"神との喧嘩"を姉貴に見せたところ、「お前の視点じゃ読者様はつまらん!」とお叱りを受けましたので、姉貴の視点からの話を書かせていただきます。
姉貴の見ている世界、姉貴の話を僕なりに纏めてみましたので、読みにくいかもしれませんがお付き合いいただけたらと思います。
以下、姉貴が僕を伴って家を飛び出す所からお話させていただきます。
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家の中が暗い。笑顔が絶えずあったはずなのに…。あぁ、そうか。私が家族の笑顔を消しているのか。
何を、しているんだろう……。
いつまでもグズグズと悩み、泣き、こうして何もせずにここにいる。これが私か?陸や翼が望むのは、こんな私ではない。こんな家庭ではない。こんな、暗い世界ではない。
彼らが生まれ、望むのは、もっと明るい世界のはずなんだ……。
「あーーー!クソッ!」
(今まで何やってたんだよ、女々しい!)
勢いよく立ち上がり、頭を掻いた。しばらく整えていなかった髪は所々が絡まり、バサバサと音を立て、指の隙間から踊る。
(行かなきゃ…)
私はバッグから車の鍵を取り出し、足早にリビングを出ようとしたが、目の前には小柄な母が立ち塞がっていた。
「愛由!どこに行くの!?」
母の予想外の行動に驚いている隙に夫に鍵を奪われた。
心配してくれていることはわかっている。ただ、いつまでもこうして腐ったままでいる気はない。
必ず帰ってくると母と夫に約束し、私はジャージ姿のまま圭を連れ家を出た。
空が暗い。これから私が何をするか、神々はわかっているのだろうか?湿気を含んだ不快な風が弱々しく私を撫でる。怖いものなどあるものか。
私はじっとりと纏わり付く風を払い除けるかのように車へ乗り込み、大社へと向かった。
駐車場に着き、圭に待つように言うが、「僕も行くよ!」と着いてくる気でいる。この子にも心配をかけてしまっていたのだと痛感した。だが、連れては行かれない。この子は神に触れさせない方がいいだろう。感受性が高く、周囲の気を惹き付けてしまう圭は、おそらく耐えられない。
「やたらに神様に触れるもんじゃないよ。いいから待ってろ」
私は圭と必ず戻ること、二十分経っても戻らない時は迎えに来ても良いという約束をして大社へと足を踏み入れた。
―――この大社には、入口が二つある。一つは正面の大鳥居。もう一つは、正式な参拝路として使う木製の渡り廊下だ。
私は渡り廊下へと進んだ。観光客などは、その見た目の荘厳さから正面の大鳥居を選びがちであり、今日に至ってはこの天気だからか人も殆ど居らず、渡り廊下は静まり返っていた。
…ギシ…ギシ…
足下の木が軋み、その歴史を感じさせる。何度こうしてここを訪れただろうか。だが、今日は今までとは目的が違う。私は、神に喧嘩を売りにきたのだから。
『本気デ行ク気カ…』
私の背中に掛けられた片言の低い声。聞き慣れた、"友人"の声は、いつになく固かった。
「行くよ。そのために来たんだから」
振り返りながら答えると、白くフサフサの体毛を纏う三尾の大狐が座り、その隣には、長い黒髪を一纏めに束ね、華奢な身体に薄桃色の着物を着た女性が佇んでいる。
『恐ロシキ女ヨ』
笑っているのか呆れているのか、この大狐の表情からは読み取れない。
「それがよくて式になったんじゃないの?螢夭。いろいろ言ってないで、行くぞ。蝶も言いたいことはあるだろうけど、とにかく行くよ」
先を急ぐ私の背後から気配が消える。どうやら観念したらしい。長い渡り廊下を抜けると、本殿が見えた。
ゆっくりと歩みを進め、本殿の前へ立つ。
「いるんでしょ?どうせ私の行動なんてお見通しなんだから、出てきてくださいよ」
私の言葉に応えるように一陣の風か吹き、私は目を閉じた。風が止み、清らかな境内の空気が更に浄化された。ゆっくりと目を開けると、そこには見慣れた紺の着物姿があった。
その姿に、溜め込んできた怒りが沸き上がる。ぶつける場所もなく、私の中に流れていた怒りは、一気に彼へと向けられた。
「翼に…何をした…」
『何もせぬ』
「あの子に何かするならば、私に向ければいいだろう!!」
『おぬしは勘違いをしておる。如何なる神も、あの子に触れてはおらぬ』
「ではなぜ翼は…!!」
大気が震える。雷鳴が轟き、その雷鳴は雨を呼んだ。打ち付ける雨の中、私は目の前の男神を睨み付ける。しかし、彼は首を横に振り穏やかに私に語りかけた。
『命は皆、天界から下り、天界へと戻る。全ては天界が授けし命でありそれらを導くは運命(さだめ)である。愛由、おぬしとて良く知っておろう』
「私の命は、龍神様に護られてこそ保たれた。ならばなぜ、その御守護を我が子にかけてくださらなかった!?私の守護など解いていただいたとしても構わない!この命が尽きようと、我が子を護りたいと思うのが親であると、なぜ汲んでいただけなかったのか!」
『運命は変えられぬ。おぬしの子に与えられた運命は、試練の道であったのだ』
握った拳が震え、噛み締めた唇から鉄の味が口の中へ広がった。私を打ち据える言葉と雨に、足が震える。
本当は、わかっていた。
ここへ来るまでの道中、龍神様が何を仰るのかなど容易に想像できた。ただ、私はずっと甘えていたのだ。神に甘え、力に甘え、ありとあらゆる全てに甘えて生きてきた。
結果、受け入れるべき我が子の姿に目を背け、こうして八つ当たりをしている。
怒りの矛先はここではない。自分自身であるはずなのに、一人で立つこともできぬ自分を認めることができない。どこにこの感情をぶつければいいのかわからない。
幼い、ただの子供だ。
それでも、我が子に試練の道を与えた神々が許せない。天界など見たこともないものに翼の運命を左右されるなんて御免だ。
悪足掻きで、くだらない八つ当たりなのはわかっていても、私は男神を睨み続けた。
―――どれくらいそうしていただろう。ぽつりぽつりと神を責める言葉を吐きながら、涙を雨で隠していると、不意に開かれた傘が目の前に差し出された。
「姉ちゃん、帰ろう」
「圭…」
この距離に近付かれても気付かないとは、私もまだまだな…。そんなことを思いながら再び男神を睨み
「運命なんて知った事か。天界が授けたのだと高らかに言うは容易いが、私がペコペコして全てを受け入れると思ってもらっちゃ困る!命あるだけで良しとするのは言い訳だ。それだけで感謝しろと言われるのは癪だ!私は翼の運命を諦めない。天界が授けた運命なんざクソ食らえ!……龍の神(神様の名前)よ、私があの世へ行ったら覚悟しろと八百万の神々へお伝え願おう」
精一杯の虚勢を張った。ただし、最後は本気だったが…。
くるりと背を向け、歩き出す。もう、気は済んだ。それに、気力も限界だ。
膝が崩れないよう、一歩一歩踏みしめて歩く私の背に
『おぬしなら、天界が授けし運命すらも変えられるやも知れぬな…』
静かな男神の声を聞いた。
「変えてやるさ。変えてあの世へ行った時は、皆、覚悟していただくから、待ってろよ」
気付けば雨は弱まり、遠くに薄雲から溢れようと輝く陽光を感じていた。
作者退会会員
早々と、第四弾を投稿させていただきます。
姉貴目線で書いたため、読みにくいかもしれませんが、よろしくお願いいたします。