就職先が決まった。
住み慣れた町から通うのは大変なので会社の近くの安いアパートを借りることにした。
初めての一人暮らし、実家から持っていくのは衣類くらいだ。他はおいおい揃えていけばいいだろう。
テレビと冷蔵庫、洗濯機は親が購入して、引っ越した当日に届き、業者が設置してくれた。
それから1年がすぎ、俺にも彼女が出来た。初めての彼女。そしてなんと1ヶ月後に同棲することになったのだ。
だが一つ問題が起きた。いままで彼女なんぞいなかった俺は数々のエログッズを所持していた。そして愛着のあるそれらを捨てる事なんて出来なかったのだ。
何とかしなければ…と考えるがこの1LDKのどこに隠しても見つかるような気がする。
玄関収納…だめだ
トイレ…無理だ
キッチン…あり得ない
ベッドの下…絶対見つかる
クローゼット…いずれ見つかるだろう
あ~もう捨てるしかないかな~っと上を向く…ん?これは天井裏に上る点検口!!
発見したのだ。絶好の隠し場所を。さすがにクローゼット天井の点検口までみる奴はいないだろう。
早速、ホームセンターで脚立を購入し、点検口を開け放ち頭を突っ込む。
当たり前だが真っ暗だ、何となくしか見えないが周囲を見渡してみると、雑誌のような本が積んであった。
さては…俺と同じ状況の奴が置いて行ったな?
エロイ好奇心のせいか、自然と手がのび、その雑誌だと思っていたもの取り出した。
埃が被さり表紙が真っ白になっていたが、ただの大学ノートの束だった。
がっかりしながらも、何の気なしに埃の被さっていない2冊目を手に取り中を見てみた。
どうやら日記のようだ、別にどうでもいいのだが特にやることもないので、エログッズを点検口に収めてから読むことにした。
2冊目の本の表紙に2と文字が書かれてあったので、他のノートも見てみると数字が書かれてあった。ただの日記なので2から読むことにした。
綺麗な文字で書いてあり、最初は女かな?と期待するが“俺”という文字で肩を落とす。
ぼ~っと誰が書いたか解らない日記を読んでいると、“俺”もどうやら人生最初の彼女が出来たようだ。自分を重ねるような背景にどんどん引き込まれていった。
面白いことに“俺”も愛着のあるエログッズの隠し場所を探していた。そして見つけた隠し場所も自分と一緒だったのだ。嬉しくなりどんどん読み進めていった。
“俺”の彼女がアパートに来た時の話だ。
「いい雰囲気になり二人布団に横になる、すると彼女が天井の染みを発見したようだ。“俺”は少しドキっとしたがそんな事より、人生初のビックイベントが目と鼻の先にあるのだ。
だが染みの原因を探られたら大変だ、秘密のグッズが明るみに出てしまう。彼女が帰ったら天井裏を調べよう。」
そこまで読むと、これはこのアパートの出来事なのだからと、染みが気になり天井を見た。あった!!!!証拠となる染みを発見する事で、“俺”がここに住んでいたと改めて実感する。
“俺”のその後、つまり初夜の感想が書いてあると期待しノートに目を移すが、その続きは次のノートだ。
5と書かれたノートに移ろうとしたが、見当たらない。
たぶんまだ天井裏にあるのだろう。
腕時計を確認すると午前0時を少し過ぎていた。
せっかくだからと逸る気持ちを抑え、1と書かれたノートを手に取り読み始めた。
ここに越してきて10日目から書き始めたようだ。
越してきた当時は部屋がたまに臭かったと書かれている。生ゴミと、排水溝の臭いを足して2で割ったような臭いと表現している。
だが暫くすると臭いは無くなるが、カサカサと動き回る音が天井から聞こえ始めたようだ。“俺”はネズミだと思ったらしい。俺もネズミか大きめのゴキだろうと思った。
初めは気になっていたようだが、日が経つにつれその音もなくなり、引っ越しでもしたのかと思ったようだ。
あとはグダグダな内容だった。
無駄な30分を過ごしてしまった。“俺”の初夜が無性に気になり5と書かれたノートを探すべく、クローゼットをガバッと開け放ち脚立を架け、頭を点検口に突っ込んだ。
ん?先ほどまでの甘い香りではなく臭い。まるでノートに書かれてある臭いだ。
しかも奥の方からカサカサと音が聞こえる。
能天気な俺の頭は、「引っ越しなんてしてなかったんだ~」などと思った次の瞬間。
「んバぁ~…」
奥から聞こえるその声に、身動きが出来なくなった。
明らかにネズミの鳴き声ではない。その暗闇から聞こえる声の方向から目が離せなくなる。
カサカサ…「んバぁ~…」
まだだいぶ奥にいるようだ。俺のヘタレセンサーが感度マックスになり気が付けばそっと点検口の蓋を閉めていた。
上を向いたまま、音を出さないように脚立から降り、シンとした部屋で耳を澄まし音の出処を探す。
カサカサ…
音のした方に目を向けるとさっき発見した染みの真上だった。
それにしてもさっきの鳴き声はどんな生き物なんだ?カサカサという音だと重さがあるようには思えない。このまま“俺”のように放置すればいいのだろうか?だがもし彼女と一緒に住むことになったら音が原因で俺の数々のエログッズ達が見つかってしまう。
エログッズ発見の阻止という使命感と、ノート5を見たいというエロ好奇心がごっちゃになり、気が付けば懐中電灯を手に再び点検口に頭を突っ込んでいた。
音と泣き声がした染みのある位置はここから3メートル位だが、天井を支える柱や金具が邪魔をして光を当てても影が出来てしまってよく見えない。近場にもノートはないようだ。
仕方なく天井裏に上がり慎重に奥に進むことにしたが、少しずつしか進めない。踏む所を間違えれば下に真っ逆さまだ。
奥に進むにつれ臭いが濃くなってきた、足場を確認しながら体を安定させ染みのある位置をライトで照らすと、「あった!」ノートを見つけたことで思わず声に出してしまった。
カサカサ…カサカサカサカサカサ
俺はノートを見つけた事で、生き物の存在を忘れていた。今までこんな速度で回転した事がないってぐらいの勢いで音のした方向をライトで照らす。
「んバぁ~」
ライトを当てた瞬間、その生き物は俺の首元めがけて飛んできた。一瞬の出来事で俺は体勢を崩し天井のボードを突き破り、床に激しくたたきつけられ、意識が飛んだ。
目を覚ました時は病院のベットの上だった。
首に包帯がまかれ、全身が痛い。首の骨でも折ったのかと思ったがそうではなかった。
医者が言うには、首に人間の子供位の歯型で食いちぎられた跡があったようだ。
それを聞いて思いだし、鳥肌が立った。
意識を失う前、天井から落下している最中に天井の穴から、ゴムボール位の大きさで人間の赤ちゃんの顔をした虫のような物が見えたのだ。全身黒くて頭から足が何本も生えている生き物だった。
俺は下の階の住人が衝撃音で不審に思い駆けつけに来てくれた事で助かったようだ。
もし来てくれなかったらと思うと、ぞっとする。
ベット横の棚に一冊のノートが置かれてあった。
どうやらあの生き物に襲われた時、とっさに掴んだまま病院まで運ばれたみたいだ。
手に取り確認すると、ノートには俺の首から出た血が付着して固まっていた。表紙には6と書かれている、探していた5ではなかった。
前半のページに血が付いて剥がれないので、開くページから読み進めていった。
たぶん前半に初夜の感想が書かれていたのだろう。すこし残念に思いながらも、こんな目にあっても俺のエロ好奇心は衰えていない事に溜息が漏れた。
だが今は4と書かれたノートの最後に「彼女が帰ったら調べよう」と書かれていた事の方が気になっている。
奇跡的にその部分は血が付着していなかったので読むことが出来た。
「○月○日、今日はあの染みの原因を調べてみた。彼女が気づくまで解らなかった。
そして調べなければよかったと今は思う、ここのアパートに引っ越して最初の頃の臭いの原因を発見してしまったからだ。天井裏の染みの上は黒く変色し、そこに大小様々な卵の孵化した後がびっしり付着していた。そしてもう一つ白い物も見つけた。人間の赤ちゃんの頭蓋骨だ。
驚きと恐怖で一時天井裏から出てきてしまったが、もう一度行かなければ。ここまで書いた日記もそうだが、愛着のあるエロ本等を彼女に発見されては困るので、天井裏の一番端に置いた。それらを取りに行きこの部屋を出る事にする。」
この日記はまだあの部屋にあった。
つまり…戻ってくる途中で何かあったのか?
「んバぁ~」
耳の奥にあの泣き声がこびり付いている。
俺は数々のエログッズを諦める事にしよう。
作者欲求不満
文章が下手なので、お暇な時にでも読んで下さい。