僕には5歳離れた姉がいる。子供の頃から、ほとんどいじめられた記憶しかないほど気が荒く、口も悪い。"女王"なんてのは姉貴のためにある言葉だと思う。
今日は、そんな姉貴の話を聞いてもらいたい。
僕の姉貴は、俗にいう見える人。ある事件をきっかけに、僕はその力の強さを改めて思い知ったのだが、それは機会があればまたお話ししたい。
これは、姉貴の力のきっかけ…いや、原因の話だ。
姉貴の額には、うっすらと赤い痣がある。それは、言われなければ気づかない程度なんだが、姉貴がキレた時、体調が悪い時に真っ赤に浮かび上がる。僕はそれが不思議でたまらなかった。
それは、痣が龍の顔の形をしているから。目、鼻、髭まであるその痣が、なぜ姉貴にだけあるのか。子供の頃から気になって仕方がなかったが、僕が15の時。姉貴の子である甥っ子が産まれたのをきっかけに母が話してくれた。正に、姉貴の滅茶苦茶な性格の秘密に迫った気がした。
姉貴が生まれたのは、秋の終わりの11月。寒さが徐々に強くなり、冬の訪れをひしひしと感じる頃だった。
母が産気付いたのは夜8時頃。痛みの波に堪えながら、初産だった母は「こんなにも痛いのか」と泣けたらしい。そんな時、窓の外を見ていた助産師が驚きの声をあげた。
「やだ!雪が降ってる!」
母が産気付く少し前にはそんな気配もなく、また、天気予報などでも一切そんな事は言っていなかった。
そして、突如降りだしたその雪は、母の陣痛が強くなるにつれて激しくなり、姉が産声をあげる直前には、猛吹雪と化したらしい。(待ち合いで待っていた母方の祖母談)
おかげで父は母が産気付いてすぐに家を出たのに、姉が生まれる寸前(夜10時頃)に病院に着き、手が冷たすぎるからと、すぐには姉を抱かせてもらえなかったらしい。(父の笑い話になっている)
しかし、そんな雪も、姉が誕生するとピタリと止んだ。
信心深い祖母二人は、姉に何かあるのではと大いに心配した。そして、気付いた。姉の額にある龍の痣に。
赤ん坊には、30%くらいで"サーモンパッチ"という赤い痣ができることがあるらしいが、それの殆どが不明瞭な形のものであり、10歳までに90%の子供は消えるらしい。
姉のあまりにもハッキリとした痣に、祖母達は何事もなく育つことを切に祈った。
しかし、そんな祖母達の祈りも虚しく、その日眠りについた母はある夢を見た。
夢の中で母はある有名な大社の境内にいた。(僕達一族はそこの氏子)そこには巫女のような服装の美しい女性と、紺色の神主を思わせるような服装の男性がいた。二人は母に軽く会釈をし、こんなことを言ったという。
女「大事を成した後に誠にすまぬ。しかし、そなたのお子の事ゆえ、許しておくれ」
男「そなたのお子が、我等はとても気に入ってしまった。あの子は大きな力を秘めそなたの腹に宿った。しかし、その危うさと生命の強さに此の世と彼の世との神々があの子を我が物にと狙っておる。だが、我等は成長してゆくあの子とあの子の力を見てゆきたい。誠に勝手であるが、我等の印をあの子に付けさせてもらった。これで他の神々があの子を奪うことは叶わぬ」
女「しかし、我等は人々の信仰心で力を得、また保っておる。あの子を護は共にあの子を守る者の力が必要故、時おりで構わぬ。我が社へと足を運んではくれぬか」
男「誠に勝手であるが、承知してくれ」
母「でも、なぜそこまでしてくれるんですか?」
女「ふふふっ。何故であろうな。あの子が天界から下る時、久しく胸が高鳴った。数多の命の中、我が子としたいとすら思う子であったが故、であろうか」
男「気まぐれとでも思うてくれて構わぬ。あの子が意思を持ち、自が力を操る日を待っておる。健やかにあれ」
そう言うと、男女は龍に姿を変えて飛び去った所で母は目が覚めた。
そして、事ある毎に姉の力が現れるようになった。
最初は姉が出かける日(お宮参りなど参拝事や遠出など)はどんなに天気予報が雨でも晴れ間が見え、姉が癇癪を起こせば天気は崩れた。
母は、僕に話ながら「あの子は祖父母に甘やかされ、神様にまで甘やかされ、女王様に育っても仕方のない子だったのかもね。まぁ、"遺伝"しなきゃいいけど」と笑ったが、遺伝なんかしたもんだったらたまったもんじゃないと、僕は見たこともない龍神様に祈るのだった。
作者退会会員
僕の姉の話を元に書いてみました。
初めてですので、至らないところばかりかと思いますが、読んでいただけたらありがたいです。