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これは、俺が偶々実家に帰った時に、体験した話だ。
文才ないし、思い出しながらだから駄文になると思うけど、書いていく。
事件に会ったのは、俺が実家に帰った時のことだった。
俺が偶々実家に帰ったのは、俺の母さんが風邪をこじらせて病院に入院することになったからだった。
とりあえずお見舞いをして、思ったより調子が良かった母に安心して、実家に一人帰ってだらだらしてたんだよ。
とうさんも母さんに付きっきりだから、実家は俺一人の状況だった。
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一人テレビ見て、さあ寝るかって時になった。
そしたら、襖の奥からトントン、トントンって扉を叩く音が聞こえた気がしたんだ。
あ、一応紹介しとくと、俺の実家って結構な田舎にある。まあ、襖とか畳は結構都会にもあると思うけど、とりあえず隣家への距離が半端ない。
で、俺結構心霊的なもの信じないから、風かなあー?ぐらいの勢いで開けたんだよ。
まあ、予想通り何もなくて、枕も準備して、寝ようとした。
そしたらまた、トントンって音が聞こえてくるんだ。
またかよ、って開けようとしたんだ。
俺、気になったら夜も眠れないたちだからさ。
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襖に手をかけて、開けようとしたら、父さんが帰ってきた音がした。
眠そうに瞬きしながらこっち来たら父さんがさ、固まったんだ。
最初は、襖に手をかけている俺を見て、次にトントンと叩かれている襖を、と、交互に何回も目だけを動かして。
本当に、五秒は止まってたと思う。
どうやら、襖のトントンって音が聞こえてるみたいだった。
そんなに驚かなくてもいいだろって思うよな?
でもあの時の父さんは、顔全体で絶望って感情を表してた。
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俺「どうしたん?父さん?」
父「お前…襖開けたか…?」
俺「開けたけど…」
俺が言い終わるのと同時くらいに、父さんが俺に迫って来た。
父「この馬鹿!なぜ開けた!」
父さんの表情は、絶望から怒りに変わっているような気がした。
でもさ、みんなも気になるよな?
自分一人しかいないのに、トントンって扉叩かれたら。
父「駄目だ…こりゃあ駄目だ…」
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父さんは、部屋の電話からどこかにかけていたようだった。
確か、「息子がトビラキに魅入られた…」とか言ってた。
俺には全然状況が理解できていなかったんだ。しかも、まだ襖をトントンって叩く音が聞こえていた。
十分くらいすると、父さんが戻ってきた。電話が終わったみたいだ。
父「お前は今日泊まりなさい。帰すわけにはいかなくなった。」
俺「全然わかんないって。」
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父「お前は魅入られてしまった。トビラキに…今から巫女さんが来る。それまで、扉を叩かれても開けては駄目だ。」
そう言って、父さんはまた出掛けて行ってしまった。
相変わらず、襖はトントンと叩かれていた。
なぜ、開けてはいけないのか。その時の俺は理解できなかった。
そもそも、父さんのあんな表情は、一生で初めて見たと思う。
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「失礼します」
数十分後、玄関からか細い声が聞こえた。やがて姿を表したのは、巫女の格好をした女の人と、父さんの姿だった。
父「○○、こちらが巫女さんだ。」
巫女「…よろしくお願いします」
巫女さんは、ぺこりと頭を下げた。中々の美人さんで、身長も高すぎず低すぎずって感じで、こういう状況じゃなかったら惚れていたと思う。
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俺「父さん…全然状況がわかんないんだけど…」
父「…ああ…そういや説明してなかったな。巫女さんの方が詳しいから、教えてもらえ。」
巫女さんは、父さんの視線を受け、また頭を下げると、事を話し始めた。
巫女「…話を聞いたところ、恐らくトビラキと思われます。もう開けてしまわれたのですね?」
襖を開けたということだろうか。
俺「はい…開けましたけど…?」
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巫女「…貴方が信じるかは自由ですが…トビラキは、貴方達のいうところの「妖怪」や、「霊」のような存在で、名の通り扉を叩きます。そして、扉を開けた者がなにもいないことを不思議に思う瞬間を見て、喜ぶ、…と、ここまではこの地方の方ならご存知だと思いますが…?」
いや、始めて聞きました。
父「すいません、息子には必要ない話だと思い、話していません。なにせ、私も伝記の類だと思っておりまして…」
そんな話、いや、霊的な話は基本信じない父さんのことだ。当たり前といえば当たり前だ。
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巫女「そうですか…なら説明しないといけませんね。」
巫女「アレ…今も戸を叩いているアレは先程、霊的なものと申しましたが…どちらかというと神様のような尊い存在です。」
巫女「名を"トビラキ"。悪戯が好きで、扉を叩いて驚かせる無邪気な子供の姿だと伝わっています。害を及ぼすことはなく、寧ろ座敷童のような、幸運をもたらすとも言われています。」
巫女「しかし…中には悪戯をすぎて害を及ぼすものもいます。」
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俺「例えば…どんな害を?」
巫女「以前、貴方と同じように扉を開けてしまって、彼らの姿を見てしまったものがいます…そのものは、何かに取り憑かれたように一日中、それこそ死ぬまでひたすら扉を叩き続けていました。その表情は、無邪気に遊ぶ子供のようでした。」
淡々と、今の状況を説明する巫女さんによって、最初は信じられなかった俺は段々と信じて行った。
加えて、父さんが帰って来てから三十分間、トントンと継続的に扉が叩かれている音が聞こえれば、納得せざるを得なかった。
俺「それで…俺は助かるのでしょうか?」
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巫女「いえ…残念ですが、今までトビラキに魅入られて正気を保ってられていたものはいません。貴方も見てしまったのでしょう…?あのおぞましい姿を…」
俺「え…?いえ、扉を開いたら何もありませんでしたよ?」
巫女「え…?」
巫女さんは、父さんと俺の顔を交互に見た。
父さんも、驚いたような、困ったような顔をしていた。
巫女「本当に…本当にみていないのですか?」
俺「はい…。開けた時はなにもいませんでした。」
そう俺が言うと、巫女さんは俺の手を握ってきた。
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巫女「○○さん。貴方は助かるかもしれません。まだ可能性の話ですが、助かる可能性はあります」
巫女さんは、俺と父さんを家の外に止めてある車を指差した。
巫女「移動しましょう。トビラキは諦めが悪いのです…」
俺が家を出ようとする寸前、襖がものすごい強さで叩かれた。
まるで、俺を引き戻すみたいに。
ドンドンドンドンドン!
巫女「振り向いてはいけません。早く車へ…」
俺は、後ろに強い視線を感じながら、巫女さんの車へと乗り込んだ。
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着いたのは、見たこともない神社だった。
父さんによると、俺は生まれた時に一回来ているらしいが、そんなこと覚えているはずがなく、結果的に俺は初めてここへ来たことになる。
外装は、よく掃除されているといった印象があった。
鳥居をくぐり、本堂へと案内されると、後ろからの視線がふっと消えたように感じた。
巫女「こちらです…本堂には何重にも結界が張ってありますが、何故神様には聞かないも同然ですので…時間稼ぎにしかなりません」
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巫女さんに案内された部屋は、ドアだけの、窓もクローゼットもなにもない、文字通りの空き部屋だった。白い壁で覆われた、6畳くらいの大きさの部屋だった。
巫女「ここに一日いてください。もし今憑いているトビラキが諦めてくれたら、私が貴方をここから連れ出します。その間、私を含め誰一人扉には近づきませんので、もし扉をノックされても、絶対に開けてはなりません。」
巫女さんは、そう強い口調で言っていたと思う。
「…扉は貴方を守ってくれる唯一の結界です。決して、貴方から邪悪なモノを迎え入れることのないようにしてください。」
そう言うと、巫女さんは扉を静かに閉めた。
そして、久しぶりの静寂が俺に訪れた。
部屋の中にはなにもない。あるのは、持ってきた携帯と鞄のみ。
鞄には、250mlの半分もないペットボトルと、手帳と財布など、役に立たないものばかりだ。
あと一日もか…携帯の時刻は夕刻の18時を刻んでいた。
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トン…トントン…
僅かに、扉が叩かれている音が聞こえたような気がした。
そして、それは、やがて確信に変わっていく。
トントントントントントン
いる。この木の板一枚を隔てた向こう側に、俺たち人間ではない異形のモノが…。
俺は、静かに目を閉じて、両手で耳を塞いだ。
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気が付くと、俺は部屋に横になっていた。
寝てしまったのだ。携帯の時刻は、夜の22時を刻んでいた。
そして…扉を叩く音も寝ている間に消えていたようだった。
「あの…すいません」
不意に、扉の向こうからか細い声が聞こえた。
聞き覚えのある声…あの、巫女さんの声だった。
「…」
しばらく、沈黙が続いた。
「すいません。扉の鍵を無くしてしまい、開けられなくなってしまいました。そちらからは開けられると思いますので、どうか開けてください。」
巫女さんと思われる人は、そう早口で言っていた。
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「はい…今開けま」
…待て。俺はドアノブを凝視していた。ドアノブには、鍵穴らしきものが見当たらなかった。そう、入ろうと思えばはいれるはずだ。
しかし入らないのは…巫女さんがいう「鍵」とは…?
俺はその時、巫女さんが言った言葉を思い出していた。
「この扉は貴方を守ってくれる唯一の結界」
開けてはならない。そう、体全体がそう忠告していた。
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「開けテクだサい。ああけさい。開ケテクダさい。アケテクダサイ。アケテクダサイ。アケテクダサイ。」
扉が、ドンドンと、強めに叩かれると、扉の向こうにいるのが巫女さんではないというのを物語っていた。
「アケロ!アケロ!アケロ!」
開けてたまるか。俺はまた、両手で耳を塞いだ。
だが、今度は扉を叩く音が途絶えることはなかった。
「…!…!…!」
時間が経つにつれて、トビラキの声は小さくなって行った。
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「あぁ…」
最後に、吐息のようなものを漏らしたかと思うと、扉を叩く音も消えた。
「…いった…のか?」
俺はその場から動けなかった。また、俺を騙そうとしてトビラキがきそうだったから。
「…失礼します。」
ガチャっという音と共に、扉が開かれた。そこにいたのは、巫女さんだった。
「よく耐えられました。貴方は助かりました。」
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その後、俺は疲れが出て、約一日寝てしまった。
巫女さんには、「お守り」にと、お札を一枚もらった。
あの出来事から、扉が少しでも叩かれると、心臓が跳ね上がる。
あの事件以降、トビラキには会っていない。
…そして、帰ってから父さんに連絡を入れた。母さんは無事退院したらしく、安心できた。
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そして、トビラキに興味が湧いた俺は、本やインターネットで、トビラキについて調べていた。
なぜかって、あのトビラキと呼ばれているモノについて、俺は姿を見てないからだ。不謹慎だが、見るなと言われているものほど、みてみたくなるものだ。
そして、ある文献を見つけた。
「トビラキ。姿は童子に角が二本頭部から生え、顔は牛のような醜い顔である。その姿を見たもので正気を保っていられた者なし。ごくたまに幸運を運ぶとの噂あり。」
要約すると、こんな感じの事が書いてあった。
そして、トビラキについて、名前の由来がわかった気がした。
ここからは俺の推測だが…
最初は、扉を叩いて開けさせるから「戸開き」だと勝手に思っていた。
しかし、今思い出すと、巫女さんのあの言葉。
「おぞましい姿」
そして、文献にある、
「姿は童子に角が二本頭部から生え、顔は牛のような醜い顔である」
恐らく、トビラキは「扉鬼」、もしくは「戸開鬼」と書くのだと思う。
日常には、もしかしたら恐ろしいものが潜んでいるのかもしれない。
みんなも、扉が叩かれたら気をつけてくれ。
作者unknown
閲覧ありがとうございます。
今回は、日常に潜む話を投稿させて頂きます。