当然傘など持ってきていなかった。そのうえ、このあたりは街のはずれで、スーパーはおろか、コンビニさえなかったので、傘を買ったり雨宿りすることもできなかった。
仕方なく俺は、走って家に帰ることにした。
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雨はどんどん強くなっていく。誰もいない道を薄暗い街灯が照らしている。そんな中を走ること3分、墓地が見えてきた。
家に帰るには、途中で墓地を通らなければならない。しかし、いつもは夜に墓地の中を歩きたくないので、遠回りをして帰っていた。
いつもは通らない道。だが、一刻も早く家に帰りたかった俺は、薄暗く、木の茂っている墓地に足を踏み入れた。早く抜ければなんの問題もない、そう思っていた。
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「やっぱり気味悪いな」
薄暗い墓地を走っていく。怖いと思わなければ大丈夫だ、何も考えずに行こう、と自分に言い聞かせていた。
雨のせいで服はすっかり濡れ、しかも風が強いせいか、夏であるのにもかかわらず寒気がしていた。
墓地に入ってしばらくすると、ヒタ…ヒタ…と、雨がしたたるのとは違う変な音が聞こえてきた。どうやら後ろの方から聞こえるようだ。
いきなり聞こえてきた音に驚き、ふと後ろを振り返ってみるが何もない。
「なんだ、空耳か」
そしてまた走り始める。するとまた、ヒタ…ヒタ…と音が聞こえてきた。
これは空耳じゃない。そう思って立ち止まったとたん、その音も止んだ。
…気を取り直してまた走り始める。すると同時に、ヒタ…ヒタ…とまた音が聞こえ始める。
「なんなんだよ、一体!?」
そう思いもう一度振り返ってみるが…
…何もない。
音だけが不気味に聞こえる。
いやだ、怖い。
一刻もはやく墓地から抜けようと、全速力でぬかるんでいた道を駆け抜けた。
何も考えない方がいい…。
そしてやっと墓地を抜け出した。
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「ふぅ…」
やっと墓地から抜け出して、俺はひと安心し、立ち止まった。
少し休憩しよう、もうあの不気味な音は聞こえないはずだ。
それにしても、あの音は一体何だったのだろう…。
ふと自分の足元を見てみると、ぬかるんでいた道を走ったせいか、ズボンが泥まみれだった。
「あーあ、洗濯するのめんどくせーな。」
そんなことを考えるほど俺は冷静になっていた。無意識に、墓地で起きた怖いことをはやく忘れようとしていたのかもしれない。
とにかく、あの墓地は抜けたのだ…。
「あ、」雨がやんだ。
どうやら通り雨だったようだ。再び、薄暗い街灯が照らす道を歩いていく。
ヒタ…ヒタ…ヒタ…
…だが、悪夢は終わっていなかった。
「…ぽん」
何かが肩にふれる。
見てみると、それは青白い色をした小さな手だった。
ゆっくりと後ろを振り返ってみると…
「……!!!」
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小さな背をした女の子が、こちらを凝視していた。
左手は俺の肩に掛かっている。
「うわぁぁぁぁああああ!!!」
叫び声をあげると同時に、
突然前から、強い光が差してきた。
「…っ!!眩しい!!」
よく見るとそれは一台のワゴン車だった。
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窓が開き、タバコを吸ったおじさんが顔をのぞかせる。
おじさん「どうした、叫び声なんかあげて。何かあったのか?」
「ハッ!」後ろをみてみると、すでにあの女の子はいなくなっていた。
…それから家に帰り、早速風呂に入ろうと服を脱ぐと、左肩に小さな手形をしたあざが残っていた。
このあざは、それから一年たっても消えることはなかった…。
作者ryut