中編5
  • 表示切替
  • 使い方

外トイレ

私が通っていた小学校は、私が通っていた頃に創立100年を迎えたくらいの歴史を持っていました。

しかし、子どもが通う場所ですので校舎はもちろん、体育館もプールも平成になってから建てられた綺麗で新しめな物でした。

話は、私が小学5年生だった頃にさかのぼります。小学生というと好奇心が旺盛なもので、当時の私たちのブームは学校の七不思議でした。

都合のいいことに、創立100年を越えるこの学校でいくつもネタは伝えられて、あるいは作られていきました。

トイレの花子さん、こっくりさん、二宮金次郎、音楽室のピアノ。今ではありきたりなこのネタも、当時の私たちは信じて恐れていました。

しかし、本当に怖かったのはそれを肯定しようと、仕掛けを施し続けていたクラスのリーダーであるYちゃんだったのかもしれません。

Yちゃんリーダーであり、いじめっこでした。

彼女の意志は絶対で、クラスみんなが彼女に従っていました。

そんな彼女が七不思議ブームを巻き起こし、広め、肯定するのですから、取り巻きはもちろんみんなが興味を持つようになったのです。

Yちゃんがトイレで花子さんを「見た」と言えば、みんなが「見た」と言う。

こっくりさんもYちゃんがあえて動かすものを周りが悲鳴をあげる。

そんなくだらないことばかりでした。

私がここまで話せるのは、Yちゃんにとって私が唯一何でも話せる親友だったからです。

彼女は人を操ることを楽しんで、私に報告していたのです。

いつかバチが当たればいい。

こんな子どもみたいなこと、大人になって黒歴史になる。

人よりませていた私はだいぶ彼女を見下していました。

しかし、彼女に逆らうこともしませんでした。

しかし、ネタもいつかは尽きてしまいます。

彼女はどうにかしようと思ったのでしょう。

今までは建てられたばかりの新しい校舎にあるもので、怖い話を作っていましたが、とうとう校庭のハズレにある外のトイレをターゲットにしたのです。

そのトイレは誰も寄り付かない、なぜ建てられたままなのかわからないものでした。

先生曰く「歴史を思わせるでしょう?」とのことでしたが、入口のドアすらない男女兼用のその木造トイレは何か寒さを感じさせていました。ちなみに個室にはドアはありますがやはり木造で立て付けもあまりよくなさそうです。

そこでの肝試しを彼女は提案しました。

時刻は放課後。まだまだ明るい時間でした。

彼女も怖かったのでしょう。

「明るいならば」と何人かのクラスメイトも集まってきました。

そこには私もいました。彼女といつも一緒に帰っていたので、付き添うことになったのです。

肝試しと言っても、トイレ自体大きいものではなく個室は6つほど、向かい合って男性用が4つほどあるだけでした。

木もだいぶ疲れているように見えて、「肝試しなんて勘弁してくれないか」と言いたげでした。

なんて、冗談を思えたのはこれっきりです。

Yちゃんをはじめとして、全員が怖い思いをすることになるとは思ってもいませんでした。

今までYちゃんが言い出す怖い話は、全て作り物で誰も直接怖い思いをしていないのですから…。

しかし、ここにいた私を含む6人全員、ナニカを見たのですがその対象が異なるのです。

私が見たのはトイレの便器から伸びるこどもの手でした。

最初に泣き出した女の子は個室のドアの上から私たちを見下ろす男の子だったそうです。

その女の子が泣き出したことで我慢をしていたクラスメイトたちも、みんな走って校舎に向かいました。もちろん、私もです。

みんながなにを見たのか報告し合う中、Yちゃんがいないことに気がつきました。

「まだトイレにいるんじゃ…」

誰かがそうつぶやいたものの、誰もトイレに戻ろうとしません。それはそうでしょう。

みんなナニカを見てしまったのですから。

それもそれはひとつではない、複数いたのです。

みんながカバンを持って走って帰っていきます。私も帰ろうか悩みましたが、やはりYちゃんがまだトイレにいる気がして、恐る恐る戻りました。

先ほどよりもやや暗くなったトイレにYちゃんは立っていました。

私はなるべく周りを見ないように、Yちゃんだけを見るようにして声をかけました。

「そ、そろそろ帰ろうよ」

Yちゃんの顔を覗き込むと、うっすら微笑んでいるYちゃんが

「ふふふ、うふふふふ」

と声を出していました。

私は彼女がおかしくなってしまったことにすぐに気がつきました。

彼女の顔から目が離せず、固まってしまいました。

「私が悪かったの、ごめんなさい」

何分か経ったのでしょうか、Yちゃんが真顔になってぼそっとそうつぶやきました。

その声にはっとした私に、すかさずYちゃんが覆いかぶさってきました。

彼女は気絶していたのです。

倒れた拍子に木造の天井を見ましたが、そこにはたくさんの顔がうようよと私を見つめていました。

その後、Yちゃんは保健室に運ばれ、何度も嘔吐を繰り返し、両親が迎えにきました。

私も送ってもらいましたが、Yちゃんは窓から外をぼんやりと見ながらずっと何かに謝っていました。

Yちゃんの両親は、すごい心配そうに彼女に話しかけていましたが全て彼女に届いていないようでした。

それから何日か、彼女は学校を休みました。

そして、あの時一緒にトイレに行ったクラスメイトたちによって外トイレの噂が立ち込めました。

私はYちゃんのあんな姿を見てしまい、なぜか罪悪感も芽生えて噂を聞くことを嫌いました。

しかし、Yちゃんが学校に復帰してから、誰もその噂を彼女に持ちかけることはしませんでした。それがリーダーに対するクラスメイトたちの態度だったのです。

それは、プライドの高い彼女を守り、それからも彼女はリーダーで居続けることができました。

さて、Yちゃんが見たものはなんだったのでしょうか。

それがわかったのは私たちが中学にあがる頃でした。

入学式前に遊んだときに、彼女が急にその話を切り出したのです。

Yちゃんは私が見たこどもの手も、ドアの上から見下ろす男の子も見たそうです。

どうやらYちゃんはあそこにいた全員が見たもの全てを目撃したそうで。

「私なんかが噂を信じさせるためにお化けにならなくても、本当にいるんだよって言われちゃったんだ」

と笑いながら言っていました。

たくさんの幽霊が、彼女がしてきたことを攻めたということなのでしょうか?

そして、なぜ彼女は笑いながら話すのでしょうか?

彼女曰く、あのトイレに幽霊がいたのではなく、幽霊として騒ぎ立てていたYちゃんに対して幽霊が姿を現すタイミングを図っていたらしいのです。

そして私は彼女を見て、とても恐ろしくなりました。

「だから、いまもここにいるんだよ、ほら」

そのとき私が見たのは、彼女の肩にちょこんと乗る、あのときのこどもの手でした。

それからもYちゃんはリーダーとして降臨し続けています。

しかし前と変わったのは、彼女が心霊現象をバカにしなくなったこと。幽霊を大切にするような言動をするようになったことです。

いつかバチがあたる。

私の彼女への期待は現実になってしまったようです。

Concrete
コメント怖い
2
11
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ

とてもおもしろかったです。読み始めるとどんどん先が気になってきますね。

返信

面白い。独特の語り口調についつい引き込まれてしまったよ…ひひ…

返信