暗い、暗い草の上で踞っていた。
高すぎる天井と草の下の冷たい土が
心細い僕の心をさらにさらに寂しくさせる。
自分の体よりも分厚い扉が、ぎぎーっと重たい音をあげながら開くと、入ってきた大男が僕を見下す。
「腹が減った、綺麗な水が飲みたい」
異様なほどの体型の大男はその言葉に耳を傾けることもせず、どこかから取ってきた雑草を僕に放り投げた。
僕の下に敷かれている草よりも少しだけ新鮮なそれに僕は貪りついた。
食べながら泣いた。
自由になりたい。こんな冷たいところにいたくない。
僕の他にもこんな境遇の者はいるのだろうか。暗い部屋を見渡してみるがやはり誰もいなさそうだ。
しかし、あの暑い扉の向こうには誰かがいる気がする。きっと僕のように扱われている者だろう。
日付が変わって外が少しだけ明るくなった。
一面だけ金網で作られた壁に、毎日いろんな人が群がってくる。
みんなみんな、僕を珍しそうに見ている。
いつも近くに立ってる大男に「あれはなにをしてるのだ」と尋ねている。
僕は、閉じ込められているんだ。
助けてくれ。
何度唱えただろう。
何度泣いただろう。
ある夜、少しだけ開いた扉を押して外に出た。
風は入ってきていたはずなのに、今の方がずっと優しく撫でやかだった。
僕は高い柵をきりぬけて、月明かりが柔らかい夜道を一目散に走った。
ここはどこなのかわからない。
ずっと狭いところに閉じ込められていたからだろうか、とても息が切れる。
以前はこんなにすぐに疲れなかったのに。
まだ、少ししか進んでいないのに。
こんなことになったのは、全部あの女のせいだ。
あの女が変に借金なんて作らなければ、僕はあんなところで見世物にならずに済んだのに。
僕はとうとう足を止めた。
疲れてもう進む気力がなかった。
腹も減っているし、足が走ることに慣れていなかった。
「兎、兎が逃げたらしい」
後ろから大きな男の声がする。
僕が逃げたのがばれたらしい。
僕は前足を踏み出した。
…前足を?
僕は真っ暗で見えなかった自分の手を、月明かりで見た。
それは、僕の手ではなかった。
人間の手のひらではない。
ふさふさと毛の生えた、柔らかい手だった。
兎の前足のような。
にゃーあ。
ふと顔をあげると、そこには自分よりも大きな猫がいた。
にゃあではなく、いただきます。のようにも聞こえた。
僕は後ろから忍び寄る大男に向かって走り出した。
作者sia
解釈は各々によりますが、私はの場合は2通りです。