今回は、霊感の強い友人の話をします。
名前はBとしましょう。
Bはいつもは明るくてムードメーカーキャラなのですが、急に静かになったりする落ち着かない人でした。
静かになるときはいつも、みんなには見えないナニカが見えているそうなのです。
Bは、自分が霊感の強いことを近い仲間にしか話さなかったため、事情を知らない人の中には、彼を「感情の起伏が激しい人だ」と、苦手としていた人もいたようです。
ある晩、Bの携帯に電話がかかってきました。Bは仕事のために一人暮らしをしていて、そのときは仕事疲れで早寝をしようと、ベッドに入ったタイミングでした。
番号は知らない携帯からでした。
「はい、もしもし」
知らない番号だったので、少し不審に思いつつも電話に出たそうです。
しかし電話先は無言。
間違い電話か?それともいたずら?
やめてくれよ。
そう思いながらも、もう一声かけようとしたときでした。
「君は○○Bさん。24歳。A型。出身は☆☆県」
いきなり機械的な高い声でそう言われたそうです。
Bは驚いてしまって無言に。
それは彼のプロフィールそのものだったからです。
「現住所は□□県…市」
と電話先の声は言葉を止めることなくたんたんと続けました。
もちろん、現住所もぴったりあっているのです。
この時、Bは引っ越して2ヶ月目で、近い友人にも新しい住所を教えきれていない状況でした。家族はもちろん、近い友人たちがこんなイタズラをするわけないと、思ったそうです。
「お、お前だれだよ」
相手をストーカーだと思ったBは、気味悪い相手に強気で声をかけました。
「機械みたいに声まで変えて、悪質すぎるだろ!」
現住所を言ったあとから無言になっていた電話の向こうでは、少しノイズのようなざーっという音がしていたそうです。
しかし、急に
「あなたって美味しそうだね」
と今までよりも数倍大きな声で返されたのです。
この時、Bは相手が人間でないことに気がついたそうです。
慌てて電話を切ったBは、玄関の鍵を確認して、部屋の隅に塩を盛ったそうです。
そして、部屋中の灯りをつけて布団をかぶりました。
その時、また電話が鳴りました。
先ほどと同じ番号でした。
もちろんBは出るつもりはありませんでしたが、何故か通話画面に切り替わりました。
しかもいつの間にか、スピーカーモードになっているのです。
「あなたって美味しそうだね」
またあの機械のような声でした。
「あなたのこと、食べたいなあ」
Bはすぐに電話を切って、電話帳を開きました。
かけた相手は、仕事の友人。
彼が今の部屋に唯一招き入れたことがある人でした。彼はCとしますね。
Cは仕事帰りに食事をして、電車を降りたところだったようで、Bの家の最寄りから1駅離れたところにいました。
Bはすぐに彼を呼び、Cは興奮したBを察したのかこっちに向かってくれることになったそうです。
BはCが来てくれる安堵感と、また電話が鳴るんじゃないかという恐怖から、何度も吐き気に襲われていました。
その期待に答えるかのように電話が鳴り、やはりすぐに通話画面に切り替わりました。
「早く食べたい。
待っててね」
今度は向こうが電話を切りました。
Bは、喰われる。喰われるんだ。と腰が抜けてしまったそうです。
その時、つけていたはずの電気のひとつが消えていたことに気がつきました。
枕元の小さなランプだけが、消えていたのです。
そしてそれに気がついた瞬間、廊下の電気がプツリと消えました。
何かのカウントダウンのように、少しずつ電気が消えて行きます。
Bは、腰が抜けてしまっていて放心状態、正しく言えば、この時もう諦めていたそうです。
全ての電気が消えたとき、後ろに何かがいると感じたそうです。
「俺、美味しくないよ?」
振り返ることはせずに、Bは呟きました。
後ろの気配は少しずつ大きくなっていくように感じました。
その時、玄関が強い音を立ててあきました。
Cがバタバタと部屋に入って来ます。
「B、大丈夫か!?
鍵をかけろよ!」
部屋の電気をつけながら、Cは呆れ半分、心配半分でBに話しかけました。
もちろん、Bは玄関の鍵も確認しましたし電気だってつけていました。
しかし、そんな反論が出来ないくらい震えあがっていたBは、Cに抱きついて泣いたそうです。
そこから全ての成り行きを説明しました。
Cも部屋を見渡しながら震えていましたが、Cが来てからは電話も鳴らなければBが感じる霊的なナニカもなかったそうです。
あとから電話の履歴を見ると、文字化けした着信履歴が残っていたそうです。
Cがきて助かったのか、と言われれば、Bいわくそんなこともないようでした。
そんなことがあってから、会社や電車、スーパーや旅行先で同じ女性を見かけるそうです。
でも彼女からは幽霊の匂いはしないらしくて。
だから最初は、Bも近所の人なのかな?程度の認識だったらしいのですが、さすがに旅行先でも見かけてしまうとそれを偶然だとは捉えられなくなったそうです。
そして、それを察したかのように、すれ違い様にその女性が「美味しそうだね」とBに耳打ちしたそうです。
その時は恐ろしくなったそうですが、あの夜のような出来事は一回きりで、それからは起こっていないと言います。
B自体、まだ元気に生活していますが、私としては、いきなりいなくならないか不安で仕方なかったりします。以上です。
作者sia