俺は梶原勇哉25歳。ただの悪霊祓いだ。
さっき神社の神主を名乗る者から依頼が入った。
何やら祀っている稲荷神が巫女さんに取り憑いてしまい、どうしても祓うことができないとのこと。
まず俺は神と名のつくものを全く信じない。そもそも稲荷神というものは稲の豊作やらなんやらに関係していると思うのだが、稲荷神がいない地域となんら変わりはないだろう。
誰か統計をとって調べてみるがいい。
とにかく金になるならどこだって行く。
何故って?
金は俺を裏切らないからだ。
自転車で走ること4時間半。目的地の神社へと到着した。
「お待ちしておりました」
スーツを着た初老の男が丁寧に出迎えてくれた。
神社の境内を案内されるのかと思ったら、そこから少し離れた小さな小屋に連れていかれた。
「キィー」
初老の男が小屋のドアをゆっくり開ける。小屋の中には巫女さんが一人ポツンと立っていた。
「それではよろしくお願いします。後ほど迎えに参ります。」
初老の男はそういって俺が小屋の中に入るのを見届けてドアを閉めた。しかも厳重に鍵を掛けたようだ。
俺はゆっくりと巫女さんに近づく。巫女さんは無表情のまま着ている服を脱ぎ出し、あっという間に裸になった。
俺はそんなことでは驚きはしない。取り憑かれている者が突拍子もないことをやることは熟知していた。
俺は巫女の裸を隅々まで確認した。凶器を持っている可能性があるからだ。透き通るような白い肌。張りのある胸。ちょうど良くくびれた腰。俺を誘うような妖艶な表情。
間違いない、巫女さんは取り憑かれている。俺には確信があった。なぜなら俺を裸で誘う女性を今まで見たことがなかったからだ。
俺はジャケットの瓶を取ろうと思ったが、いつの間にか巫女さんに上半身を裸にされていることに気付いた。巫女さんはいきなり俺に抱きついてきた。
巫女さんの柔らかい感触が、俺の理性を遥か遠くへ投げ飛ばそうとしていた。
「ザク」
左腕に激痛が走った。あまりの痛さに膝をつく。巫女さんは俺を見下ろして笑っている。
左腕には俺の三倍くらいでかい狐が腕に噛み付いていた。
激痛にたえながら、ジャケットが置いてあるところに手を伸ばす。
「ふぐっ!」
思わず声が出てしまった。狐の化け物がもう一匹いて、俺の上に乗っかってきたのだ。歯を剥き出しにして俺を威嚇している。
巫女さんが笑いながら倒れている俺に近づいてきた。顔は狐のように変形している。
この状況を見たら十中八九が絶対絶命と言うだろう。だがそれは逆で、俺にとったら仕事がし易くなっただけのこと。
なぜなら狐二匹は俺に触っているからだ。
俺はゆっくり右手を天に向かって伸ばした。
これをやると体力の消耗が激しいのであまりやりたくはなかったが仕方ない。
狐が二匹とも上を見上げた。
天井は光輝きだし、小屋の中を明るく照らしだす。
これが俺の本当の役目。悪霊を強制成仏させる。
狐どもはみるみる小さくなり、光の中に吸い込まれて行った。そして俺は巫女さんの体を抱きしめた。巫女さんの顔は元に戻っている。顔を見る限りでは俺より年下で、かなり可愛い。巫女さんは俺の腕の中で静かに震えていた。
「怖かったかい?もう大丈夫。俺がいつでもあんたを守ってやるから安心しな」
完全にきまった。巫女さんは目をうるうるさせながら俺を見つめてくる。
その時小屋のドアが開いた。さっきの初老の男が入ってきた。
「あなた!」
巫女さんはそう叫び、初老の男に抱きついた。
「怖い思いをさせてすまなかった。けどもう大丈夫!」
巫女さんと初老は熱く抱擁し合い、濃厚なキスをした後、床に札束を置いて出て行った。
もちろん俺はその場からしばらく動けなかった。
悔しい訳ではない。
勝負にすらなっていなかったのだから。
作者悪霊祓い
友人の霊能力者の話です。
人生うまくいかないことだらけ。それをあの人は体を張って教えてくれます。
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